「よいこ軍団」誕生
重労働だった「よいこ保育園」開園手続きから家に帰り、一息ついた時のこと。
俺は考えていたことを、オリガミに話した。
「ところで、半グレのプロダクションのVTuberで、移籍希望者がいれば、ドールハウスで受け入れようと思うんだけど、どう思う?」
『良い案だと思います。ドールハウスは今のところ「中の人」がいませんし、実際の中の人と関わることで新しい発見もあるでしょう。ちゃんとしたVTuber事務所としての体裁も整えられると思います。』
「やっぱりそうだよな。中の人が全くいないのは、事務所としてちょっと不自然だったし」
『これで事務所同士のコラボもやりやすくなります。案件周りでVTuber本人をスポンサー会議に出せますので、スポンサー案件も増やせます。さらに収益も増えるでしょう。』
うんうん、やっぱりそうだよな。でも、本人たちの意思は尊重しないと。
「ただし、あくまで希望者だけな。やめたい人は無理に残さなくていいから。あと、全員に半グレに受けた心のケアも手配してくれ。費用は、半グレどもの人生で払ってもらおう」
『承知しました。そのようにホワイトプロダクション所属のVTuberに連絡します。』
※※※
『ただ、実際に関わった高橋さんとその彼女さんには、お兄様から連絡された方が良いのでは?』
「たしかに。まだホテルに避難中だもんな。早く教えてあげないと、かわいそうだ」
危なかった。高橋さんのこと、半分忘れてた。ずっとホテル暮らしさせるところだった。色々ありすぎなんだよ最近は。
連中は、「よいこ保育園」に入園済みだ。脅されていた高橋さんも、そのVTuberの彼女さんも、もう自由だ。
※※※
オリガミから指摘されたそのすぐ後、俺は高橋さんに連絡した。
「もう帰宅されて大丈夫ですよ。自室にある盗聴器も外して大丈夫です。連中が高橋さんたちに迷惑をかけることはありません」
「そ、そうなんですか?」
「はい、安心してください。連中はもう東京にいませんし、これからホワイトプロダクションも消えますので」
「よ、良かった……本当にありがとうございます!」
「いえいえ。ご協力ありがとうございました。そういえば、高橋さんの彼女さん、VTuberとしての活動は続けられますか?」
「そうみたいです。リスナーさんたちもいるし、できれば続けたいと言っていますが……」
「じゃあ、ドールハウスに移籍されませんか?」
「ただ、権利とかもホワイトプロダクションに持っていかれちゃいまして……」
「それは安心してください。ホワイトプロダクションは解散させます。権利も各自に戻るようにします。プロダクション所属でVTuberを継続されたい方は、ドールハウスが受け入れる方針です」
高橋さんは、感嘆したような声で俺に言った。
「すごいですね……藤崎さんって、いったい何者なんですか?」
「え?ただの高校生ですね」
「ただの高校生……大学進学はされるんですか?」
「大学進学ですか?考えたこともなかったですね。多分高卒でこのままドールハウスの社長としてやっていきます」
「そうですよね。社長さんですもんね。大学なんて進学する必要ないですね。ネム先生といい藤崎さんといい、天才っているもんなんですね……」
「て、天才ですか?」
「いやー、どう考えても天才ですよ。一応最高学府と言われる東応大学でも、あなた方のような人はいませんよ。お二人とも十八歳ですよね?世の中は広いですね……」
そんなことを話して、通話を終了させた。
高橋さんたちはホテルを引き払って、すぐに帰宅するらしい。でも、さすがにすぐに引っ越すらしい。新居では同棲するとのこと。甘々ですね。
※※※
オリガミに言った。
「なあ、オリガミ、俺天才なんだってさ?」
『お兄様は天才だと思いますよ。だって私を作ったんですから。天才に決まってるじゃないですか。』
「半分は父さんだけどな」
