何をした?柚希さん
その日の夜。風呂上がりに、オリガミから報告があった。
『お兄様。藤崎柚希からの依頼ですが、分析結果を送信しておきました。』
「ありがとう。何か返事はあった?」
『新たな調査依頼が届きました。今後も継続的に依頼を出すので、その報酬として早瀬さんを自由に使って良いとのことです。早瀬さんに直接つながる連絡先も送られてきています。』
「早瀬?誰だったっけ?」
『千穂さんの護衛をされていた方です。とても真面目で優秀な方ですよ。藤崎柚希の部下ですが。』
なぜ、そんな優秀な人を?俺は疑問に思い聞いてみた。
「そんな優秀な人をこちらに回してくれたのか?」
『そうですね……ここからは私の推測になりますが。』
『藤崎柚希は、お兄様が私のような存在――高い処理能力を持つAIを所持していることに、気づいている様子があります。』
そこまでバレてるの?俺たち、ボロだしてないよな?恐ろしい洞察能力だな。
『どのような判断があったかは分かりませんが、こちらに深入りしすぎず、私の秘密が漏れないようサポートする方針にしたのだと思われます。』
『今後は利用できるものは利用する、というスタンスで、私の処理能力を自分の仕事に活用するつもりのようです。実際、今回の調査依頼は経営判断に関わる、かなり重要な内容です。』
深入りされないのは、正直助かる。それに、オリガミの処理能力を考えれば、柚希さんからの依頼も大した負担にはならないはずだ。
普通のコンピューターなら何年もかかるような膨大な計算や分析も、オリガミなら短時間で終わってしまう。そんな調査結果がすぐに手に入るなら、経営面で大きなアドバンテージになるのは間違いない。
それで、その見返りとして、俺が欲している女性護衛という人材の提供を、柚希さんは提案してきたのか。
俺は感心してしまった。
「なるほどなあ。さすが、柚希さん。こちらから出せるものも、こちらが欲っしているものも、よく分かってる」
『よいこ軍団』は千穂やネムの護衛には使えない。だって、元半グレだし。逆に、心配になる。
早瀬さんのような女性護衛がいてくれると、危機感が薄い千穂やネムも安心だ。俺の心配事を減らしてくれる、本当にありがたい存在なのだ。
最後に、オリガミにしては珍しく、苦々しく感じる口調で付け加えた。
『本当に抜け目のない人です。』
オリガミって、柚希さんにだけ、どこか当たり強いよね。ライバル心でもあるのかな?
※※※
そういえば、早瀬さんにはまだ一度も直接会ったことがなかったな。
千穂やネムの護衛として、これからも何かとお世話になる可能性が高い。どんな人なのか、きちんと顔を合わせて話しておかないと。
特に、千穂やネムの安全を任せる以上、信頼できる人物かどうか自分の目で確かめておきたい。
そうとなれば、さっさと済ませてしまおう。
「オリガミ、早瀬さんに、明日一度会えないか都合を聞いてみてくれない?できれば直接話してみたいんだ。」
『はい、そのように伝えておきますね。』
「あと、もし可能なら、帰りに学校まで迎えに来てもらえるようにお願いしてくれる?正直、千穂が言ってた高級車に一度乗ってみたいんだよね」
『承知しました、お兄様。早瀬さんにその旨も含めて連絡いたします。』
オリガミが連絡を取ってくれてから、ものの数分もしないうちに、早瀬さんから「明日、学校までお迎えにあがります」と丁寧な返事が届いた。
返信の早さと、こちらの要望に即座に応えてくれる柔軟さに、思わず感心してしまった。こういう人が『できる人』ってやつなんだろうなあ。
※※※
翌日の朝、登校の道すがら、俺は千穂と並んで歩きながら、放課後に早瀬さんと会う予定があることを伝えた。
「今日の放課後なんだけど、早瀬さんと会う約束をしたんだ」
千穂は少し驚いたように目を丸くした。
「え?早瀬さんと会うの?どうして?」
