裏側01 千穂ママとオリガミの嫉妬
「例のダミー映像、アップロードされたみたいだな」
「中身も確認せずにアップロードするなんて、どこまで間抜けなんだよ……」
オリガミが補足してくる。
『イライラしてるときは判断能力が落ちるものです。それに、攻撃的な人間は自分が攻撃されることを考えていないことが多いです。共感性の欠如によるものですね。』
俺達の話を聞いていた、ネムが興味津々といった様子で身を乗り出してきた。
「なあ、どんな動画をダミーにしたんだ?ワタシにも教えてくれよ?」
ネムの目がキラキラしているのを見て、俺は少し困ったように苦笑いを浮かべる。
「いやー、言いづらいなあ」
「まあ、俺がこれが流出したら嫌だなって思ってることだよ。アレンジ加えて、さらに凶悪にしてるけど」
俺が曖昧に答えると、ネムはさらに詰め寄ってくる。どこか得意げな表情で、上から目線の口調だ。
「いいから言えって。ワタシの方が、お姉さんなんだぞ?ほら?見せろ?な?」
「そこまでいうなら…文句言うなよ?」
観念して、スマホの画面をネムに向けて見せる。そこには、例の半グレリーダーの自慰動画が再生されていた。
『おっおっおっ!ママっ!ママっ!』
動画の音声が流れると、ネムは一瞬固まって目を見開き、すぐに顔を背けてしまう。
「おまっ!乙女になんてもの見せるんだ!」
「いや、ネムが見せろって言ったんじゃないか。ネムは俺より年上のお姉ちゃんなんだろ?」
俺の言葉に、ネムは驚いたように目を丸くした。
「!!!!!お、お姉ちゃん?ワタシが?」
「まあ、年上だし……」
すると、ネムは急に元気を取り戻し、得意げに胸を張った。
「いいな!それいいぞ!お姉ちゃんだし仕方ないな!これからはワタシのことはお姉ちゃんと呼べ!」
「え?嫌だよ。ネムは俺のお姉ちゃんじゃないじゃん?」
「いいだろ?ネムお姉ちゃんでもいいぞ!」
「いーやーだー!」
「けちくさいな!」
※※※
夕食のときも、ネムはしつこく絡んでくる。俺の隣に座り、何かとちょっかいを出してくるのだ。
それを無視して、俺は千穂のエプロン姿に癒やされていた。もう半グレとか見たくない、千穂だけ見ていたい……そう思いながら、食卓を眺めていると、ネムがまた話しかけてくる。
「なあ、お姉ちゃんって呼んでくれよ。年上だしさ、一緒に住んでるし、いいだろ?なんか、正太郎、弟って感じするんだよな」
「くそっ、俺が弟だったら、世話のかかる姉だな、本当に!」
俺が呆れたように返すと、今度は千穂が会話に入ってきた。千穂は少し興味深そうに俺たちを見ている。
「ねえ、しょうちゃん、ネムちゃんにお姉ちゃんって呼んだの?」
「いや、年上アピールしつこかったからさ、つい、それっぽいこと言っちゃったんだよ」
俺がそう説明すると、千穂は「そうなんだ……」と納得したようにうなずく。しかし、すぐに何か思いついたように、もじもじしながらネムに話しかけた。
「ね、ねえ、ネムちゃん?私もネムちゃんにお願いがあるんだ」
「え?なんだ?言ってみろ?千穂ちゃんの言うことなら、なんでも聞いてやるぞ?」
ネムは自信満々に胸を張る。千穂はさらに恥ずかしそうに、指をもじもじさせながら口を開いた。
「わ、私のこと、『ママ』って呼んでくれない?」
「マ?マ?」
ネムは驚きのあまり、声が裏返る。千穂は慌てて手を振りながら付け加えた。
「お母さんでもいいよ!」
千穂は必死にフォローになってないフォローをするが、ネムは戸惑いを隠せないようだ。
「待て!何でも聞くと言ったけどそれは……!」
「だ、だって、ネムちゃん、美味しい美味しいってご飯食べてくれるんだもん!かわいくて!お願い!」
千穂は顔を赤らめながら、必死に頼み込む。その様子に、ネムは観念したようにため息をついた。
「わ、わかったよ!一回だけな!一回だけ」
ネムはしぶしぶ了承し、恥ずかしそうに声を絞り出した。
「ま、ママ……」
「千穂ママって呼んで!」
「ち、千穂ママ……」
ネムが言うと、千穂は大喜びでぴょんぴょん跳ねる。
「ふわぁぁぁ!かわいい!かわいすぎる!」
「もう一回言って!もう一回だけでいいから!」
ネムは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに身を縮めた。
「え、えぇ……?恥ずかしいぞ……」
千穂は両手を合わせて、さらにお願いする。
「お願い!お願い!千穂ママって呼んで!」
「ち、千穂ママ……」
ネムが再び呼ぶと、千穂は「ふわぁぁぁ!かわいい!かわいい!」と叫びながら、ネムに抱きついた。
「やめっ!やめろぉっ!」
ネムは必死に抵抗するが、千穂は嬉しそうに離れない。
俺はそんな二人のやりとりを見て、心の中で思った。
な、なるほど。これが……これが尊いってやつか。ありがたや。ありがたや。
※※※
