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裏側12 ただいま!

とうとう遠征の最終日だ。


いつも通り風呂の湯船にゆっくりと浸かり、体の芯まで温まる。湯気に包まれながら、ぼんやりと天井を見上げる。風呂上がりには、簡単な朝食をとり、静かな時間を過ごした。


※※※


オリガミの報告によれば、昨夜は何人かの半グレが脱走を試みたらしい。しかし、オリガミがそれを検知し前庭砲を直撃させた。今朝はそのせいか、施設内は妙に静かで、半グレたちの悲鳴や騒ぎ声も聞こえてこない。夜の脱走という最後の希望すら絶たれ、完全に意気消沈してしまったのだろう。


モニター越しに様子を確認すると、ほとんどの半グレたちはオリガミの指示通りに大人しく動いている。もともと一人では何もできない連中だ。すでに心が折れてしまったのかもしれない。この状況は、ある意味で必然だったのだろう。


※※※


俺たちは今日、ここを離れる予定だ。そのため、機材や備品の最終チェックを念入りに行うことにした。一度帰ってしまえば、再びここに来るのは一時間以上かかる。できれば、忘れ物やトラブルでとんぼ返りするような事態は避けたい。


施設内の機器を一通り点検する。電源とオリガミとの通信さえ維持できていれば、この施設は問題なく稼働する。前庭砲デバイスにはカメラやスピーカーが大量に設置されており、仮に一台や二台が故障しても全体の運用には支障がない設計だ。


そのため、電源と通信のチェックは特に念入りに行う。バックアップの動作確認もだ。全て問題なさそうだった。


それでも、何か予期せぬトラブルが発生するかもという心配がある。正直、しばらくはここに戻りたくない。そんな事にならないよう祈るばかりだ。


※※※


夕方ごろ、オリガミから骨伝導スピーカー越しに声がかかった。


『お兄様、もう帰られても大丈夫ですよ。』


『もし初期不良があるとすれば、すでに発生しているはずです。この施設は自宅からそれほど遠くありませんし、万が一の際はまた来ていただければ大丈夫です。お兄様がしっかりチェックしてくださったので、問題ないと思いますが。』


「そっか。なんか、ホッとしたよ。やっぱり、半グレの近くにいるのがストレスだったのかもなあ」


犯罪者集団である彼らが、オリガミの管理から外れた場合、俺たちにはどうすることもできない。最悪の場合、命の危険すらある。そう考えると、ストレスを感じて当然だろう。


俺は小走りでキャンピングカーに戻り、ネムに声をかける。


「ネム、オリガミがもう帰っていいって!」


ネムはモニターを退屈そうに眺めたり、ノートパソコンのキーボードをカタカタと叩いていたが、俺の言葉を聞くと目を輝かせて身を乗り出した。


「ホントか!やったぁ!すぐに帰ろう!」


ネムも本当に嬉しそうだ。彼女もやはり、この環境がストレスだったのだろう。ネムは過去に誘拐された経験もあるため、無理もないだろう。


もちろん、俺たちが帰っても、オリガミが衛星回線を通じて彼らを管理している。だから「よいこ保育園」の運営に支障はないはずだ。あとはうまく更生できればいいのだけど。


俺たちは急いで忘れ物がないか再確認し、荷物をまとめてキャンピングカーに乗り込む。こうして、四日間過ごした「よいこ保育園」を後にし、帰路についた。


※※※


帰り道、ネムは助手席でスースーと気持ちよさそうに眠っていた。


ストレスから解放されたせいか、その寝顔はどこか明るく、安心しきっているように見える。耳を澄ますと、ときおりなにかムニャムニャ言っている。なんだこの可愛らしい生き物。


俺自身も、肩の荷が下りたような気分で、行きよりもずっとリラックスして運転できていた。


しばらく走っていると、オリガミから再び連絡が入る。


『お兄様、本当にお疲れさまでした。お兄様たちのおかげで「よいこ保育園」は順調にスタートできました。あとは私の仕事です。何かあればまたご連絡しますので、お兄様は「よいこ保育園」のことはしばらく忘れて、日常生活をお楽しみください。』


『ただ一つだけ、今後のことについて考えておいていただきたいことがあります。少し気が早いかもしれませんが、三十人の更生が終わった後の話です。』


『二十人ほどは、海外の民間軍事教練施設で訓練を受けさせる予定です。残り十人は、日本国内で警備会社を設立し、そこに所属させようと考えています。』


『ただし、更生済みとはいえ、彼らはまだ訓練を受けていない素人です。警備のプロフェッショナルを雇い、彼らに技術を叩き込んでもらう必要があります。この人物は、藤崎柚希の影響を受けていない人が望ましいのですが……お心当たりはありませんか?』


俺は少し考えたが、特に思い当たる人物はいなかった。


「すまん、今は思いつかない。」


『いえ、お兄様、普通はそんな知人いません。お気になさらないでください。ただ、そのような人材が必要だということを、心の片隅に留めておいていただければ十分です。』


「わかった。」


エンジン音と、ネムの穏やかな寝息を聞きながら、俺はキャンピングカーを運転し続けた。今回は本当に大変だった……そんなことを思いながら、ようやく自宅に到着した。


※※※


「ネムー、ついたぞー?愛しの我が家だぞー。」


俺が運転席から声をかけると、後部座席で丸まっていたネムが、ぱっと目を覚ました。寝ぼけ眼をこすりながら、窓の外をきょろきょろと見回す。


「お?おお?ついたか!」


ネムは一気に目が覚めたようで、勢いよくシートから飛び起きる。窓越しに見慣れた自宅の景色を確認すると、ぱあっと顔が明るくなり、嬉しそうに「やったー!」と小さく叫んだ。そのまま、ドアを開けて、まるで子どものように弾む足取りでキャンピングカーから飛び出していく。


「ああ、その気持ち、よくわかるわー」


俺もエンジンを止め、深く息を吐いてから外に出る。久しぶりの自宅の空気は、どこか懐かしくて、思わず大きく背伸びをした。


ふと視線を上げると、近所の千穂の家の二階の窓が開き、カーテンの隙間から千穂が顔を覗かせていた。彼女は俺たちの帰宅に気づくと、ぱっと笑顔になり、窓から身を乗り出して手を振ってくれる。


「おお!千穂!帰ってきたぞ!」


俺も負けじと大きく手を振り返す。


「しょうちゃん!おかえり!」


千穂は満面の笑みで、子どものように両手をぶんぶん振ってくれる。


※※※


しばらくして、千穂が窓から身を乗り出したまま、さらに大きな声で尋ねてきた。


「今日ご飯作る!?」


その声に、俺も声を張り上げて叫んだ。


「「作って!」」


気がつくと、俺のすぐ後ろでネムが家のドアから顔を出していた。俺と同じタイミングで元気よく返事をしていたようだった。


俺たちの日常が戻ってきたようだ。はあ、やっぱ家が一番だわ。

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