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ざまぁ②おっお猫マッマ爆誕

それからも、「おっおママ旋風」は止まらなかった。それどころか、さらなる進化を遂げていた。


気づけば、あの動画の音声だけが切り取られ、ネット上で“素材”として使われるようになっていた。そして、猫の映像と組み合わされて、さらに大きなバズりを巻き起こしていた。


『おっおっおっ♪猫ママっ♪猫ママっ♪おっおっおっ♪猫ママっ♪ままぁ♪ままぁ♪』


俺の情けない声に合わせて、猫が軽やかに踊る。再生数はあっという間に100万を突破した。俺の恥ずかしい声は、完全に世間の表舞台にさらされてしまった。今や小学生ですらこの声を知っている。


この猫が踊る動画は「おっお猫マッマ」と呼ばれているらしい。「猫まんま」とかけているのか?語感が良すぎて、思わず笑ってしまう。悔しいが、よくできている。人の心を掴むのがうまいやつの仕業だ。


コメント欄には「かわいい!」「好き♡」といった好意的な声が溢れている。こいつら、この声の元ネタを知っているのだろうか?たぶん知らないんだろう。だからこそ、こんなにキャッキャッキャッと盛り上がれるのだ。


しかし、あちこちで耳にするようになったこのリズムは、確実に俺の心をすり減らしていった。


※※※


俺の情けない動画が、あの声の元ネタだと気づいている連中も、やはり少なくない。外を歩くと、クスクスという笑い声がどこからともなく聞こえてくるのだ。そのたびに周囲を見回しても、誰もいない。八つ当たりできる相手もいないのだ。


もう、これ以上は耐えられなかった。


俺はついに、行動を起こす決意をした。


※※※


そして、その夜のことだ。


なかなか事務所に集まらない手下たちを、あの手この手でなだめすかし、「うまい話があるぞ」と言って呼び寄せた。みんな、どこか冷めた目で俺を見ている。


俺はそんな連中を前に、わざと大きな声で言い放った。


「おい!おまえら!これからドールハウスの新社屋にカチコミかけるぞ!」


手下の一人、最近やたらと俺に突っかかってくる奴が、眉をひそめて口を開く。


「はあ?俺らに何の得があるんだよ?」


どうやら俺の後釜を狙っているらしい。こちらを引きずり下ろそうと必死だ。


「それ、前にも言ってたよな。高橋を見つけられなかった無能のくせによ」


俺は余裕を装い、鼻で笑って返す。


「はん、『おっおママ』に何言われても痛くもかゆくもねえよ。あ、今は『おっお猫マッマ』だったか?すげえな、時の人じゃん」


一度深呼吸して、落ち着いた声で言い返す。


「まあ、そんな熱くなってんじゃねーよ。すごい美味しい話だぜ?聞きたくないか?ほら、聞きたいやつだけ残れよ。ほかはもう出ていっちまえ。邪魔だ。あー、そうそう、今回の仕事受けるやつは、前金で二十五万やるからな。仕事終わった後にさらに二十五万追加でくれてやる」


金の話を出すと、手下たちの目の色が変わった。


「くっそ、何だよ。その美味しい話って?」


そいつが不満そうに問いただす。俺はニヤリと笑ってそいつを見た。


「ん?お前参加するのか?」


「だから、それを判断するために内容を教えろって言ってんだよ」


苛立った様子で返してくる。俺はわざと間を置き、ゆっくりと口を開いた。


「おいおい、それが人に物を頼む態度か?おまえが女と楽しんでた動画、俺がもってないとおもってたのか?お前、俺に許可なく、ウチのVTuberに手を出したな?事務所の休憩室(ヤリ部屋)のカメラに映ってたぞ?セーラー服、女に着させるならわかるけど、まさかおまえが……なあ?」


