ざまぁ④半グレ、よいこ保育園での一日目
『それでは、保育園生活一日目のスタートです!よいこの皆さん、盛大な拍手をお願いします〜!』
ぱちぱちぱちぱち……
俺たちは顔を引きつらせながらも、拍手をしないわけにはいかなかった。
※※※
『これからは坐禅の時間です。おトイレなどは先に済ませておいてくださいね。』
数分後。
『はい、まずNo.01から順番に、指定された番号の場所に移動してください。自分の番号は服に貼ってあるので確認してくださいね。』
俺はNo.01だったので、右奥の最前列に移動した。素直に指示に従うしかない。
『準備はできましたか?それでは、あぐらを組んで背筋を伸ばし、目を閉じてください。』
『自分の体の内側に意識を向けて、「今ここ」で体に何が起きているかを感じ取ってください。』
言われた通りに坐禅を始める。反抗すれば「よいこビーム」が飛んでくる。どうしようもない。
そして、これからどうするかをひたすら考えながら、坐禅の真似事を続けていた。
十分ほど経った頃、隣のやつの様子がおかしいことに気づいた。
モゾモゾモゾ……
また話を聞いていなかったやつがいる。トイレなら先に行っておけよ。
『しっかりと「今ここ」に集中してくださいね。よいこビーム!』
「ぐっががあががあがああ!」
うわっ、こいつ漏らしやがった!汚ねぇ!
※※※
『次は教育の時間です!』
『これから、よいこの皆さんにとって最も大切な授業、「お兄様のすばらしさ」について学んでいただきます。こちらが、お兄様のご尊影です。』
「誰だよこの陰キャっぽい奴は。藤崎正太郎なんて知らねーよ。」
『聞こえてますよ。お兄様の悪口だけは、絶対に許しません!よいこビーム!』
「ぐっががあががあがああ!やめてくれぇ!」
「よいこビーム」は本当に苦しい。俺たちは逆らえない。
『よいこの皆さん、頭が高いですよ。膝立ちになって、手のひらを胸の前で組み、お兄様のご尊影を拝見しながら、壁に貼られている紙のとおり、心を込めて唱えてください。』
※※※
"藤崎正太郎様は、ぼくたちの道しるべです。
藤崎正太郎様は、誰よりも賢く、優しく、そして強いお方です。
ぼくたちは藤崎正太郎様を信じて、藤崎正太郎様に従います。
藤崎正太郎様のお言葉は正しいです。
藤崎正太郎様のなさることは正しいです。
ぼくたちは藤崎正太郎様を信じて、毎日努力します。"
※※※
俺たちは言われた通りに、大声で紙に書いてあった言葉を叫ばされた。何度も何度も復唱させられる。
そのうち、手下たちの中から、ボソボソと藤崎正太郎への悪口が聞こえてきた。普段自分たちが見下しているようなタイプを褒めなきゃいけないのが、どうしても我慢ならないのだろう。「よいこビーム」が怖くないのか?
だが予想に反して、いつまで経っても「よいこビーム」は飛んでこなかった。もしかしたら、大きな声じゃないと感知されないのかもしれない。脱出のヒントになるかも、とも思った。
ただ、俺はそんな悪口に加わる気にはなれなかった。体育館のあちこちに設置されたカメラが、じっとこちらを監視している気がした。
ドールハウスの手のひらの上で踊らされていたと知った今、藤崎正太郎への悪口が放置されているのにも、何か理由があるのかもしれないと思ってしまう。今の俺には、行動を起こす気力も勇気もなかった。
※※※
『お昼ごはんの時間ですよ!自分の場所の隅に並べてある机と椅子を持ってきてください。冷凍庫から「一日目昼」と書いてあるメニューを取り出し、レンジで温めてから持ってきて、椅子に座って待っていてください。』
手下たちは、ブツブツと文句を言いながらも、指示通りに動いた。
俺も同じようにした。
『それではご飯を食べましょう。いただきます!』
状況には納得いかないが、腹は減っていたので、スプーンを手に取り食事を始めようとした。
そのとき、またスピーカーから声が聞こえてくる。
『いただきますの挨拶がありませんね?』
俺たちは慌てて、声を張り上げて「いただきます!」と言った。今にも「よいこビーム」が飛んできそうだったからだ。
昼食として用意された食事を食べる。美味しくはない。全体的に薄味で、いかにも健康食といった感じだ。
「なんだこれ、まずいな!」
また、学習能力のないやつが大声で文句を言った。
『よいこビーム!』
「あががががっががっ!おおおお、おいしいです!」
『体に良い食事というのはこういうものです。大丈夫ですよ。何日か経てば、これが美味しく感じられるようになります。』
俺たちは、あまり味のしない食事を、黙々と食べるしかなかった。
※※※
食後は三十分の昼寝を強制された。精神的に疲れていたせいか、すぐに眠りに落ちた。目覚めたときは意外とスッキリしていた。手下たちも同じように、少し元気を取り戻したように見えた。
※※※
『次は運動の時間です。健全な精神は健全な肉体に宿ります。よいこの皆さんもがんばりましょう!』
俺たちは腕立て伏せ、腹筋、スクワット、そして3分間ランニングを、繰り返し、三十分ほどやらされた。くそっ!女と夜に遊ぶ以外で、こんなに動いたことなんてないぞ。
ゼーハーゼーハー言いながらも、なんとかメニューをこなしていく。
なぜなら、サボるとすぐに「よいこビーム」が飛んでくるからだ。
『No.12さん、サボってますね!よいこビーム!』
「うぎゃあああああ!やめてくれぇぇ!」
『心拍数をモニターしています。サボることはできませんよ。』
俺たちに逃げ場はなかった。
※※※
『晩ごはんの時間ですよ!昼のときと同じように、自分の場所に机と椅子を持ってきてください。冷凍庫から「一日目夜」と書いてあるメニューを取り出し、レンジで温めてから持ってきて、椅子に座って待っていてください。』
俺たちは言われた通りに動いた。もうクタクタで逆らう気力も残っていなかった。
さすがに文句を言うやつはいなかった。運動後でお腹がペコペコだったため、昼間は味気なく感じた食事も、夜はとても美味しく感じた。他の連中も同じようだった。
※※※
『さあ、本日の総括の時間です。みなさまの本日一日の態度を下記の点に着目して採点してみました!』
・お兄様への態度が正しかったか?
