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裏側05 千穂に護衛をつけよう

朝、目が覚めて、ベッドから降りようとしたとき、オリガミが声をかけてきた。


『おはようございます、お兄様。ただいまドールハウスのダミー新社屋の情報を、半グレのアプリに送信しました。閲覧時間から、かなり興味を持っていることが分かりました。』


俺はまだ寝ぼけた頭で、オリガミの報告を反芻する。


「あれか。新社屋の案内っぽいけど、実際は『女の子がたくさんいるよ』と『周囲に人はいないよ』ってことを伝えるためのメッセージだよな。あんなので本当に釣れるのか?」


『リーダーの立場はかなり危うくなっています。ここで大きな結果を出さないと体制の維持は難しいでしょう。』


『おそらく、どこかのタイミングでダミー新社屋に侵入してくると思われます。門に入ったタイミングで前庭砲を使い、全員を気絶させます。』


俺は思わず眉をひそめる。


「あいつら、本当にそんなことする気なのか?」


『前庭砲で全員を気絶させた後は、お兄様とネム様の手で、「よいこ保育園」となる体育館まで連中を運んでいただく必要があります。力仕事になるので、介助アシストスーツと電動車椅子で一人ずつ移動させてください。これらは既に届いていますので、時間を見て使用テストをお願いします。』


『お兄様たちの仕事は以上です。あとは私だけで進行可能と思われますので、お菓子でも食べながら見ていてください。』


バタバタ倒れていく人を眺めながらお菓子を食べる自分を想像する。サイコだ。


※※※


その後、オリガミが編集した音声素材をYuuTubeにアップしたところ、「おっお猫マッマ」として一気に拡散されていた。


「あれか。あの猫の動画か。」


『おっおっおっ♪猫ママっ♪ママっ♪おっおっおっ♪猫ママっ♪ままぁ♪ままぁ♪』


画面の中で、猫がリズムに合わせて踊っている。あの独特な声に合わせて踊らされている猫は、どこか哀愁すら漂わせていたが、確かに笑える。


『かなり追い込まれているようで、当方が送ったメッセージを開いている時間が増えています。ウェブサイトの検索や地図で場所の確認も行っています。さらに、二日後に仲間の招集をしています。決行日はその日でしょう。明日あたりに現地入りをお願いします。』


まじで。連中、本当に実行するつもりなのか。


「自分の立場を守るためだけに、百人以上の女の子を泣かせるつもりなのか……救いようがない連中だな。まあ、今回に限っては、前庭砲を使う罪悪感が減るし、逆に助かるな」


世の中とんでもない人間がいるもんだ。俺は思わずため息をついてしまった。


※※※


朝の通学路。千穂と並んで歩きながら、俺は明日からの予定を伝える。


「明日から数日間、仕事で家を空けるから。学校は欠席するよ」


「え?そうなの?どんな仕事?」


「フィールドワークみたいなものだな。安全な場所でやってみたい実験があるんだ」


「一週間はかからないと思う。ただ、千穂の晩ごはんを食べられないのがつらい」


「えへへ……」


千穂の笑顔に、少しだけ心が和らぐ。


「また俺関係で変な人がいるかもしれないから、千穂はなるべく一人で外に出歩かないでくれ。外出中も絶対に一人にならないこと。できるだけ早く戻るから」


「あと、絶対に俺が渡したカードは身につけておいてな?」


オリガミ端末がなければ、いざという時に千穂を守れない。それが不安でしかたない。


「わかったよ。」


「ああ、心配だ。心配で仕方ない。柚希さんに護衛を頼もうかな」


「そんな大げさだよ!心配性だなあ。大丈夫だよ。私だって成長してるんだから!」


千穂は小さくガッツポーズをしてみせる。かわいい。


知ってるよ、特に胸が成長してることくらい。だからこそ、だからこそ、なおさら心配なんだよ!


「何にせよ、俺が仕事でいない間は本当に気を付けてな!千穂、柚希さんの連絡先知ってるよな?何かあったら彼女に連絡してくれよ?あの人普通じゃないから、絶対に助けてくれるから!」


「わ、わかったよ……」


そんなやりとりをしながら、二人で教室へと入っていった。


※※※


夜。食卓には千穂が作ってくれた温かいご飯が並び、千穂とネムが楽しそうに話している。その様子を眺めながらも、俺の胸には不安がぐるぐると渦巻いていた。


もし俺のせいで千穂が傷ついたら……その想像だけで、頭がおかしくなりそうになる。やはり千穂には護衛が必要だ。


「明日からだけど……やっぱり千穂には護衛をつけようと思う。」


「ええー、大丈夫だって。子供じゃないんだから」


「すまん。これは俺のためなんだ。俺の心の平穏のために護衛を受け入れてくれないか?ちゃんと女性の護衛をお願いするから!千穂になにかあったら、俺は壊れてしまう」


「そ、そんなに心配してくれるんだ。わかったよ……えへへ……」


千穂は頬を赤らめ、少し照れたようにうなずいた。その姿を見て、俺はすぐに叔父さんへ電話をかける。


※※※


プルルル……


『正太郎、どうした?』


短いコールの後、叔父さんの落ち着いた声が聞こえた。


「すみません、いきなり電話しちゃって。実はカクカクシカジカで……」


「あー、そりゃ心配だな。柚希に代わるわ。専門家と交渉してくれ」


しばらくして、柚希さんの声が電話越しに聞こえてくる。


『悠斗から話は聞いたよ。千穂ちゃんの護衛ね?じゃあ、送り迎えは警備会社の人間にさせるから。あ、千穂ちゃんを一度、悠斗の会社に連れて行ってもいい?色々話したいこともあるし。私、彼女のこと放っておけないんだよね』


「え?本人が嫌がらなければいいですけど……じゃあ、護衛料は相場の二倍くらいで大丈夫ですか?急な話でしたし」


『いや、護衛料はいらないよ。実は調べてほしいことがあってね。それと相殺ということで。それでいい?』


「は、はい。多分大丈夫だと思いますけど……」


『じゃあ、あとでデータ送るね。千穂ちゃんには私からも連絡入れとくから、任せて』


柚希さんはそう言い、叔父さんにスマホを返したようだった。


『いやー、なんかスマンな。あいつ千穂ちゃんと仲良くしたいらしくて』


「いえ、柚希さんが千穂の味方になってくれるなら助かります」


『そうか、まあ安心してくれ。あいつは優秀だからな。怖いくらいに。あ、怖いって言ったこと、柚希には内緒な?』


叔父さんの冗談めいた言葉に、ホッと肩の力が抜けたのを感じた。


※※※


「というわけで、明日から千穂に護衛がつきます。でも、何かあったら俺にも連絡してね」


千穂の方を見ると、彼女は顔をぽーっと赤らめて、じっとこちらを見つめていた。


「仕事モードのしょうちゃんカッコいい……」


ああ、顔を赤らめた千穂、かわいい……。


俺達は見つめ合ってしまった。そんな甘々な空気を感じ取ったのか、ネムがぽつりと呟いた。


「ワタシもいるぞ」

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