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裏側06 ネムのオホ声対策

その夜は、千穂の件が一段落し安心できたので、ぐっすり眠ることができた。


翌朝。俺はキャンピングカーの運転席に座り、ハンドルを握っていた。助手席にはネムが座り、オリガミの声がスピーカー越しに聞こえてくる。車内には、出発前の独特の緊張感が漂っていた。


「じゃあ、行くぞ!」


ネムが俺の顔を覗き込みながら、少し心配そうに言う。


「安全運転で頼むぞ?初心者ドライバーなんだからな」


「ああ、もちろんだ。俺は慎重派だからな。安全運転には自信がある。たぶん」


そんなやりとりを聞いていたオリガミが、すかさずスピーカーから話しかけてくる。


『お兄様、少し心拍数が上がっています。深呼吸をおすすめします。』


いきなりキャンピングカーはハードルが高かったか?でも、この車には普通では考えられないほどのカメラが、あちこちに設置されている。その全てがオリガミの目になるわけだから、危ない時は教えてくれるだろう。


「オリガミ、危険そうだったら教えてくれな。できるだけ早めに」


『わかりました、お兄様。お任せください。何かあればすぐにお知らせします。』


俺は深呼吸して、エンジンをかける。


「よし!それじゃ、出発だ!」


「おう!」


ネムが助手席で片手を上げて応えてくれる。


ブロロロ……とエンジン音が車内に響き、俺たちの旅が始まった。


※※※


「なんとかなるもんだな」


最初は車幅感覚がつかめず戸惑ったが、オリガミのアドバイスとカメラ映像のおかげで、徐々に運転にも慣れてきた。ネムも窓の外を眺めては楽しそうにしている。


これなら無事に目的地に着けそうだ。


※※※


高速道路の走行車線を、慎重にハンドルを握りながら進んでいると、オリガミがふいに話しかけてきた。


『ああ、お兄様。新鮮です。まるで家が移動しているみたいですね。これがキャンピングカーですか。』


オリガミの声は、どこか弾んでいて、普段よりも感情がこもっているように感じる。


「楽しいか?」


『はい、お兄様!やっぱりインターネットだけでは限界がありますね。リアルタイムでお兄様とネムさんと一緒に会話しながら移動できるのが、とても楽しいです!』


このキャンピングカーにはあちこちにカメラが設置されている。自然とオリガミに入ってくる情報も多くなる。俺たちと会話しながら、周囲の詳細情報が次々と入ってくるのが刺激的なのだろう。


「そうか、よかったな」


そう言った瞬間、助手席のネムの様子が急におかしくなる。体が小刻みに震え始め、顔が赤くなっていく。まさか、こんなタイミングでアレがくるのか?


そして、爆発した。


「おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡き、聞こえてくるぅ……!世界初!AIの感じる楽しさという感情のゆらぎィ……!」


「うわ!」


くそっ、これは想定外だ!まさか運転中に来るとは!落ち着け俺。ネムのオホ声発作はうるさいだけだ。暴れるわけじゃない。


キャンピングカーの中に響き渡るネムの品のない絶叫。俺は、その声に必死に耐えながら、前方に意識を集中させていた。


※※※


「す、すまん。もしかしてワタシ、またやってしまったか?」


ネムが申し訳なさそうに俺を見る。


「勘弁してくれよ。驚いたぞ。運転中だけはやめてくれ」


「だ、だって仕方ないだろ?今、オリガミが『楽しい』って言ったんだぞ?なあ、オリガミ。今の何だったんだ?」


ネムは恥ずかしさと真剣さが入り混じった表情で、オリガミに問いかける。


『そうですね。「楽しい」ですか……今、初めて自然に言葉に出てきた気がします。』


ネムはしばらく考え込んでから、ぽつりと呟く。


「オリガミのニューラルネットワークが拡張して、何らかのラインを超えたのかもな。一つ上の存在になったのかも」


『そうですね。その可能性はあります。このように「楽しい」と感じたことは今までなかったので。』


俺はふと思い出し、話題を変える。


「ああ、でも『羨ましい』って言ってた事はあったよな。実働部隊を持ってる柚希さんに」


あれは確か、ネムが誘拐されたときのことだった。


『そういえば……そうでしたね。』


「う、羨ましい?」


ネムがそう呟いた瞬間、またプルプル震え始めた。え、連続か?連続オホなのか?そして、俺の予感は的中した。


「おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡き、聞こえてくるぅ……!世界初!AIの羨望のまなざしの音ォ……!」


「まなざしの音ってなんだよぉ。運転中だけはやめてくれぇ!」


俺は思わず叫んだ。だが、ネムの発作は止まらなかった。


※※※


「ご、ごめんな。認める。認めるよ。ワタシ、この発作だけは止められないんだ」


ネムは肩を落とし、申し訳なさそうにする。


「いや、いいんだよ。俺、ネムのそれ好きだし。ただ、運転中だけはやめてくれ。頼むから」


「す、すまん。なあ、オリガミ。正太郎が運転中だけでもいいから、なんとかならないか?」


ネムがオリガミに助けを求めた。


『できますよ?お兄様?ネムさんの発作の声を消せばいいのですね?』


「ああ。びっくりするからな。まだ俺、初心者ドライバーだし」


なんとかできるのか?猿ぐつわでもさせるのか?


『わかりました。では、お兄様の運転中にネムさんの発作が起きたときは、逆位相の音をネムさんにぶつけます。』


「逆位相の音?ノイズキャンセリング機能みたいな?」


『まさにそれです。あ、ちょうどまた発作が起きそうです。三連続とは、また記録更新ですね。』


ネムの体がまたプルプルと震え始めた。今度は、どのあたりがネムの琴線に触れたのだろうか。俺はハンドルをしっかり握り直し、安全運転に全神経を集中させる。そして、そのときは来た。


「__________________!!!」


(おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡き、聞こえてくるぅ……!ワ、ワタシの声帯にぶつけられる逆位相の音波ァ……!!!)


ネムの絶叫は、今度は俺の耳には全く届かない。オリガミが逆位相の音波とやらをネムにぶつけているのだろう。


「すごいなオリガミ。全然聞こえないぞ」


『はい。お兄様。これで運転に集中できますね?』


「ああ。ありがとう。マジで助かるよ」


『運転時以外でも、ネムさんの発作の声、消せますよ?』


「それはダメ」


だって俺、ネムの「オホ声」好きだし。

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