正太郎、チヤホヤされる
ある日の登校前の時間。あくびを噛み殺しながら、トーストをかじってたときの事だ。
「うおーい、おはよー、しょうたろー」
ネムがゾンビのようにふらふらとリビングに入ってくる。この時間のネムは、いつも目の下にクマを作り、髪もボサボサだ。
「ネム、また徹夜?ほどほどにしとけよ?」
「今から寝るから大丈夫だよ。それはそうと、正太郎。そろそろ研究所の拡張考えないとやばいぞ。オリガミのニューラルネットワーク、どんどん大きくなってる」
「やっぱり?オリガミタンク、増えてるもんな」
『よいこ軍団』関連で寄り道してたため、研究所建設の方は手を付けてなかった。そろそろ、対応しなければならない。
「あの研究室じゃ、これ以上タンクの拡張は無理だな。工事のときはサーバーラックか何かでオリガミタンクを囲って、オリガミを隠さないと駄目だし。ある程度のスペースは残しておかないと」
「第一、今のタンクの仕様だと水平方向にしかオリガミタンクを拡張できないのが問題なんだ。上にも重ねていけるようにタンクを改良した方が良い。でも、それやるとなると、クリーンルームが必要だ。何にせよ、研究所を早く作らないと駄目だ」
「わかったわかった。研究所建設の方、急ぐよ」
どうやら、これからも慌ただしい日々が続きそうだ。全部片付いたら、思いっきりバカンスとか行きたいな。
※※※
そんなことをネムと話した後、俺は千穂と一緒に学校へ向かった。
千穂もご近所さんなので、これからのことを伝えておく。
「研究室を広げなきゃいけなくなったんだ。でも、研究室自体は動かせないから、できれば区画全体の土地を買いたいんだよね。これからこの辺、ちょっと騒がしくなるかもしれないけど、ごめんな」
「え?それって私の家も入ってるの?」
「千穂の家は区画が違うから大丈夫。でも、これから同じ区画の人たちにはお願いしなきゃいけないんだ。どうしても嫌だって言うなら、そこだけ避けて研究所作るけど」
「大変そうだね……」
「そうなんだよ……気が重い……」
※※※
教室に着き、自分の席に座る。
今までもなんとかやってきたし、これからもうまくやれるだろう。土地の買収、何回くらい土下座すれば済むかなあ。
そんなことを考えながら窓の外をぼーっと眺めていたら、ふと思い出した。
あ、そうだ。委員長にオリ男のサイン色紙頼まれてたんだった。準備して、1週間くらいカバンの中に入れっぱなしだった。約束は守らないとな。
俺は委員長の席に向かい、友人と話していた彼女に声をかけた。
「委員長、ちょっといい?オリ男のサイン持ってきたよ」
「えっ!本当!?」
「ああ。はい、これ」
「あ、ありがとう……ほ、本物だ……うれしい!うれしいよぉ!」
委員長はバッと俺を抱きしめてきた。この子は、嬉しいと人を抱きしめる癖があるのかもしれない。役得だ。なんかいい匂いがするし、柔らかいし……
その柔らかさを堪能していると、後ろからダダダッと走ってくる音が聞こえた。
千穂だった。
「だめ!!!」
委員長の手を引き離して、俺の頭を自分の胸に抱きしめる千穂。
「ご、ごめんね!千穂!またやっちゃった!わざとじゃないんだ!つい嬉しくて!」
委員長は慌てて弁解するが、千穂は俺の頭をギュッと抱きしめ、上目遣いで委員長を警戒している。
そんな中、俺は抵抗せずにその状況を受け入れる。千穂の匂いがする。クンカクンカ。幸せ。
あれ?なんか、この流れ前もやったような気がする。でも問題ない。いいぞ、もっとやれ。
※※※
俺が千穂のなすがままになっていると、委員長の友達が声をかけてきた。
「ね、ねえ?藤崎くんにお願いしたら、ドールハウスのVTuberのサイン色紙ももらえるの?」
俺は千穂の温かみを感じながら答える。
「ん?転売とかしなければいいぞ?」
この前、サインペンをセットすると自動でサインを書いてくれるペンプロッターっていう機械を買ったんだよね。あれをオリガミにコントロールしてもらえば、いくらでもサイン色紙は作れる。
オリ男だけは俺が書いてるけど。なんとなく。
「じゃあ、私、アユ美さんの色紙、お願いできないかな?」
「私!タイ子さんの色紙、お願いします!」
俺は千穂の匂いを味わいながら考える。うん、別に問題ないよな。オリガミも何も言わないし。
「いいよ」
「「キャー!!!ありがとう!」」
そんな声を聞いた千穂は、俺の頭をさらに強くギュッとしてくる。その時、俺は気づいてしまった。千穂……また大きくなってるな……。すばらしい……
サイン色紙を配れば女の子にチヤホヤされ、千穂に抱きしめられる。俺は、妙な学習をしてしまっていた。
※※※
正太郎が、女の子たちに囲まれて、わいわいと盛り上がっているときのこと。教室の隅には、何人かの男子が集まって話していた。そこには、なんとも言えない微妙な空気が流れていた。
「なあ、藤崎、最近モテてないか?」
男子の一人が、少し羨ましそうに俺の方を見ながら言う。
「そうだよな。うらやましい」
別の男子も同意し、ため息をつく。
「やっぱり金なのか?金。俺も金持ちになりたいわ」
「それな。世の中不公平だよな」
机に肘をつき、ぼやくように呟く。
そんな男子たちの会話が、女の子たちの耳にも届いたのだろう。彼女たちは顔をしかめて、男子グループの方へと歩み寄る。
「あんたら、何言ってんの?」
一人の女の子が、やや呆れたような声で割り込んできた。
「藤崎くん、最近なんか自信ありげだし、姿勢もよくなってる。たぶん体も鍛えてるでしょ?かっこよくなってるじゃん。」
「それに、成功しても鼻にかけないし。冤罪で無視されてても、気にしてないくらいメンタル強いし。ずっと千穂一筋だし。モテるに決まってるでしょ?」
「それに、もともと学校の成績もよかったでしょ?……ヤバッ!そう考えると、ありえないぐらいの超優良物件じゃん!」
彼女たちは顔を見合わせ、息を合わせてこう言った。
「「ち、千穂いいなあ」」
そんな女子たちの話を聞いていた男子たちだったが、納得できない様子で口を尖らせて反論した。
「そ、そうだけどさ。去年あいつ見たときは、本当にただの陰キャだったぜ?」
「だからその陽キャ陰キャとか、そういう考え方してるのが、モテない原因なんじゃないの?」
「ぐっ!た、たしかに……」
男子たちは何も言い返せなかった。
※※※
その後、委員長たちや千穂から離れ、自分の席に戻ってくる。やっぱり、にぎやかなのは、あんまり得意じゃないな。そのとき、骨伝導イヤホンからオリガミの声が聞こえてきた。
そして、突然、こんなことを言われた。
『お兄様はモテるらしいですよ?』
「ん?俺がモテる?」
『さきほど、お兄様のクラスメイトが話していました。』
「へー、そうなんだ。チヤホヤされるのは気分いいな。まあ、お金持ってるからモテるんだろうけど」
正太郎の人間不信はまだ治っていなかった。
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