裏側08 「よいこ保育園」入園準備完了
翌朝、自然と目が覚めた。
窓の外からは、朝の光が差し込んでいる。隣を見ると、ネムはヘソを出して寝ていた。寝相でパーカーがめくれ上がったようだ。無防備な寝顔と、豊かな胸のふくらみがはっきりと見える。
まあ、「抱いてくれ」とか言うくらいだし、俺に対する警戒心はゼロなんだろう。ムニャムニャと寝返りを打つたびにパーカーがさらにずり上がっていく。
モミモミフガフガしたいという気持ちを必死で抑え、めくれたパーカーを元に戻してやる。ネムの体温が指先に伝わってきて、ムラムラしたが、なんとか理性を保ち、バンクベッドを静かに降りた。
ネムを起こさないように、そっとキャンピングカーの外へ出る。
スーパー銭湯の広い駐車場。周囲は青々とした緑に囲まれている。家の近くでは見られない景色だ。遠くで鳥のさえずりが聞こえ、空気が澄んでいる。
※※※
大きく息を吸い、何度か深呼吸した後、オリガミに声をかけた。
「おはよう、オリガミ」
すぐに、骨伝導イヤホンからオリガミの涼やかな声が聞こえてくる。
『おはようございます、お兄様。』
「昨夜、キャンピングカーの周りはどうだった?」
『不審者もなく、問題ありませんでした。とても静かでした。』
「千穂の様子は?」
俺はふと思い出して尋ねる。昨日は連絡できなかったことが少し気になっていた。
『そちらも大丈夫です。そわそわとスマホを見たりしています。連絡してあげては?』
「そうだね。昨日は連絡できなかったし、今しておくよ」
ポケットからスマホを取り出しながら、俺は聞いた。
「半グレの様子は?」
『やはり、今日決行のようです。夕方ごろに出発し、夜にこちらへ侵入するつもりのようです。』
「そうか。やっぱり来るのか」
今夜が「よいこ化作戦」決行の時だ。
※※※
オリガミから朝の報告を受けた俺は、千穂に連絡することにした。まだ登校前の余裕がある時間だ。問題ないだろう。
プルルル……プルルル……
コール音が数回鳴った後、千穂が電話に出た。
『しょうちゃん?』
「おはよう、千穂。今大丈夫?」
『うん、大丈夫。キャンピングカー使ったの?』
「ああ」
『……ネムちゃんも?』
「そうだよ。昼間にしんどい作業してたから、夜はすぐダウンだったけど」
『そうなんだ」
「それより、そっちはどう?何かあった?護衛の人はちゃんとやってる?まともな人?」
『大丈夫だよ。すごく真面目な女の人。偉い人の娘さんとかの護衛につく人なんだって』
柚希さんは、いい人を護衛にしてくれたみたいだ。
「そっか、よかった。柚希さんと何か話した?前に会った時、何の話したの?」
俺は、つい質問攻めにしてしてしまった。
『えへへ……ないしょ』
「え?なにそれ?すごく気になるんだけど」
『大丈夫だって、女同士の話だから。明日は柚希さんが働いてる会社に行って、社内見学させてもらえるんだって!楽しみ!』
「そうなの?あんまり俺のこと話さないでくれよ?恥ずかしいし」
『う、うん。だ、大丈夫だよ!』
ああ、これは色々話しちゃってるな。千穂は嘘が下手だから、逆に信用できるんだけど。
千穂にオリガミのことを話すタイミングは、柚希さんに完全にバレてもいい時だな。
「それじゃ、そろそろ切るよ。今夜から実験開始だから、夜は多分連絡できないと思うけど、ちゃんと護衛さんの言うこと聞いてね?」
『うん、しょうちゃんも実験気を付けてね。ネムちゃんにもよろしく!』
通話を終えて、スマホをポケットに戻す。
※※※
ネムが眠そうな顔で、キャンピングカーからふらりと出てきた。髪はぼさぼさで、完全に目が覚めていないようだ。
「おはよう……千穂ちゃんだった?」
ネムがあくび混じりに尋ねる。
「ああ、ネムにもよろしくって」
俺が答えると、ネムは小さく頷きながら言う。
「ああ、千穂ちゃんのご飯が食べたくなってきたな。昨日来たばかりだけど、帰りたくなってきたぞ」
「俺もだよ」
そして、少し気を引き締めてネムに伝える。
「…連中、今夜来るって。オリガミが言うには確定らしい」
その言葉に、ネムが面倒そうな顔をする。
「そうか。今夜は重労働だな」
ネムは肩を回しながら、気合を入れるように深呼吸した。
※※※
朝食はスーパー銭湯で済ませた。
目覚まし代わりにひと風呂浴びる。
湯上がりの体に和定食の優しい味が体にしみる。ネムは牛乳を一気に飲み干し、俺はコーヒー牛乳を片手にぼんやりと今日の予定を考えていた。
食後、俺たちは再びキャンピングカーに乗り込み、「よいこ保育園」へ戻った。
「よいこ保育園」に到着すると、まずは今日の作戦の流れを一つずつ確認した。介護アシストスーツを使って電動車椅子に人を乗せる練習や、電動車椅子で体育館に人を運ぶ際に障害となりそうな段差のチェック、電動車椅子から人を下ろす練習などを行った。
その後は、機器の最終確認を行った。俺は手元のチェックリストを広げ、備品や装置の数や動作を一つずつ指差しながら点検した。
監視カメラの接続、非常用ライト、通信機器、衛星回線、予備の衛星回線、救急セット、予備バッテリー、そしてオリガミ端末の動作確認も忘れない。
ネムはノートパソコンを開き、真剣な表情で通信機器のシステムログをチェックしている。時折、端末のケーブルを抜き差しし、動作に異常がないか細かく確認していた。
オリガミとの通信断絶だけは絶対に避けなければならない。前庭砲が使えなくなったら、大惨事だ。
「こっちはOK。ネットワークも異常なし。衛星通信のバックアップも正常。オリガミとの通信も問題なし。」
ネムがそう呟く。二人で声を掛け合いながら、念入りに準備を進めていった。
外では夕方の風が少しずつ強くなってきていた。空は茜色に染まり、山の稜線に沿ってゆっくりと太陽が沈んでいく。
静かな時間が流れる中、俺たちの緊張感だけが高まっていく。
やがて、空がすっかりオレンジ色に染まった頃、オリガミから骨伝導イヤホン越しに静かな声が届いた。
『お兄様。半グレ集団総勢三十名、ドールハウスのダミー新社屋、つまりこの「よいこ保育園」に向けて出発しました。』
とうとう、きたか……。
あと数時間後には、三十人のおともだちが、この「よいこ保育園」へ入園する。盛大に歓迎してやろう。
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