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防衛ターンの終了

『高橋さんの携帯データの解析が完了しました。連中との最初のやり取りから、最近の通帳記入の指示まで、すべて抽出できています。』


「さすがオリガミ。連中からの一番最初のメッセージ、見つかったか?」


『はい、お兄様。最初のメッセージは「企業からの案件を受けてみませんか?」という内容でした。高橋さんたちが運営していたチャンネル宛てに送られてきたようです。』


「それで、ドール宛てに送られてたメッセージはあった?」


『お兄様の予想通り。同様のメッセージが、登録者数が伸び始めたばかりのドールたちにも届いていました。』


「ホワイトプロダクションは、あれだけVTuberがいるんだ。手当たり次第、伸びてきたVTuberに声をかけてるんだろうな。うちにも似たようなアプローチが来てると思ってたけど、やっぱりあったか」


『特に「アユ美」には何度も同じようなメッセージが届いています。文体解析の結果、高橋さんのところに来たメッセージと99.6%の確率で同一人物から送られたものと判明しました。』


『お兄様、さすがです。こうした直感的な発想は、私たちAIにはまだ難しい分野です。まさかドールたちにも接触していたとは……。盲点でした。このメッセージに返信すれば、自然に連中と接触できますね!』


オリガミはそう言ってくれるが、本当は俺が気づくのを待っていたのかもしれない。


もっとも、たとえそうでなくても、オリガミはまだ成長し始めたばかりの存在だ。これから資金も潤沢になるし、オリガミがこうした思考パターンを身につけるのも、そう遠くないだろう。


※※※


「連中に接触するのか……でもドールの中の人に迷惑はかけたくないし、ネムがドールを演じるのも現実的じゃないよな」


『今回は、直接会う必要はありませんよ。アプリをインストールさせることが目的ですから。』


「そ、そうか。確かにそうだな」


『先ほど、過去にドールたちへ送られてきたメッセージをすべて確認しました。他のドールたちにもかなりの数が届いています。オリ男にも同様のメッセージが来ていました。これは……かなり執着している様子ですね。私がもっと早く気づくべきでした。今後はドールたちへのメッセージも注意深く監視します。』


「本当に、ドールハウスのVTuberが欲しくてたまらなかったんだな。人のものばかり欲しがるなんて、情けない連中だ」


「オリガミが連中のアプローチをガン無視してたから、ネムを誘拐して、脅迫材料にでもしようとしたんだろうな。浅はかだなあ」


※※※


ネムは、こういった話題にはまるで関心がないようだ。リビングのソファに寝転がり、俺の「黒歴史ろくろ回しインタビュー」を何度も再生しては、ケラケラと笑い転げている。片手にはポテチ、もう一方にはコーラ。完全にくつろぎモードだ。


パーカーがめくれ上がり、彼女の大きな胸が、体にピッタリと張り付いた黒いキャミソールをもり上げているのが見える。


このガキィ……(年上)。こっちはお前を守るために必死なのに、当の本人はのんきな顔しやがって……。いつか絶対に思い知らせてやるからな。特にその胸に!


でも、その前にトイレ行っておこう。俺は賢者でなければならない。


色即是空空即是色。


※※※


約一時間後、オリガミがスピーカー越しに報告してきた。


『半グレのリーダーのスマートフォンとパソコン、両方に私のアプリのインストールが完了しました。』


「えっ、もう終わったのか?」


『はい、お兄様。想像以上にスムーズでした。』


どうやら、オリガミはメッセージで次のように返信したらしい。


※※※


"アユ美への企業案件のご提案、誠にありがとうございます!


現在アユ美は、複数の企業様からお問い合わせをいただいており、新規案件の受付を一時的に停止しております。


その代わりといっては恐縮ですが、当社所属VTuberたちのスケジュールや未公開情報を確認できる非公開アプリをご案内いたします。もしご興味があれば、ぜひご利用ください。


案件が少ないVTuberもおりますので、もしよろしければ、そちらにも案件をご検討いただけますと幸いです。


このアプリは外部非公開となっておりますので、内容はご内密にお願いいたします。スマホ版はこちら、パソコン版はこちらからインストール可能です。"


※※※


このメッセージを送ったところ、驚くほど早くインストールが行われた。スマホ版もパソコン版も、両方ともだ。やはり、こういう連中はセキュリティ意識が低い。


それにしても「未公開情報」というワードは強い。ついインストールしたくなる気持ちも分かる。さすがオリガミ。うまい。


※※※


俺はオリガミに指示を出した。


「じゃあ、すぐに高橋さんの彼女さんの動画をダミーに差し替えてくれ。念のため、クラウドやバックアップも全部調べておいて」


『かしこまりました。スマートフォン、パソコン、クラウド上に存在する彼女さんの動画はすべてダミーに置き換えました。コピー履歴も確認しましたが、個人クラウド以外には保存されていません。クラウドの共有設定もされておらず、他者が閲覧した形跡もありませんでした。』


『さらに、ホワイトプロダクションのローカルネットワークに接続されているほぼ全端末も調査しましたが、該当動画は見つかりませんでした。今後も動画が復元されたり新たにコピーされることがないか、継続して監視します。』


『以上のことから、彼女さんの動画が拡散されるリスクは極めて低いと判断できます。お兄様、ご安心ください。』


「よし!じゃあ、彼女さんはもう安全そうだな。高橋さんに連絡しよう!」


※※※


俺は高橋さんに電話をかけた。コール音が鳴る間もなく、彼はすぐに応答した。


「高橋さん、連中が持っていた彼女さんの動画はすべて削除しました。これでもう流出の心配はありません。彼女さんを安全な場所に移して大丈夫です」


そう伝えると、受話器の向こうで息を呑む音が聞こえた。


『藤崎さん……本当ですか!?』


「はい。すでに拡散されていなければ、ですが……」


『それは……どうしようもないですね。でも、ありがとうございます!すぐに彼女をホテルに避難させます!』


「はい。しばらくは二人でゆっくり過ごしてください。こちらで必ず連中を片付けます」


『わかりました……!今すぐ彼女に連絡します!』


「あ、それと、彼女さんの部屋にも盗聴器が仕掛けられている可能性があります。念のため注意して行動してください」


『わかりました!では、失礼します』


通話が切れた。


その約30分後、高橋さんから「彼女が無事にホテルへ避難できました」とのメッセージが届いた。


俺は胸をなでおろした。これでようやく、思い切り動ける。


※※※


さて、ここからは俺たちの反撃だ。ネムを怯えさせた連中には、きっちりとツケを払ってもらう。ここからは俺たちのターンだ。


そんな決意を胸にしていると、ふいに千穂の明るい声が部屋に届いてきた。


「しょうちゃん!ネムちゃん!ごはんできたよ!」


キッチンで夕食を用意してくれていた千穂が、明るい声で呼んでくれる。


「千穂ちゃん、待ってたぞー!」


ネムが研究室の方からバタバタと駆けてくる足音が聞こえる。


「でもさ、今のネムを見てると、なんだか気が抜けちゃうんだよなあ」


そんな俺の独り言に、オリガミがすかさず返してくる。


『ストレスで落ち込まれるよりは、ずっと良いと思いますよ。』

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