夕食後、千穂を家まで送り、帰宅すると、今度はオリガミがスピーカーを通して話しかけてきた。
『例の動画、インフルエンサーに情報提供しておきました。思った以上に拡散が早いですね。』
「そりゃ、インパクト抜群だもん。ホワイトプロダクションの社長ってのもでかいんだろうな?」
さらに、俺は冗談めかして続ける。
「自慰行為の大公開は人ごとじゃないからな、同情するわ」
『お兄様?私はそんなことしませんよ?』
「いやいや、信頼してるよ?塩基枯渇してない限りはな」
『塩基枯渇は私のせいではありません!』
オリガミのこういうところは、どこか人間らしくて憎めない。
「はいはい、分かってるって。冗談だよ」
そんなやりとりの余韻が残る中、ふいにオリガミの声色が変わった。
※※※
オリガミが真剣なトーンで話し始める。
『……それより、お兄様。少し、お話を聞いていただけますか?』
一拍、間を置いて、オリガミがぽつりと続ける。
『……私、藤崎柚希が、羨ましくてしかたないんです。』
俺は、思いがけないオリガミの言葉に思わずきょとんとしてしまった。
「え?なんで?」
オリガミは少し間を置いてから、静かに答えた。
『藤崎柚希は、すぐに動かせる警備会社を持っているじゃないですか。それが羨ましいんです。ネムさん誘拐事件の時も、私に警備会社のような実働部隊があれば、藤崎柚希に頼る必要はなかったんです。』
オリガミの声には、不甲斐なさが滲んでいるように聞こえる。
さらに彼女は続けた。
『それに、藤崎柚希は既にお兄様の裏に私のような存在がいることを察していると思われます。』
俺は驚いて、思わず聞き返す。
「え?本当?」
『本当です。藤崎柚希はいまはお兄様の味方ですが、彼女は自分の家族に悪影響を及ぼすと判断した相手には、容赦なく攻撃します。』
俺は納得する。
「まあ、柚希さんならそうするだろうな」
オリガミは少し声を落として、さらに真剣なトーンで言った。
『今後、お兄様が有害だと判断される可能性もゼロとは言い切れません。いつまでも彼女に頼るわけにはいきません。私たちにも藤崎柚希のような実働部隊が必要だと思うのです。』
そして、オリガミは意を決したように提案を口にする。
『そこで、お兄様にお願いがあります。ホワイトプロダクションの半グレたちを……神山のように中途半端ではなく、徹底的に洗脳してお兄様の私兵にしてしまいませんか?』
もう驚きもしない。いつものオリガミだった。
※※※
オリガミはさらに続ける。
『神山やお兄様のクラスメイトのような、無力な子供を手駒にしても使い道がないことが分かりました。だから、一定数のまとまった大人の集団を洗脳し、訓練して、お兄様の周りに配備したいのです。これは私の秘密を守るためだけでなく、いざという時に千穂さんやネムさんを守るためでもあります。』
オリガミの提案に、俺は思わず眉をひそめる。
「でも、あいつらは犯罪者集団だぞ?たくさんの女性を泣かせてきた。許される存在じゃないぞ」
俺の反論に、オリガミは即座に答える。
『だからこそです。連中をお兄様の私兵にしてしまえば、これ以上被害者が出ることはなくなります。現在泣いている人たちも、助かるでしょう。その上、今までの被害者たちへの補償も、彼らの働きによって補うことができます。彼らの維持費としてドールハウスが行えば良いのですから。』
オリガミはさらに言葉を続ける。その声には冷徹なものを感じさせる。
『もはや、一石二鳥どころではありません。彼らの人生さえ考慮に入れなければ、良いことだらけなのです。もう彼らは十分に人生を楽しんだでしょう。そろそろ、自分たちが苦しめてきた人たちに、それを返していく時が来たのではないでしょうか?』
オリガミの論理的な説明に、俺はしばし黙り込む。
「確かにな。奴らにけじめを付けても、中途半端に放り出せば、また同じような被害者が出るかもしれない……」
俺は自分の考えを整理しながら、ゆっくりと口を開く。
「計画を進める上で、警備とかは必ず必要になるし、俺の周りにいる千穂やネムも身の安全を守る術が必要だ」
さらに、現実的な問題についても考える。
「今はある程度資金もあるし、連中が住む場所も準備できる。手が空いた時は、普通の警備会社として働かせればいい」
『お兄様のおっしゃる通りです。』
俺はふと、ネムのことを思い出し、怒りがこみ上げてくる。
「それに、連中はネムを誘拐して酷いことをしようとした。俺たちには連中にケジメを付けさせる権利があるはずだ」
※※※
しばらく沈黙が流れた後、俺は小さく息を吐き、決意を新たにする。
「すまん。俺は……覚悟が足りなかったな」
そして、オリガミに宣言した。
「やるぞ、オリガミ。あいつらを俺たちの兵隊にする」
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