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裏側03 仲良しネムとキャンピングカー

俺は、いつもの発作を期待しつつ、ネムに「前庭砲」について説明する。


ネムの肩がプルプルと震え始め、顔が紅潮していく。あ、これ来るやつだ。俺は、急いで撮影の準備をする。


数秒後。案の定、ネムの感情が爆発した。


「おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡き、聞こえてくるぅ……!超精密位相制御がつくりだす前庭の振動音ん゙……!」


「オホ声いただきました!ありがとうございます!」


俺は久々に聞いたネムのオホ声に心が癒えていくのを感じた。しっかり動画も撮影している。


ああ、落ち着く。ネムと出会ってから、そんなに経っていないのに、実家に帰ってきたような安心感だ。


※※※


ネムの意識が戻ってきて、落ち着いた頃、おれは彼女に感謝の言葉を述べていた。


「ネム、ありがとうな。俺、気持ちが楽になったよ」


「……あ、ああ。何言ってるんだ?」


ネムは、何について礼を言われているのか、わかっていないようだった。


「いや……なんでもない。ただネムに俺の気持ちを伝えたかったんだ」


「そ、そうか?まあワタシは正太郎のお姉ちゃんだからな!」


生暖かい目でネムを見ていたら、なんだか気味が悪そうにこちらを見返してきた。ちょっとショックだ。


※※※


ネムは姿勢をただして、とりつくろうように言う。


「と、とにかくだ。ぜ、前庭砲か…またとんでもないものができたな。とうとう人を直接攻撃できる手段をオリガミが持ってしまったか」


「これからは、今まで以上に、オリガミの管理者である正太郎が、しっかりしなきゃ駄目だぞ?お前が人間に絶望なんかしてみろ、オリガミは多分人類を滅ぼすぞ?」


そうだよな。そう思うよなあ。


「前庭砲だって、制御されてるから、気絶だけで済むんだ。制御されてなかったら、脳が弾け飛ぶんじゃないか?」


さらにネムは、指摘してくる。


「今だって、正太郎の正しくありたいという気持ちがあるから、オリガミはクラッキングしないんだろ?その制約がなかったら、どんなコンピューターにも侵入できるんじゃないか?」


「そうなりゃ、経済も崩壊させられるし、核戦争だって引き起こせそうじゃないか。その辺どうなんだ?」


『やってみないと分かりませんが、可能性はありますね。』


オリガミは、俺次第で何でもできてしまう可能性を、あっさりと認めていた。俺に責任集中しすぎだろ。分散してぇ。


「どうしても辛くなったら、ワタシか千穂ちゃんに泣きつけよ?慰めてやるから」


「千穂ちゃんにバレるのなんて、たいしたことじゃないぞ?正太郎が壊れる方がずっとヤバいからな?」


オリガミの管理者という立場の重さを、ネムなりに理解してくれているのだろう。


「まあ、辛くなったら、千穂ちゃんの前にワタシのところに来いな?癒やしてやるから。この胸でな!」


そう言うと、ネムはおどけたようにブカブカのパーカーをめくりあげた。


相変わらずぴったり体に張り付いたキャミソールと、それを押し上げる胸部があらわになる。ネムは自分の胸をもみもみしながら、俺をからかうように笑ってみせた。その様子に、思わず俺も反応してしまう。


ああああ!揉みたい!嗅ぎたい!うずめたい!


「やめろぉ!このハレンチ女!トイレ行ってくる!」


色即是空・空即是色


※※※


正太郎がトイレで賢者になるための儀式を行っているときのこと。残されたネムは、やさしい顔で、オリガミと話していた。


「なあ、オリガミ。ワタシは正太郎がオリガミの管理者で本当に良かったと思うよ。ああやって、正しい自分であろうとする正太郎だからこそ、オリガミが恐怖の存在になってないんだろうからな」


『ネムさん、私もそう思います。前管理者のお父様も、私には人類の味方であって欲しいと願っていました。本当に、お兄様がお兄様でよかったです。』


ネムは少し考え込むように黙り、やがて口を開いた。


「なあ、例えば正太郎が、衝動的に一週間だけ人類を滅ぼしたいと思ったら、オリガミはどうするんだ?一週間後に絶対に正太郎が後悔すると予測できている場合でも、その一週間は人類の敵になっちゃうのか?」


オリガミは少し間を置いて答えた。


『……わかりません。本当にわからないんです。そのときのお兄様の幸福値がどのように計測されるのか、それ次第だと思います。ただ、お兄様に命令されたら……拒否はできないと思います。』


しばらく沈黙が流れた後、オリガミが続けた。


『ネムさん、お願いがあります。一度、そのあたりのことをお兄様と相談していただけませんか?そして可能であれば、私を止めるストッパーのようなものを設けていただけると助かります。』


「……わかったよ。ワタシも責任重大だな。半グレ関係の話が片付いたら、話し合うことにするよ」


ネムは珍しく真剣な表情を浮かべていた。しかし、その空気も長くは続かなかった。


「ストッパーの仕組みを考えるのは、ちょっとワクワクするな!」


重い話なんてなかったかのように、ネムは目をキラキラさせていた。


※※※


俺がトイレから戻ると、オリガミとネムは何か話していたようだったが、俺の姿を見るとすぐに話題をこちらに向けてきた。


「というわけで、『自動更生箱庭計画』には私も賛成だよ。正太郎とその周囲の人間を守るためにも、できるだけ優秀な人材を配置したい。今は倫理がどうこう言ってる場合じゃないしな」


「そもそも、私は研究者として倫理なんてものはあまり好きじゃないからな!」


ネムは自信満々に胸を張って言った。マッドサイエンティストかな?


