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お嫁さん妄想(幼馴染視点)

その日も、普段通りに授業を受け、友達とおしゃべりして、何気ない一日を過ごした。


でも、しょうちゃんがいないだけで、学校生活がどこか物足りなく感じてしまう。しょうちゃん、早く戻ってこないかな。今ごろネムちゃんと一緒なのかな。ネムちゃん、ちょっとうらやましい。


ホームルームが終わり、帰宅の時間となった。私は護衛の早瀬さんに連絡を入れた。


※※※


早瀬さんは、私が連絡してからすぐに校門まで迎えに来てくれた。きっと、あらかじめ近くで待機してくれていたのだろう。


「千穂さん、学校お疲れさまです」


「早瀬さんも私なんかのためにお手数おかけします」


周囲の生徒たちがこちらを見ていて、なんだか居心地が悪い。


「わあ、この車すごい!お嬢様が乗るやつじゃん。乗ってみたいなあ」


一緒にいた友人が目を輝かせて言った。朝に校門で会った友人だ。彼女は、私が注目されるのが苦手なのを知って、そばにいてくれているのだろう。本当にありがたいことだ。


「乗ってみたいですか?」


早瀬さんが優しく声をかける。


「はい。乗ってみたいですねー」


友人は車のあちこちを興味深そうに見ている。よほど珍しいのだろう。


早瀬さんが私に「どうする?」と目で問いかけてくる。


私は小さく頷いて、友人に言った。


「じゃあ、一緒に乗ってみる?早瀬さん、いいですか?」


「もちろん大丈夫です。ただ、ルールとして千穂さんの家か、途中の安全な場所で降りてもらう形になります」


「えっ、いいんですか?じゃあ、千穂と通学路が分かれるところまで乗せてください!」


友人は嬉しそうに笑った。車が好きなのかな?


「早瀬さん、すみません。初日から同乗者なんて」


「いえいえ。護衛対象に楽しく過ごしてもらうのも、私の仕事の一つですから。これのために!」


ビシッと親指と人差し指で輪っかを作る。「お金」のジェスチャーだ。相変わらずお茶目な人だ。多分、私をリラックスさせるためにやってくれているのだろう。


※※※


私と友人は車に乗り込んだ。友人は車内でもテンション高めで、いつも通り賑やかだった。


「すごい!シートもピカピカだし、全然揺れないんだね。千穂、すごいね!」


「だよね!私も最初びっくりしたよ」


ドアが閉まると、音がふっと低く吸い込まれた。車内は静かで、ウインカーの小さなカチカチ音と、足元を撫でるエアコンの風だけが耳に残る。甘い新車の匂いがして、シートは指で撫でると光の向きが変わるくらいピカピカだ。


