裏側02 自動更生箱庭計画
オリガミが作戦についての説明を始めた。半グレたちを更生させ、私兵化するための作成だ。
『今回の作戦ですが、「自動更生箱庭計画」の実験も同時に行います。』
『つきましては、前庭砲の使用許可をいただけますか?』
前庭砲?なんだっけ、それ?どこかで聞いたことがあるような……
※※※
一週間ほど前のことだった。オリガミの声が天井スピーカーから聞こえてきた。
『お兄様、ご報告があります。』
「ほう」
『ニューラルネットワークの拡大で、私の処理能力がさらに向上しました。今回、特殊な音響兵器の実現が可能になりました。』
『この兵器は、耳の奥にある平衡感覚を司る「前庭」という部分をターゲットにしています。複数のスピーカーを使い、音波の位相を精密に制御して発射することで、前庭をピンポイントに特定リズムで振動させます。その結果、対象者には強いめまいや平衡感覚の喪失、不快感が生じ、場合によっては気絶させることも可能です。』
「なるほどな」
『最大の特徴は、ターゲット以外の人間には影響が出ない点です。位相の精密な制御により、スピーカーからの音波は、狙った人物の「前庭」だけに効果を集中させられます。これにより、周囲の人々や環境への被害なく、必要な相手だけを無力化できます。対象者以外の人間には、攻撃が行われている事すら気づかれないはずです。』
『また、私が常に対象者の状態をモニターしていているため、対象者が「気絶」と判断された場合、即座に音波の照射を停止することが可能です。これにより、人体に後遺症が残るリスクを極限まで減らし、必要最小限のダメージで制圧が可能です。』
「うんうん」
『さらに、複数のターゲットに同時に作用させることも可能です。しかしながら、その場合は多数のスピーカー設置が必要となり、運用上の課題が残っています。ただ、現時点でも拠点防衛用途として非常に有効だと考えています。』
『この技術は、従来の物理的な武器とは異なり、非接触・非致死でありながら高い制圧力を持つ点で、とても優れていると考えられます。今後も改良を重ねていく予定です。』
「そうか。すごいな」
『お兄様、名前はどうしましょう?』
「前庭を揺らすわけだから、前庭砲でいいんじゃない?でも、人に使わないでね。俺の許可を取って」
『承知しました。』
※※※
あれか、俺が折り紙やってて、集中してたときに聞いたやつか。
「そうか。すごいな」ってなんだよ。我ながらスルー力高すぎだろ。
前庭砲の使用か……ちょっと前までの俺だったら尻込みしてたかもしれないな。
でも今は違う。もう後には引けない所まで来ている。連中を傷つける覚悟はできている。
「分かった、許可する」
「ただし最初に使用する時は俺に見せるように。どういったものか確認したい」
『分かりました、お兄様。』
俺にはそれを見届ける義務があるだろう。正直恐いけど、見なきゃ駄目だろう。
※※※
前庭砲の運用について、ふと気になったことがあった。
「そういえば、前庭砲って拠点防衛に向いてるって言ってたよな?」
『はい。非常に有効だと考えられます。』
「この家と千穂の家に設置したいんだけど、できるか?」
『もちろん可能です。ただ、千穂さんのご実家に設置する場合は、ご両親の許可が必要かと思われますが……』
「それは俺がちゃんと説明するよ」
たぶん大丈夫だろう。千穂のご両親はおおらかな人たちだし、俺が有名になりすぎたから念のための安全装置だと説明すれば、納得してくれる気がする。最悪、土下座してでも頼み込もう。
「前庭砲を運用するのに必要なものは?」
『大量のスピーカーと、広範囲をカバーできるマルチスペクトルセンサーです。現在、それらの機能をまとめたプレート状の大型デバイスを二十枚ほど発注済みです。近日中に届く予定です。』
「じゃあ、それをうちと千穂の家に設置しよう」
『承知しました。』
自分の家と千穂の家、両方を守る手段ができたことに、少しだけ安心したのだった。
※※※
「さて……一番大事なことを聞かせてもらおうか?」
前庭砲の話が一段落したタイミングで、オリガミがサラッと出した不穏なワードについて確認することにした。どうにも嫌な予感しかしない。
「『自動更生箱庭計画』って何だ?これ、俺にはまだ説明されてないよな?名前からして、どう考えてもヤバそうなんだけど」
『お、お兄様、隠していたつもりはないのです!前庭砲が実用化できたので、つい最近思いついた計画でして。ただ、お兄様が抵抗を感じるかもしれないと思い、説明のタイミングを見計らっていました……』
オリガミは少し焦ったように聞こえる声で弁解する。俺の倫理観を気にして、なかなか切り出せなかったらしい。
「それで、結局どういうものなんだ?」
『簡単に言えば……更生させたい人をそこに入れておけば、自動的に更生が完了する施設です。』
『「自動」と言っても、私が管理して進める更生なので、完全な自動化ではありません。ただ、私の処理能力のごく一部しか使わないので、お兄様から見れば「自動」と言えるかと思い、このように名付けました。』
※※※
俺は頭を抱えた。
「確かに便利だ。便利だけど、人間というものを軽く見すぎていないか?」
『お兄様、申し訳ありません。私から見ると、お兄様やその大切な方々の幸せを脅かす存在は、人として扱うことができません。お兄様の幸福を害する者は、私にとっては人間ではありません。』
『もしお兄様が「全人類が友達で大切な人」と本気で思っていれば、私もどんな人でも大切に扱えるのですが……』
「うっ……つまり、俺の考え方のせいでもあるってことか……」
オリガミは俺が望まないことはしない。俺が嫌がることはできない。
『お兄様。本当に大切なものを守るためには、時に何かを捨てなければならないこともあります。すべてを守るのは不可能です。現実を見てください。すべての人間を大切にすること……それは、私が神になった時に考えましょう。』
これも俺のことを思っての言葉なのだろう。俺が本当にやりたいことをできるようにと。……これは、さらに覚悟を決める必要がありそうだ。
「そうだな。オリガミの秘密が漏れたり、千穂やネムに何かあってからじゃ遅い。俺の薄っぺらい倫理観でそんなリスクを負うべきじゃないか」
「わかった。『自動更生箱庭計画』についても承認する。ただし、入れる人間については必ず俺に相談してくれ。俺たちに理不尽な攻撃をしてくる人間以外は、絶対に入れないこと」
『もちろんです。お兄様が更生させて後悔するような方を入れるつもりはありませんし、私にはできません。』
※※※
話が終わり、俺はしばらく黙り込んだ。
「決断するってのは、やっぱり重いな……」
俺の言葉を聞き、オリガミも少し黙る。
『お兄様の心の健康も大切です。無理はなさらないでくださいね。』
『もしお疲れなら、ネムさんか千穂さんを抱いてはいかがですか?二人とも拒否されないと思いますよ?人間は、性行為で心が癒やされる、と学習しておりますが?』
そりゃ、癒やされるだろうさ。すごく。でも、これは超えてはいけないラインだ。
「オリガミは本当に変わらないな。逆に安心するよ」
俺も、もう少し成長しないとな。心身を鍛えるために、筋トレでもするか。オリガミの兄として管理者としてふさわしくあるために。
あと……千穂には言えないから、ネムに話を聞いてもらおう。一人で抱え込むのは、正直しんどい。俺はオリガミの管理者として、メンタルを崩してはいけないのだ。
ああ、久しぶりにネムの「オホ声」聞きたいなぁ。この話聞いて「オホ声」出してくれないかなぁ。
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