俺がそう言うと、そいつの顔色が一気に青ざめた。周囲もざわつく。


「ぐっ!わかった!わかった!わかりました!ナマ言ってすみませんでした!美味しい話ってやつを教えて下さい!リーダー!」


これで一番反抗的なやつを黙らせた。あとは他の連中も様子見に入るだろう。奴らは猿みたいなもんだ。俺がまだまだ力を持ってると思わせれば、静かに従うはずだ。


※※※


「いいか?耳かっぽじって俺に感謝しながらよくきけよぉ?」


俺は手下たちを見回しながら、わざと得意げに話し始める。


「ドールハウスの新社屋ってなあ、人がほとんどいない僻地にあるんだよ。だからカチコミかけても周りから邪魔されない」


手下たちは興味深そうに身を乗り出してきた。


「それにだな?女性寮あるらしいから、女だらけだぞ。百人ぐらい住んでるらしい。VTuberだし美人も多いはずだ。お前らも知ってる通り、VTuberは万が一の顔バレがあるから、きれいな奴が多い。男はいても数人だ。確認済だ」


誰かが小さく口笛を吹く。下卑た笑いが漏れる。


「やつらも人気商売だ。恥ずかしい動画さえ撮っちまえば、俺らには逆らえなくなる」


俺はニヤリと笑い、さらに畳みかける。


「全員、ホワイトプロダクションのものにするぞ!いや、ドールハウスを乗っ取ってもいいな」


「ただなあ、さすがの俺も百人は相手にできないんだわ。お前らも恥ずかしい動画撮影に協力してもらうからな?嬉しいだろ?」


手下たちの目がギラギラと光り始める。期待と興奮が空気を満たしていた。


……ごくん。


どこからか喉を鳴らす声が手下どもから聞こえてくる。ははは。下半身の欲望には逆らえないってか?


な?俺に従ってれば美味しい目にあえるだろ?おまえらはこれからも俺の手足でいりゃいいんだよ。


※※※


俺達はその後、車に分乗してドールハウスの新社屋へと向かった。下調べ通り、移動時間はおよそ一時間だ。


車を降りて正門の前に立つと、警備室はあるものの警備員の姿は見当たらない。


「警備員いねーな?巡回中か?越してきたばかりで間に合ってないのかね?」


手下の一人が周囲を見回しながら言う。


「ボス。そんなことより、はやく行こうぜ。おれ、がまんできねーよ」


もう一人が興奮気味に俺を急かす。


「まあ、そうだな」


猿どもが騒いでいるが、無理もない。この門の先には女が大量に待っているはずだ。


『おっおママ』のせいで最近はそういうのもご無沙汰だったが、今夜はたっぷり楽しませてもらうつもりだ。


俺は手下たちと一緒に門に手をかける。鍵はかかっていない。不用心だな。こちらには好都合だが。


※※※


敷地に足を踏み入れた、その時だった。


静まり返った夜の闇の中、突如として「おっお猫マッマ」の陽気なメロディがどこからともなく流れ始めた。


『おっおっおっ♪猫ママっ♪猫ママっ♪おっおっおっ♪猫ママっ♪ままぁ♪ままぁ♪』


「な、なんだ?なんでこの曲が聞こえてくる?」


手下たちもザワついている。俺と同じく、状況が理解できないようだ。


ぐわんっ!


瞬間、頭に強烈な不快感がはしる。なんだこれは!脳が揺れてる!気持ち悪い!


「ぐ、がああああっ……!」


気づけば、周囲の連中も頭を抱えて地面にうずくまっている。呻き声が次々と上がった。


な、なんだ……?何が起きてる……?


辺りには俺たち以外、誰もいない。ただ「おっお猫マッマ」の曲だけが、無情に響いている。その間も、強烈な、意味のわからない不快感は続く。


「が、がああああぁぁぁ……」


ついに耐えきれず、俺の意識は白い闇の中へと落ちていった。


※※※


やがて、一分後。


門の明かりの下に残されたのは、倒れ伏した男たちの山と、場違いなほど明るく流れる“あの”曲だけだった。


『おっおっおっ♪猫ママっ♪猫ママっ♪おっおっおっ♪猫ママっ♪ままぁ♪ままぁ♪』

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