友人はキョロキョロと車内を見回していた。


早瀬さんが、からかうように私に言う。


「千穂さんは、正太郎さんのお嫁さんになるんだから、これからこんな車いくらでも乗れますよ」


「お嫁さんなんて……えへへ」


友人も笑いながら、


「千穂は相変わらず藤崎くんに夢中だね。玉の輿ってやつ?でも、相手が有名になる前から一緒にいた場合も玉の輿って言うのかな?」


早瀬さんが答える。


「どうなんでしょうね?玉の輿、いいですよね」


「うん、玉の輿、憧れる~」


「えへへ……」


私は「お嫁さん」という言葉に、つい妄想の世界に入ってしまっていた。頭の中でしょうちゃんとの新婚生活が繰り広げられていた。


そんな私を見て、友人が笑いながら言う。


「千穂ー、現実に戻ってきてー。あ、だめだ、これは。早瀬さん、もうこの辺で大丈夫です。ありがとうございました。千穂のこと、よろしくお願いします」


「はい、承りました。気を付けて帰ってくださいね」


友人は車を降りて手を振ってくれた。私も我に返って、慌ててバイバイと手を振り返した。


早瀬さんが微笑んで言う。


「いいお友達ですね」


「はい。大切な友達です」


※※※


「じゃあ、明日も朝迎えに来ますから。うっかり一人で行かないようにしてくださいね」


「は、はい。気をつけます」


早瀬さんは周囲を警戒しながら車のドアを開けてくれ、私が家に入るのを見届けてから車を出していった。


本当に話しやすくて頼りになる人だ。柚希さんに感謝しなきゃ。


※※※


夜、柚希さんから電話がかかってきた。


『護衛の早瀬さん、どうだった?』


「すごく接しやすくて助かりました。最初は緊張してたけど、いろいろ話しかけてくれて……」


『彼女はうちの女性要人警護のナンバーワンだからね。ああ見えて、腕も確かだから安心していいよ』


「ナンバーワンなんですか!?」


『うん。正太郎くんは悠斗の大事な甥っ子だし、彼はきっともっとすごい人になるから。今のうちに恩を売っておこうと思ってね。未来の奥様に』


「奥様なんて……えへへ……」


※※※


『そうそう、明日は悠斗の会社に見学に来てみない?」


「会社見学ですか?」


『高校生のうちはそういうの無いでしょ?千穂ちゃんには、ちょっと聞いてもらいたい話もあるし、どう?新鮮だと思うよ?』


私は会社ってどんなところか知ってみたい気持ちがあった。しょうちゃんが社長として頑張っているから、見学に行けばしょうちゃんのやっていることのイメージが湧くかもしれない。そんな風に思った。


「じゃあ……お邪魔してもいいですか?」


『もちろん。早瀬さんに、明日は学校のあと会社に向かうよう伝えておくね』


柚希さんはそう言って電話を切った。


※※※


その後、しょうちゃんにメッセージを送ってみたけど、返事はなかった。


きっと忙しいんだろう。ネムちゃんと一緒に頑張ってるのかな。ちょっと寂しいけど、仕方ない。


私はレシピサイトを見て、栄養があってしょうちゃんが好きそうな料理をいくつかピックアップし、料理ノートにメモした。このノートには、これまで作った料理や、しょうちゃんやネムちゃんの感想も書いてある。私の大切なノートだ。


レシピを頭の中でシミュレーションしてみる。うん、どれも作れそう。


今度、栄養学の勉強もしてみようかな。そんなことを考えながら布団に入り、目を閉じた。


※※※


翌朝、目が覚めて制服に着替え、朝食をとった。早瀬さんが来てくれるまで、まだ時間がある。


私は自分の部屋に戻り、「しょうちゃんから連絡ないかな」と思いながら、ぼーっとスマホを見ていた。


そのとき、スマホがブルブルッと震えた。しょうちゃんからの着信だ。


私は慌てて通話ボタンを押す。


「しょうちゃん?」


『おはよう、千穂。今大丈夫?』


いつものしょうちゃんの声だ。ほっとする。


「うん、大丈夫。キャンピングカー使ったの?」


『ああ』


「……ネムちゃんも?」


あの狭いキャンピングカーに二人きり。何かあってもおかしくない。


『そうだよ。昼間にしんどい作業してたから、夜はすぐ寝ちゃったけど』


「そうなんだ」


何もなかったとわかると、ほっとしてしまう。私は、しょうちゃんとネムちゃんがそういう関係になっても仕方ないと思っている。でも、やっぱり気になってしまう。


『それより、そっちはどう?何かあった?護衛の人はちゃんとやってる?まともな人?』


「大丈夫だよ。すごく真面目な女の人で、偉い人の娘さんとかの護衛もしてるんだって」


早瀬さんは気さくで優しいけど、仕事はきっちりしている。車の乗り降りのときも、鋭い目で周囲を見ていた。あの気さくさも、護衛対象に気を遣わせないためのプロの技術なのかもしれない。


『そっか、よかった。柚希さんと何か話した?前に会ったとき、何の話したの?』


前に会った時は、確か私がしょうちゃんを裏切ってしまった時の話をした気がする。あとは、それでも幼馴染でいさせてくれたしょうちゃんの優しさや、すごさやかっこよさを、ひたすら語ってたような……これは言えない。恥ずかしくて。


「えへへ……ないしょ」


『え?なにそれ?すごく気になるんだけど』


「大丈夫だって、女同士の話だから。今日は柚希さんが働いてる会社に行って、社内見学させてもらえるんだって!楽しみ!」


恥ずかしい話をなんとかごまかして、今日しょうちゃんの叔父さんの会社に行くことを伝えた。こういうのはちゃんと伝えておかないと。


『そうなの?あんまり俺のこと話さないでくれよ?恥ずかしいし』


「う、うん。だ、大丈夫だよ!」


え?だめなの?でも、しょうちゃんのすごさとなると、つい語ってしまいそう。抑えられるように頑張ろう。


『それじゃ、そろそろ切るよ。今夜から実験開始だから、夜は多分連絡できないと思うけど、ちゃんと護衛さんの言うこと聞いてね?』


「うん、しょうちゃんも実験気をつけてね。ネムちゃんにもよろしく!」


しょうちゃんの元気な声が聞けて、安心した。ネムちゃんとも話したかったな……ちゃんとご飯食べてるかな?


そんなことを考えながら、登校前の静かな朝、私は玄関で早瀬さんの迎えを待っていた。

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