「よいこ化計画」完了
俺は舞台上で声を張り上げる。三十人の元半グレたちが、舞台下で直立不動の姿勢で待機している。
「右向け、右!」
俺の号令と同時に、一同が一斉に右を向いた。その動きはまったく乱れがなく、まるで一つの生き物のように統一されていた。
「左向け、左!」
一同が左を向いた。こちらも完璧だ。
「回れ右!」
今度は回れ右の号令だ。一同が一斉に回れ右を実行する。以前の彼らからは想像もできない変化だった。
「停止!」
一同はピタリと動きを止めた。全員が同じタイミングで静止する。
「円形陣形に移行!」
さらに俺は、難易度の高い指示を出してみる。一同は即座に動き出し、三十人が見事な連携で完璧な円形を形成した。
「見事だ!よいこに育ったな!」
※※※
ここから俺は、彼らに向けて仕上げの演説を始める。舞台上から、全員の顔をしっかりと見渡しながら、叫んだ。
「お前らはクズだった!人に迷惑をかけるだけのクズだった!」
「だが、この『よいこ保育園』で少しだけマシになった!」
「それを俺は誇りに思う!」
「しかしだ!お前らが犯してきた罪は消えない!」
「お前らだけじゃ、その罪は何をやっても消えない!」
「そして被害者もお前らの謝罪なんて望んでいない!」
「だからだ!だから、お前らは俺のために働け!」
「俺の『よいこ軍団』の一員として働け!」
「そうすれば!俺が、代わりに被害者たちの心のケアを約束しよう!」
「それが、お前らができる!被害者への唯一の償いだ!」
「俺に従え!お前らの罪!俺が背負ってやる!」
「俺に従うものは雄叫びをあげろ!!!」
俺の言葉に、三十人全員が一斉に拳を突き上げ、魂の叫びを上げる。
「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」」」」」
俺はさらに煽るように問いかける。まだまだ足りない、もっと本気を見せろと。
「そんなもんか!?そんなもんなのかお前らの気持ちは!?その程度なのか!?」
再び、今度はさらに大きな声で、全員が雄叫びを上げる。
「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」」」」」」
「素晴らしい……お前ら三十名、『よいこ軍団』への入団を許可する」
「あと、俺のことはお兄様じゃなくて、団長と呼べ。わかったな?」
「団長!団長!団長!団長!団長、万歳!団長、万歳!団長、万歳!」
「よろしい。では、保母ガミ、あとは頼む」
『はい、お兄様。』
※※※
舞台裏に下がった俺は、達成感と高揚感で思わず深いため息をつく。
はああああ……気持ちよかったぁ……なにこれ、新しい扉を開いちゃったかも。
オリガミはそんな俺の様子を見たのか、嬉しそうに声をかけてくる。
『お兄様、流石です!扇動者としての素質もあるのですね!』
一方、ネムはその場でプルプルと震え始めていた。顔がみるみる紅潮していく。どうやら、例の発作が出そうになっているようだ。
いかん!ここで発作したら、よいこ軍団に聞かれてしまう!
俺は慌ててオリガミに指示を出す。
「オリガミ!ネムの発作、相殺して!」
『はい、お兄様。』
オリガミは即座に反応し、ネムの発作による声を打ち消すため、逆位相の音波をネムの声帯に照射した。
「__________________!!!」
(おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡き、聞こえてくるぅ……!汚れきった半グレの脳が、超AIによって洗浄される音ォ……!!!)
ああああ、もったいない……
くそっ!久しぶりのネムのオホ声だったのに!動画を撮れなかったじゃないか!
※※※
『よいこ保育園』での仕上げから数日が経ったある朝。自宅のベッドで目を覚まし、体を起こすと、部屋にオリガミの声が響いた。
『お兄様、おはようございます。何件か報告があります。』
「おはよう。報告?なに?」
『まず一つ目です。警備会社『株式会社よいこ警備保障』の設立を完了しました。代表はお兄様です。ネムさんは役員になるのを拒否されたので、この会社はお兄様だけのものですね。』
『よいこ軍団から十名を選び、社員として登録しております。現在は、私が訓練の指示を行っておりますが、やはり専門家に指導をお願いしたいですね。警察OBなどが望ましいです。』
『よいこ軍団の面々は普通ではないので、できればお兄様に恩を感じているような、本当に信頼できる人がいいですね。気に留めておいて下さい。』
「警察OBね。分かったよ」
俺は天井を見上げて小さく息をつく。どこにいったら、そんな人に知り合えるんだろ?あまり、叔父さんたちには頼りたくないし。
そうそう、これだけは伝えておかないと。
「警備会社の事務所は近所に頼む。ネムや千穂に何かあったときに、すぐによいこ軍団を展開できるようにしたい」
『承知しております。既にいくつかの物件候補をピックアップしております。』
それなら安心だ。さすがオリガミ。抜かり無い。
『次に二つ目、よいこ軍団の残り二十人ですが、海外の民間軍事教練施設での教育を開始しております。皆に、簡易オリガミ端末を持たせておりますので、逃亡などはないでしょう。』
「オーケー。了解した。そこは任せる」
『承知いたしました。最後の報告です。ホワイトプロダクションの解散手続きを完了いたしました。VTuberの権利関連は、VTuberの各員に戻しました。継続してVTuberをやりたいと考えている方には、ドールハウスへの移籍を提案済です。既に、ほとんどの方が承諾しております。』
「彼女たちのメンタルケアもよろしく頼むな。半グレどもに脅されてたやつがほとんどなんだろ?」
『はい。私が話して、必要ならばカウンセラーを紹介しております。金銭的な保証も段階的に行っていく予定です。』
こうして、面倒な手続きが、俺の手を離れてどんどん進んでいった。
※※※
『「よいこ化計画」および「自動更生箱庭計画」の両計画が目標レベルに達したと判断しました。以上をもって全作戦を完了といたします。お兄様、本当にお疲れさまでした。』
「ああ、オリガミも本当にお疲れ様。今回のは大変だったな……。これでようやく一息つける気がするよ」
ようやく物理的にも、自分たちの身を自分たちで守るための手段を手に入れたわけだ。
「さあて、これでようやくオリガミの成長に集中できるな!」
さあ、次はオリガミタンクをさらに大きくするためのスペース確保だ!
ご近所さんに、土下座しないと駄目だろうなあ……
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