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ざまぁ③半グレ、よいこ保育園に入園

「……ん、うう……」


ぼんやりと意識が浮かび上がってくる。


えっと、なにしてたんだっけ?女とヤろうとしてたような?……そのあと、急に気分が悪くなって……あれ?なんでそんな事に?


はっ!そうだ。手下たちと一緒にドールハウスの社屋に乗り込んだんだった!


俺は勢いよく上体を起こす。


目の前に広がっていたのは、古びた体育館のような空間だった。長い間使われていなかったのか、壁板はあちこち剥がれかけ、床板も何枚か割れている。


窓の隙間から差し込む光で、すでに夜が明けていることに気づく。


周囲には手下たちが無造作に転がっていた。まずは、こいつらを起こさないとな。


※※※


「おい!起きろ、しっかりしろ!」


俺は一番近くに倒れている手下の肩を強く揺さぶった。


「う……ん……ボス?ここ、どこだ……?」


そいつもゆっくりと上体を起こし、ぼんやりと周囲を見回す。


「ボス……女たちは?」


「いない。だが、それどころじゃなさそうだ」


「は?どういうことっすか?」


「どうやら捕まったらしい。でも警察もいないし、ドールハウスの奴らも見当たらない。俺たちも縛られてるわけじゃないし……ん?」


ふと左手首に違和感を覚え、見てみると、見慣れないスマートウォッチが装着されていた。


「なんだこれ……?スマートウォッチか?いつの間に……?」


何のために付けられたのか、まったく見当がつかない。


「まあいい。とりあえず扉は開いてるみたいだし、外に出られそうだ。まずは全員起こして外の様子を見ようぜ」


「あ、ああ……」


俺たちは手分けして、仲間たちを次々と起こしていった。三十人近くもいたので、なかなか骨が折れる作業だった。


※※※


「……よし、全員無事みたいだな。じゃあ、外の様子を見に行くぞ」


手下どもはポカンとして、周りを見渡している。自分たちの状況がまだ理解出てないようだ。無理もない。俺もよくわからない。


少し時間が経つと、手下たちがざわつき始める。


「なあ、俺たち、なんでこんなとこにいるんだ?」


「頭がガンガンして、気づいたらここだったよな……」


「誰もいないし、そろそろ出てもいいんじゃね?」


俺は扉の隙間から外をそっと覗いてみる。やはり人影は見当たらない。


外に出た瞬間、撃たれたりしないよな……いや、ここは日本だ。そんな映画みたいなことあるわけがない。


「なあ、誰か外に出てみてくれ。ちゃんと出られるか確認したい」


そう言うと、手下たちが一斉に反発してくる。


「やだよ、なんで俺たいが。リーダーが先に行けよ」


「そうだろ?こんな目に遭ったの、リーダーのせいだし」


ちっ、こいつらもノリノリだったくせに、こういう時だけ調子がいい。


「ふん、臆病者どもが」


ここで舐められるわけにはいかない。俺は意を決して体育館の外へ一歩踏み出した。


――その瞬間、頭の中に強烈な不快感が走る。


「うがあああああっ!!」


思わず頭を抱え、体育館の中へ転がるように戻ってしまう。


「お、おい!どうしたんだよ?」


手下たちが不安そうに俺を見ている。


くそっ!……外に出ようとすると、あの時みたいな気持ち悪さが襲ってくるのか?


ゼーハーと荒い息をつきながら、俺は必死に気持ちを落ち着かせようとした。


※※※


そんな時だった。


『ぴーんぽーんぱーんぽーん。』


場違いなほど明るいチャイム音が体育館に響き渡る。


『おはようございます、皆さま。「よいこ保育園」へようこそ。』


「ああん!なんだおまえ!」


手下の一人が叫ぶや否や、突然頭を抱えて床を転げ回り始めた。例のアレを食らったのだろう。


「うわああああ!!やめろ、やめてくれぇ!」


『静かにしてくださいね。元気なのは良いことですが、度を超えると「よいこ」ではありませんよ?』


「ふざけんなコラァ!」


別の手下が怒鳴るが、すぐに同じように苦しみ出す。


「うがあああああっ!!」


『学習能力がありませんね?それでは「よいこ」とは言えません。』


…………


『はい、皆さん静かになりましたね。でも、みなさんが静かになるまで5分かかりました。私は悲しいです。おともだち全員で連帯責任です。よいこビーム、発射!』


「「「「「「「うがあああああああ!」」」」」」」


あちこちで悲鳴が上がる。頭が割れそうな痛みに、俺も転げ回る。しかし、それもすぐに収まった。どうやら苦痛の強弱が可能なようだ。なんてこった……。


『はい、よいこビームが効いたみたいですね?皆さん「よいこ」になりました。これからは気をつけましょう。ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために。誰か一人でも「よいこ」じゃなかったときは、みんなに、よいこビームです。』


くそっ……なんなんだよ「よいこビーム」って。なんか……強烈な乗り物酔いみたいな……それを極限まで大きくして一点に集約したような。そんな感じだ。


※※※


『みなさん、「よいこ」ですね。では、これからこの場所について説明します。』


明るく響く透き通るようなキレイな声が、体育館の隅々まで届く。俺たちは、息をひそめてその声に耳を傾けるしかなかった。


『先ほどもお伝えしましたが、ここは「よいこ保育園」といいます。お兄様たちの手をできるだけ借りずに、「わるいこ」を「よいこ」にするための実験施設です。みなさんには、ここで「よいこ」になるまで過ごしてもらいます。』


保育園だと?ふざけてるのか?と心の中で毒づくが、今の状況では口に出す勇気もない。周囲も同じ気持ちなのか、誰も声を上げない。


『みなさん、利き手じゃないほうの手首にスマートウォッチがつけられていますよね?これは「よいこ測定機」です。決して外さないでください。もし外したら、「よいこ」にはなれません。その場合は、おともだち全員に「よいこビーム」が発射されます。』


アナウンスがそう言い終わると、周囲で慌ててスマートウォッチを手首に戻すやつが何人もいた。どうやら、既にスマートウォッチを外していた連中もいたらしい。


『これから、みなさんは「よいこ」になるまで、ここで生活してもらいます。おともだちと力を合わせて、がんばっていきましょうね!』


『それでは、「よいこ保育園」の開園です!みんなで「よいこ」になりましょう!』


アナウンスの声は、どこまでも明るく、無機質だった。


※※※


なんてこった……。これじゃ、どこにも逃げられないし、逆らうこともできない。完全に監視されている。現状では、どうしようもない。


だが、どこにでも空気を読まない……いや読めないやつはいる。案の定、俺の手下の中にも、我慢できないやつがいた。


「てめぇ、ふざけてんじゃねえぞ!」


一人が怒鳴り声を上げて立ち上がる。


「バカ!逆らうな!」


別の手下が慌てて止めようとするが、時すでに遅し。


『よいこビーム!』


無機質なアナウンスの声と同時に、再びあの強烈な頭痛が襲いかかる。


「「「「「「「ぐあああああ!」」」」」」」


体育館中に、苦しみの叫びが響き渡った。

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