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裏側04 チャラ営業と匠ビルダー

翌日の土曜日、午前中に千穂の家を訪ねて、キャンピングカーショーに行くことを伝えた。


「えっ、しょうちゃんたち、キャンピングカー買うの?すごい!」


「うん、そうなんだよ。だから千穂も一緒に見に行こう」


「私も行っていいの?」


千穂は少し遠慮がちに尋ねてきた。


「もちろん。千穂と一緒に出かけることもあるだろうし、千穂の意見も聞きたいからさ」


「嬉しい!いつ行くの?」


「今日の午後に行く。今日偶然、キャンピングカーショーがあるらしいんだ。仕事で使いそうだから、一週間ぐらいで欲しいんだよね」


「そうなんだ!じゃあ、すぐ準備するね!」


こうして俺は千穂とネムを連れて、キャンピングカーショーの会場へ向かった。会場にはたくさんのビルダーが自慢のキャンピングカーを展示していて、活気に満ちていた。


※※※


「しょうちゃんすごいね!キャンピングカーたくさんあるよ!」


千穂は目を輝かせて、会場を見渡している。ネムも同じようにワクワクした表情だ。


まずは会場内のさまざまなビルダーのブースを回って、展示されている車両を見ていくことにした。ちなみにビルダーとはキャピングカーを作成する業者のことだ。


俺にとってキャンピングカーといえば、やっぱりバンクベッドだ。バンクベッドとは、運転席の上にせり出した部分に設置されているベッドのことだ。キャンピングカーのリーゼントの部分といえば分かるだろうか。意外かもしれないが、このバンクベッド、とても寝心地がいいのだ。


千穂とネムと一緒に、いろいろな車両のバンクベッドに寝転んでみる。うんうん、やっぱり車両ごとに寝心地や広さが全然違うな。


となりで寝転ぶ千穂が「えへへ……」っていいながら、顔を赤らめながら、毎回身を寄せてくる。かわいい。


いろいろな車両を見て回った結果、気になるビルダーが2つあったので、話を聞いてみることにした。


※※※


まず最初に立ち寄ったのは、大手らしい華やかなブースだった。


ブースの前には、暇そうに腕を組んで立っている営業マンがいたので、声をかけてみる。


「こういう条件で探しているんですが、あまり時間がなくて……ご対応いただけませんでしょうか?」


営業マンは鼻で笑いながら、ぶっきらぼうに言い放った。


「無理に決まってんだろ?何言ってんの、ガキが」


なんだこいつ。口悪すぎだろ。ネムも明らかに不機嫌になり、千穂は目に涙を浮かべている。


この男……どう見ても現場で物作りしている手じゃない。口だけで生きてきたタイプだ。こんな人間と信頼関係なんて築けるはずがない。これ以上関わるだけ無駄だし、さっさと次へ行こう。


「分かりました。お時間いただきありがとうございました」


「はいはい。二度とくんなよ!」


まじか。こんな営業マンもいるのか。社会は広いな。


※※※


もう一つの候補は、ちょうどその隣のブースだった。


そこにいたのは、白い口ヒゲをたくわえた、鋭い目つきのいかついおじさんだった。手のひらもゴツゴツしていて、実際に作業をしている人の手だ。まさに職人という感じの人だ。


さっきのチャラ営業のときと同じように、声をかけてみる。


「こんな条件で探してるんですけど、あまり時間がなくて申し訳ないのですが……」


「……中古のキャンピングカーをいじる形なら可能だな」


まさに匠といった雰囲気のビルダーが、不器用ながらもこだわりを感じさせる表情で言った。


ああ、そうそう。こういう人が信じられるんだよ。


この人を敬意を込めて「匠ビルダー」と呼ぼう。


「ほ、本当ですか?」


「ただ、金はかかるぞ?」


「無理を言ってるのは承知してます。ちょっとした設置作業と登録代行も込みで、二千万くらいでどうですか?これからも末永くお付き合いさせていただけると助かります」


「はあ!?二千万?お前みたいなガキが出せるわけねーだろ?」


なぜか隣のブースからチャラ営業が口を挟んでくる。流石に腹が立ってきて、言葉が乱れる。


「うるさいな、しゃしゃり出てくるなよ。なんなんだよ、お前は?」


「いや、クソガキが生意気言ってるからさ、社会の厳しさってものを教えてやってんだよ?感謝しろよ?それに可愛い女の子引き連れてさ。ひとり俺が引き取ってやろうか?ああん?」