『たとえそうだとしても半分はお兄様です。お兄様は天才です。』
オリガミは誇らしげな声で言った。
でも、俺にはどうしても天才っていう言葉がしっくりこなかった。
対象が『折り紙』だからなあ……『折り紙』の天才って言われてもなあ……
※※※
それから一ヶ月と少しが経過した。
それは土曜日の朝のことだった。休日の朝の寝起きのぼーっとした頭にオリガミの声が響いた。
『半グレ達の更生、完了しました。お兄様、一度「よいこ保育園」までご足労いただけますでしょうか?』
※※※
四十日ぶりくらいに、俺はネムを連れて『よいこ保育園』へと足を運んでいた。久しぶりの訪問だ。ネムも俺の隣で、少し緊張した様子だ。
今日は、ここで元半グレたちの前に俺が姿を現し、彼らに自分の威光を示す、いわば『お披露目』の儀式が行われる予定だ。オリガミが更生プログラムを完了させたというが、実際にどれほどの変化があったのか、自分の目で確かめる必要がある。
ネムは不安げな声で、オリガミに語りかけた。
「な、なあ?本当に大丈夫なんだろうな?正太郎、ボコボコにされたりしないか?」
オリガミが、すぐに涼やかな声でネムの問いに答えた。
『問題ありません。皆、お兄様の信奉者となっております。もし万が一がありましても、前庭砲がありますので。』
俺は自分の体を見下ろし、不安げにネムに尋ねる。
「ね、ネム?俺、大丈夫か?足とかプルプルしてないか?背中、丸まってないか?」
ネムは両手でグーを作り、前のめりになって、俺を励ますように言う。
「だ、大丈夫だぞ!正太郎!いつものふてぶてしい正太郎だ!安心しろ!」
本当は、俺も行きたくない。正直、怖い。
だが、せっかくオリガミがここまでやってくれたのだ。自分の目で、どれほどの成果が出ているのか確かめたほうがいいだろう。
※※※
この場では、オリガミは「保母ガミ」として振る舞っている。よいこ保育園の保母さんだ。
『よいこの皆さん。お兄様がいらっしゃいました。くれぐれも失礼のないように。皆さんを信じています。』
保母ガミのアナウンスが園内に響き渡る。その声に導かれるように、俺はゆっくりと舞台の上へと歩み出した。
心臓がバクバクしている。今も足が震えている気がする。だが、それを表に出しては絶対にいけない。ここで弱さを見せれば、全てが台無しになるかもしれない。
舞台上から見下ろすと、そこには総勢三十人の元半グレたちが、きっちりと整列して並んでいた。以前はバラバラだった髪型も、今は全員が丸坊主。服装もきちんと揃えられ、白いシャツに黒いズボンという統一された制服を着用している。まるで軍隊のように直立不動で身じろぎ一つしない。
俺はゆっくりと舞台の中央まで歩き、彼らの方に体を向ける。自然と、俺が彼らを見下ろす形になる。全員が、曇りのない真っ直ぐな眼差しで俺を見つめている。その視線は、どこかキラキラしてるように見えた。
※※※
保母ガミが、静かに指示を出す。
『お兄様にご挨拶を』
その声を合図に、元半グレたちのリーダーであるNo.1が、堂々とした声で号令をかけた。
「よいこ保育園、園児一同!」
「気をつけ!」
「お兄様に!」
「敬礼!」
ビシッ!三十人全員が、まるで一糸乱れぬ動きで敬礼の姿勢をとった。その統率の取れた所作には、かつての気だるさや反抗的な雰囲気は微塵も残っていない。まさに精鋭部隊のような規律と一体感だった。
その光景を見て、俺の心臓の鼓動が、徐々に落ち着いていくのを感じた。足のガクガクも止まった。気づいたら背筋もピンと伸びる。
これなら「私兵」としても十分に通用するだろう。オリガミの『自動更生箱庭計画』は無事に成功したと言える。
こうして俺たちは、いつでも自在に動かせる確かな『力』を手に入れたのだった。
そうだな……こいつらは『よいこ軍団』って名前にしよう。
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