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ネム監禁される

「……本当に、つらい思いをされましたね。お気持ち、お察しします」


俺は静かにそう声をかけた。


「実は、この通帳の写真ですが――これは星ヶ谷ネム先生が誘拐された際、犯人のスマホから入手したものなんです」


そう説明すると、高橋さんは驚いたように目を見開いた。


「えっ、それって……」


「はい。つまり、あの連中こそがネム先生誘拐事件の黒幕ということになります。私たちもまた、被害者なのです」


ゆっくりと頷きながら、事実を伝えた。


※※※


「そういえば、自己紹介が遅れました。私は星ヶ谷ネム先生が役員を務める株式会社ドールハウスの代表取締役、藤崎正太郎と申します」


ここで、俺は名刺を差し出しながら、丁寧に自己紹介をした。


「連中は、私たちの大切な仲間であるネム先生に手を出しました。仲間を傷つけられて、黙っているわけにはいきません。必ずや、彼らの組織を潰します」


俺は、強い口調で宣言した。


「そこで、高橋さん。どうか、私たちにご協力いただけませんか?高橋さんと彼女さんの安全は、私が必ずお守りします」


俺はまっすぐに高橋さんを見つめ、静かに頭を下げた。


彼は、しばらく黙って考え込んだ後、やがて決意を込めた表情で顔を上げた。


「……協力します。藤崎さん、どうか俺と彼女を助けてください……」


その声には、覚悟が感じられた。


「ありがとうございます。必ずお二人を守りますので、ご安心ください」


※※※


その後、連中について詳しく話を聞いた。


「連中のVTuberプロダクションの名前、分かりますか?」


「ホワイトプロダクションっていうプロダクションです」


高橋さんは少し声を震わせながら答えた。


「なるほど、あそこですね。代表者に会ったことは?」


そのプロダクション名に聞き覚えがあった。どう考えてもホワイトじゃないだろと思いながら、代表者について尋ねる。


「はい……彼女に酷いことをしたのが代表です。僕が小間使いをしていた時、何度か顔を合わせました。右肩に大きなタトゥーが入っています」


暴行に大きなタトゥーねえ……


「自分でそんな目立つことをするなんて、あんまり賢い連中じゃないかもしれませんね」


俺はそんなことを言いつつ、さらに質問する。


「高橋さん、連中とのやり取りはそのスマホでですか?」


俺は話題を切り替え、証拠となるやり取りについて確認した。


「は、はい」


高橋さんは、手元のスマホを見つめて頷いた。


「少しスマホをお借りしてもいいですか?中に残っているやり取りの痕跡を調べたいので、データをコピーさせていただきたいんです」


「わ、分かりました」


彼はスマホのロックを解除し、俺に手渡した。


受け取ったスマホを、俺はすぐにオリガミ端末とケーブルで接続し、データのコピーを開始する。


『お兄様、接続を確認しました。コピーは1分ほどで完了します』


オリガミが、いつもの声で報告してくれる。


「その端末でコピーできるんですか?すごいですね……特注品ですか?市販品には見えませんね」


高橋さんは、俺の使っている端末に興味を示し、驚いた様子で尋ねてきた。


「ええ、うちの解析班は優秀ですから。通帳の紙面反射から高橋さんの顔を再現できるくらいです」


少し冗談めかして言ってみた。


「そ、そんなことまでできるんですね……さっきも伺いましたが、本当に驚きました」


オリガミが続けて指示を出してくる。


『お兄様、私が作成したアプリのインストール許可をお願いします』


オリガミの指示どおり、彼に伝える。


「それと、もう一つ。我々が作成したアプリを入れてもいいでしょうか?連中から連絡があった場合、リアルタイムで記録・解析できるようにしたいので」


「は、はい……大丈夫です」


彼は少し不安そうにしながらも、俺の申し出を受け入れてくれた。そりゃ、よくわからないアプリ入れられたら不安だよな。


※※※


さて、まずは一番最初にするべきことだ。


「高橋さんの彼女さんの動画を、何としても抑えなければいけませんね」


動画が流出すれば、彼女さんの人生はさらに壊されてしまう。何よりも先に、そのリスクを潰す必要がある。


「彼女さんのことは、もう少しだけ我慢してください。動画を確実に押さえない限り、助け出すことはできません」


しかし、ここで焦って動けば、かえって彼女さんを危険に晒してしまう。


「それと、私のことは絶対に誰にも話さないでください。彼女さんにもです。私の存在が漏れれば、救出が難しくなります」


俺は念を押すように付け加える。


「はい、分かりました……」


彼は、真剣な顔で答えた。


「それから、部屋の中の盗聴器には絶対に手を触れないでください」


そう伝えたが、すぐに言い直す。


「いや……しばらく部屋に戻らない方がいいですね。今日からビジネスホテルに泊まってください。費用はこちらで負担します」


盗聴器の存在を知っていることがバレれば、相手が警戒してしまう。


「えっ、いいんですか?……確かに、独り言でうっかり口を滑らせそうなので、助かります」


彼も不用意な発言が事件解決の邪魔になることを自覚しているのだろう。


「お金については大丈夫です。それと、高橋さん、部屋の鍵を預かってもよろしいですか?盗聴器の存在が、何かに使えるかもしれません」


人は苦労して手に入れた情報ほど、価値があると信じたくなるものだ。認知的不協和の解消だっけ?


「必ず彼女さんの件は解決しますので、安心してください」


俺は自信を込めて言った。


「どうか……どうか、よろしくお願いします!」


彼はそう言って、深く頭を下げ、俺に部屋の鍵を渡した。


※※※


高橋さんは、部屋に戻らず、そのままビジネスホテルに宿泊することになった。


俺は自宅に戻り、ネムも交えて今後の方針を話し合っている。


「やっぱり一番の問題は、高橋さんの彼女の動画だよな。オリガミ、何か方法ない?」


俺はテーブルに肘をつきながら、オリガミに問いかけてみた。


『私の作成したアプリを、スマホにインストールさせられれば、何とでもなるのですが……』


オリガミは少し申し訳なさそうな声で答える。


「ワタシはもう誘拐されたくないぞ!」


ネムが突然、身を乗り出して叫んだ。誘拐事件が多少はトラウマになっているらしい。


「ネムは、フラフラと外出しなければ、誘拐されないんだよ!オリガミから聞いたぞ。俺がいない間に、また一人で出かけようとしただろ?オリガミに、ネムを見張ってもらうように頼んでおいて正解だったわ!」


「し、仕方がないだろ……?研究に集中してると、いろいろ忘れちゃうんだよ……」


ネムはバツが悪そうに視線をそらし、言い訳を口にする。


「で、でも、そうだよな。迷惑かけてスマン……」


しょんぼりと肩を落とし、素直に謝るネム。彼女も反省しているようだ。


「まあ、ネムがそういう奴だってことは知ってるよ。そこら辺は、オリガミに任せてあるから安心しなよ」


『ネムさん。事件解決まで、家から出しませんからね?』


オリガミがきっぱりと宣言する。


「あれ?ワタシ、もしかして監禁されてないか……?」


ネムは目を丸くして、自分の状況に気づいたようだ。


「アイスもポテチもコーラも、ちゃんと買い置きしてあるからな?」


俺もネムを見て、にやりと笑って言ってやった。


「こ、子供でもないんだが?」


ネムは頬を赤らめ、むくれたように言い返した。


※※※


『それで……お兄様?どうやって連中にアプリをインストールさせるおつもりで?』


「それなんだけど、実は一つだけアイデアがあるんだ。聞いてくれるか?」


そういって、俺は思いついたことを、オリガミとネムに話した。


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