「うん。実は、今まで直接会ったことがなかったし、これからも色々とお世話になると思うから、一度ちゃんと顔を合わせて話しておきたいなって思ってさ。また、千穂やネムの護衛もお願いしたいし、信頼できる人か自分の目で確かめておきたいんだ」
千穂は少し考え込むように黙り込んだ後、遠慮がちに口を開いた。
「……私も一緒に行っていいかな?また早瀬さんとお話ししたいし、もし迷惑じゃなければ……」
俺は一瞬考えてから、頷いた。
「もちろんだよ。俺は早瀬さんとはまだ会ったことがないし、千穂が一緒に来てくれるなら助かるよ。放課後、学校まで迎えに来てくれるって言ってくれてるから、一緒に行こう」
千穂は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。早瀬さんに会えるの、楽しみ」
早瀬さん、相当、千穂に好かれてるな。やりおる。
※※※
放課後、千穂と一緒に校門へ向かう。千穂が早瀬さんに連絡してくれて、車を校門までつけてくれることになった。
俺たちが校門に着くと、ピカピカの黒塗りの車が停まっていた。
帰宅中の生徒たちがざわざわしている。
「うわー、またあの黒塗りの車が止まってるよ。」
「誰かの護衛なんでしょ?」
「前に聞いた話だと、三年の女子の護衛らしいよ。大金持ちの社長の婚約者なんだって。」
正しいような、ちょっと違うような。
※※※
車に近づくと、黒いパンツスーツを着たスレンダーな女性が運転席から降りてきた。身長は俺より少し低いくらい。足が長くてモデルみたいで、まさに『できる護衛』という雰囲気だ。
彼女は千穂の隣にいる俺を見つけると、90度のお辞儀をした。
「藤崎正太郎様!お初にお目にかかります、早瀬と申します!」
声が大きい。やめてほしい。周囲の生徒たちが目を丸くしている。そして、ぼそぼそと噂話を交わす。
「え?藤崎正太郎って、噂のドールハウスの?」
「ってことは、あの冴えない感じの人が大金持ちなの?隣の可愛い子の婚約者?」
こっちに、全部聞こえてるんだが。冴えない感じとか言うなよ。悲しくなるだろう。
※※※
これ以上目立ちたくない。俺は慌てて言った。
「そ、そんなにかしこまらなくて大丈夫です。あと、もう少し声を控えめにお願いします。」
「す、すみません。緊張してしまって……」
「ここは目立つので、場所を移動しましょう。千穂、先に乗って。」
千穂を見ると、くねくねしていた。
「婚約者だって……えへへへ……」
どうやら、周りの生徒の噂話が聞こえたらしい。
俺は、我を忘れている千穂を車に促す。なんで俺の周りの女の子は、トリップしてしまう子ばかりなんだ。
※※※
車の中で、早瀬さんは再度謝ってきた。
「本当にすみません。藤崎顧問に、くれぐれも失礼のないようにと言われていて、緊張してしまいました。」
「気持ち分かります。柚希さんにそう言われたら、緊張しますよね。」
柚希さんは怖い。昔はただ優しい人だと思っていたけど、最近はその怖さも分かるようになってきた。矛盾してるかもしれないけど、ほんわかした圧があるんだよね、あの人。
「じゃあ、もう一人紹介したい人がいるので、家でお話しさせていただいてもいいですか?」
「はい、もちろんです。では、正太郎様のご自宅へ向かわせていただきます」
そう言って、早瀬さんは車を発進させた。
すーっと滑らかに、音もなく車は動き出す。ブロロ…とうるさいうちのキャンピングカーとは大違いだ。うちはディーゼル車だから仕方ないけど。
高級車ってすごい。静かで、まるで移動していないみたいだ。
※※※
俺が車内をキョロキョロしながら感心していると、まだ緊張している様子の早瀬さんに、千穂が声をかけた。
「早瀬さん、大丈夫ですよ。しょうちゃん優しいですから」
そんな千穂の声に早瀬さんが答えた。
「そ、そのようですね……わ、私、藤崎の姓を見ると緊張しちゃうんです」
柚希さん……あなた一体、早瀬さんに何をしたんですか……
美人護衛とか羨ましいと思う方は、【ブックマーク】と【下の評価 ★★★★★】をお願いします。