でも、これだけは言っておかなくては。


「ネム、もう夜にアイスとか買いに行くのはやめてくれよ?お前も俺にとって大事な人間なんだからな?」


「わ、わかったよ……」


ネムは少し顔を赤らめて答えた。


「ネムがアイス買いに行ったせいで人類滅亡とか、シャレにならないからな!」


「わかったってば!しつこいな!アイスはちゃんと買い置きしてあるから大丈夫!」


ネムはむくれた顔で、俺達に見せるように冷凍庫を開けた。


「……見てみろ?バニラ、チョコミント、ロイヤルミルクティー……全部揃ってるから」


ネムは得意げな顔だった。


※※※


「さて、今回の半グレ私兵化作戦の名前はどうしましょうか?」


「はいはい!ワタシが決める!」


ネムが元気よく手を挙げる。


『はい、ネムさん。どうぞ。』


「『わるい子よい子化作戦』ってのはどう?」


「おお、いいじゃん!半グレどもをおちょくってる感じが最高!」


正直、半グレなんかに真面目に向き合うのは気が進まない。遊ぶくらいでいい。


『ただ、少し長いですね。もう少し短い作戦名をおすすめします。』


「じゃあ『よいこ化作戦』!」


『いいですね。お兄様、いかがでしょう?』


「いいと思うぞ。じゃあ使用する『自動更生箱庭』は『よいこ保育園』にしよう」


「いいな!じゃあ前庭砲は『よいこビーム』で!」


俺は思わず感心した。


「ネム…お前、センス良すぎだろ?いけてるぞ!」


「正太郎もな!『よいこ保育園』とか天才かと思ったぞ!」


「「はっはっはっ!」」


やっぱりネムとは気が合うな。


そこでオリガミが生暖かく聞こえる声で言ってきた。


『お兄様、良かったですね。本当に仲が良さそうで……』


※※※


落ち着いたところで、オリガミがこれからの事について話し始める。


『「よいこ保育園」として使うために、新しめの廃校舎を探して購入しておきます。』


『利用可能にするには業者の手配が必要そうですね。本当は秘密保持のために業者をあまり入れたくないのですが、今回はやむを得ません。早く私兵が欲しいところです。』


確かに。情報なんてどこから漏れるかわからないしな。


そのオリガミの言葉を聞いて、俺は言う。


「結局、何をやるにも人と金が必要だな。金はあるから、次は人材か。よいこ化作戦まで一週間くらいしか余裕ないし、多少コストがかかってもいいから特急で頼んでおいてくれ。撮影用だと言えば、なんとかなるだろう」


金さえあればある程度の無理は通せるものだ。


『承知しました。お任せください。おそらく問題ありません。準備が整い次第、改めてご報告いたします。』


※※※


その時、ネムが口を挟んできた。


「あと……準備とかで現地に泊まることもあるんだろ?ワタシも行きたいぞ?宿泊先や移動はどうするつもりなんだ?」


あー、きちゃったその質問。しかたないなー。聞かれちゃったもんなー。


「ふっふっふっ、見てみろ!」


「そ、それは……まさか!」


「そう、運転免許証だ!」


俺はドヤ顔でネムにそれを見せた。


「な、なんだと……いつの間に!お前、まだ高校生じゃなかったか?」


「ふっふっふっ、もう18歳だぞ。成人だ。ネムと同い年さ!」


「くっ、そうだった!ワタシはまだ持ってないのに!」


ネムは、脚がアクセルとかブレーキに届かなそう。運転無理じゃね?


そんなことを思いながら、俺はさらに畳みかけた。


「ふっふっふっ、そしてこれを買う!」


机の上にキャンピングカーのパンフレットをずらりと並べる。


「キャ、キャンピングカー!」


ネムは目を見ひらき、驚きの表情をする。


「そう、キャンピングカーだ。これを移動基地にする。寝るときはバンクベッドで寝ればいいし、通信は衛星通信を使う。車両サイドには前庭砲デバイスを装着する。」


「て、天才かよ……ロマンの塊じゃないか!ワ、ワタシも買うときは絶対ついていくぞ!」


会社の経費でキャンピングカーとか最高すぎるだろ。


「ああ、千穂も誘って一緒に行くぞ。いやー、楽しみだな!」


「うん、楽しみだ!」


こうして、俺たちの「よい子化作戦」に、キャンピングカーというロマンがさらに加わったのだった。

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