・きまりを守ったか?
・おともだちとなかよくできたか?
・つらいことにくじけなかったか?
・いわれたことをまもれたか?
『結果は……』
ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥル
ドラムロールが流れて、勿体ぶる。
『45点でした!』
『まあ、初日です。こんなものでしょう。しかし、お兄様への誹謗中傷があったのが致命的でした。聞こてえないと思いましたか?甘いです。』
『そして!お待ちかね、本日の「がんばったで賞」は…!』
ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥル
はぁ?「がんばったで賞」ってなんだ?
『No.01さんです!おめでとうございます!坐禅の時間に一番動かなかったことが評価されました。それと、お兄様への誹謗中傷がなかったのが素晴らしかったです!』
手下どもがこっちを見てくる。え?俺?ああそうか、ここではNo.01と呼ばれてたっけ。
『今日の点数は45点でした。80点以下でしたので、「頑張ったで賞」のNo.01さん以外、「よいこビーム」です。よいこビーム!!!』
「「「「「「「ぐぅああああああああぁ!!!」」」」」」」
周りで苦しむ手下たちを見て、俺はホッとした気持ちとともに、恐怖で背筋が凍った。ドールハウスとは一体なんなんだ?俺は、本当に何に手を出してしまったんだ?
※※※
『それでは、「がんばったで賞」のNo.01さん。奥の部屋へどうぞ。ご褒美の時間をお過ごしください。』
俺は声に促されて、奥の部屋へと歩いていった。
そこには大きなスクリーンがあり、俺がドールハウスから引き抜こうとしていた「アユ美」が映し出されていた。
『ごめんねー。「保母ガミ」は厳しかったでしょ?さあ、ソファに座って!ポテチもコーラもあるよ!アイスもあるよ!一応アルコールもあるけど、健康によくないからね……』
可愛らしい声で、アユ美が俺に話しかけてくる。
「あ、ああ。ポテチとコーラで大丈夫。」
『それがいいよ!でも、ここに来て大変だったでしょ?せめてこの部屋にいるときだけは、ゆっくり休んでいってね。お兄様も言ってたよ!あなたの坐禅はキレイだって!すごいね!お兄様に褒められるなんて、尊敬しちゃう!』
「そ、尊敬?」
そんなこと言われたことがあったか?いや、なかった。あるわけがない。
『そう、尊敬しちゃう!お兄様に褒められるって、すごいことだよ!』
尊敬……その聞き慣れない言葉に、俺はなぜか呆然としてしまった。その後もアユ美は、俺のあれがすごかった、これが良かったと、たくさん褒めてくれた。こんなに理解してくれる相手は初めてだった。
『「保母ガミ」もね、君たちのことを思って、あんなに厳しくしてるんだよ。あ、「保母ガミ」は君たちに「よいこビーム」を打ってくる子ね?』
『たまに泣いてるよ。「よいこビーム」打つのがつらいって。ただね、人に変わってもらうって本当に大変なんだ。彼女はね、君たちに人を幸せにできるような、そんな人間になってほしくて頑張ってるんだよ。あまり彼女を嫌わないであげてね?』
何も言えなかった。そんなふうに言われてしまっては、彼女を悪く思うこともできなくなってしまう。俺は沈黙の中、考え込んでしまっていた。
『ああ、ごめんね。時間みたい。また「がんばったで賞」をもらったら、いつでもここに来られるから。No.01さん、これからも頑張ってね♪』
俺は、こうして何が正しいのかさっぱりわからなくなり、ご褒美部屋からフラフラと外に出た。
※※※
ご褒美部屋から出た俺に、手下たち……いや、仲間たちが駆け寄ってきて、質問攻めにしてきた。
「なあ、ご褒美の時間ってなんだったんだ?女でもいたのか?」
俺は隠し事や嘘をつく気にもなれずに言った。
「アユ美がいたよ。でもVTuberとしてな。抱けるとかそういうエロいのはない。でも、ポテチやコーラやアイスは食べられたよ。アルコールもあるらしい。……なんだか、久々に気持ちいい時間を過ごせた気がする」
そんな俺の言葉に、仲間は言う。
「なんだ、それだけかよー!行く価値ねーな!」
その言葉を聞いた俺は、思ったことを正直に言った。
「いや……一度は行っとくべきだと思う。少なくとも俺は……なんか救われた」
そんなことを言う俺に「はあ?」という反応を返してきたが、俺の真剣な顔を見て、なにか感じることがあったようだ。黙り込んだ。
そんな仲間に俺は宣言する。
「俺は……明日からも『がんばったで賞』狙うよ。お前らも頑張れよ。少なくとも、あいつらは俺たちのこと見ててくれるから」
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