そして、チャラ営業は千穂に声をかけてくる。こいつ……


「ねえ、キミ。俺んとこでバイトしない?キミすごく可愛いし、バイト代はずむよ!ウチのブース、今華がないんだよね。キミみたいな可愛い子を探してたんだよ」


下心丸出しの顔で、千穂に腕を伸ばしてくるチャラ営業。


「やだ!しょうちゃん、怖い!」


千穂は俺の後ろに隠れて、ぴったりと張り付いてくる。かわいい。


それにしても……こいつ、千穂に手を出そうとしたな?楽しい気分に水を差したくなかったが、仕方ない。俺が動き出そうとしたその時のことだった。


※※※


「あれ?ネム先生?」


眼鏡をかけたロマンスグレーの紳士が、ネムに声をかけてきた。


「お?ああ、教授。お久しぶりです。ご無沙汰してしまってすみません」


おお、ネムの大人モードだ。久々に見たな。


「いやあ、噂は聞いてますよ。ドールハウス、すごい活躍じゃないですか!」


「いえいえ、私はそこまで関わってないんです。あくまでサポート程度で。ほとんど、こいつのおかげですよ」


そう言って、ネムは俺を前に押し出した。


「ほう、ネム先生がそこまで評価するとは……あのAIは君が作ったのか?すごいな……天才ってのは在野にもいるもんだな……」


「いやー、まあ偶然というか……あはは……」


などとお茶を濁していると――


「きょ、教授?お知り合いなんですか……?」


さっきまで俺に高圧的だったチャラ営業の態度が一変している。


「知り合いも何も、このネム先生は同じ大学で准教授をしてらっしゃる。すごい論文をたくさん書いててね。実績だけなら私より上だよ」


なにこの人、かっこいい。紳士すぎる。紳士教授と呼ぼう。


「何言ってるんですか教授。私たちが立てた結果なんて、教授たちが何十年も築いてきた基礎の上に、ちょこんと乗っかってるだけですよ」


おお!ネムも大人してる!そんなことを思いながら、ネムと紳士教授が会話しているのを眺めていると、チャラ営業が口を挟んできた。


「え?准教授?この、ちっこい子が?」


「君、ちょっと失礼じゃないか?ネム先生は世界的にも有名な方だぞ?」


紳士教授はお怒りだ。


「それにさっき横から少し見てたんだが……君が絡んでた青年、誰だか知ってるのか?」


「え?あのクソガキですか?もしかして、どこかのお坊ちゃんだったりするんですか?」


「はあ……無知ってのは恐ろしいな。いや……君が人としておかしいだけかな」


そして紳士教授は俺の方を向いて話しかけてきた。


「失礼ですが……ネム先生と一緒にいらっしゃるということは、藤崎正太郎さんですよね?」


「……あっハイ」


あっハイってなんだ、コミュ障か。


「やっぱり……君ね、この方は株式会社ドールハウスの社長さんだ。年商百億を超える会社を、ほぼ一年で築き上げた起業家様だよ。君なんかと比べたら、雲の上の人だぞ?」


「え……」


チャラ営業男は顔を真っ青にしている。ああ、地位とかに極端に弱いタイプか。


俺はため息をついて、チャラ営業に言ってやった。


「あなた、さっき俺の大切な幼馴染に手を出そうとしましたよね?不快なんですが。そういうことはやめたほうがいいですよ。いつか痛い目みますよ?」


「それに、人によって態度をコロコロ変えるのは良くないですよ。そんな人、信頼できません。少しはここの『匠ビルダー』さんを見習ったらどうですか?」


「ぐっ……!」


チャラ営業は悔しそうにこちらを見てくるが、謝罪はない。


そんな様子を後ろで見ていた匠ビルダーさんが、呆れたように声をかけてきた。


「匠ビルダーって誰のことだよ……で、どうする?発注するのか、しないのか?」


「もちろん、お願いします!」


※※※


俺とチャラ営業のやり取りを見ていた紳士教授は、呆れた顔でチャラ営業に言った。


「君のところに注文しようとしていたキャンピングカーはやめておくよ。あんな態度を見せられては、信頼関係が築けそうにない」


「ええ!そんな!」


「では、ネム先生、藤崎社長、私はこれで失礼します。お邪魔しました」


紳士教授はスマートにその場を去っていった。かっこいい……!


「ネム!かっこいいな、ネムの知り合いの紳士教授!あっ、しまった、ぼーっとしててちゃんと挨拶できなかった!」


「紳士教授って誰だよ……まあ、あの人はそんなの気にしないから大丈夫だよ」


そんな会話をネムとしながら、紳士教授の去っていく背中を見送る。その背中もやっぱりカッコイイ。


行ってしまった紳士教授を呆然と見ていたチャラ営業は、がっくりと肩を落とし、「すみませんでした」と小さくつぶやいて、トボトボと自分のブースに戻っていった。


※※※


数日後、俺の家の車庫には立派なキャンピングカーが納車されていた。匠ビルダーさんが特急で仕上げてくれて、各種手続きも代行してくれていた。前庭砲デバイスも装着済みだ。


もちろんその夜は、特に理由もなく駐車場のキャンピングカーのバンクベッドで寝た。


夜型のネムも、朝から昼頃にかけてキャンピングカーで寝ていたようだ。


やっぱりそうなるよな。


※※※


そして、ついにオリガミから報告が入る。


『お兄様、「よいこ保育園」の準備ができました。』


さあ、「自動更生箱庭計画」の始まりだ。

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