闇バイトを尋問
さて、誘拐犯への尋問を始めよう。
ネムを誘拐した報いを、しっかりと受けてもらわなければいけない。
※※※
ただ、ネムをこれ以上不安にさせるわけには行かない。犯人の顔など絶対に見せられない。尋問には連れていけないだろう。
「ネム、ちょっとだけ席を外すけど、すぐ戻るから。大丈夫、ここには信頼できる人たちしかいないから安心して」
ネムは不安そうに俺を見上げ、唇を噛みしめている。その目には、まだ恐怖の色が残っていた。
「……正太郎、早く戻ってきてな」
「もちろん。すぐ戻るよ」
俺はネムの頭にポンっと手を乗せ、安心させるように笑った。そして、近くに控えていた女性警備員に声をかける。
「ネムのこと、少しお願いできますか?できれば、そばで見守ってあげてほしいんです」
女性警備員はきりっとした表情で頷いた。
「お任せください」
※※※
俺は一度深呼吸し、気持ちを切り替えて柚希さんのもとへ向かった。彼女はすでに状況を把握しているようで、落ち着いた目で俺を見ていた。
「柚希さん、すみません。あの誘拐犯たちと、少しだけ話をさせてもらってもいいですか?」
柚希さんは一瞬だけ考える素振りを見せたが、すぐに頷いた。
「いいよ。ただ、私も後ろで見てるからね」
「ありがとうございます」
さて、どうせただの使いっ走りだろう誘拐犯から、いかに情報を引き出すか?それを考えながら、連中のもとへと足を踏み出した。
※※※
犯人は二人組で、いかにも小物のチンピラといった風貌だ。
俺はゆっくりと彼らに歩み寄り、当たり前の事のように切り出した。
「スマホを出せ」
「は?なんだお前、出すわけねーだろ」
「スマホを出せば、俺がうまく話をつけてやる。場合によっては警察に突き出さずに済むかもしれないぞ?」
「そんなこと、お前にできるわけないだろ。バーカ。」
「ガキのくせに調子乗ってんじゃねーぞ!」
俺は肩をすくめて、周囲を指さす。
「よく考えろよ。警備の人たち、俺たちの会話に一切口を挟まないだろ?つまり、俺が“ただのガキ”じゃないってことだ。もし俺が普通の子供なら、こんな状況ありえないよな?」
「……」
二人は顔を見合わせ、言葉を失う。
「このまま黙ってるなら、即警察行きだ。それでいいのか?最後にもう一度言う。ロックを解除して、スマホを渡せ。二人ともだ」
※※※
「……わかったよ」
しぶしぶといった様子で、チンピラの二人がスマホを差し出してくる。彼らの手はわずかに震えていた。
そのとき、骨伝導イヤホンから、オリガミの声が響く。
『オリガミ端末と接続して下さい。端末の裏には短い接続ケーブルがついています。それを引き出してお使い下さい。』
俺は周囲に怪しまれないよう、あくまでスマホをいじっているだけのように見せかけながら、端末と犯人のスマホを接続した。
再びオリガミの指示が届く。
『接続確認しました。コピー完了まで、数分時間を稼いで下さい』
つまり、ここからは会話で時間を稼ぐ必要がある。俺は自然な流れを装い、口を開いた。
「なあ、なんで誘拐なんてしたんだ?犯罪だって分かってるだろ?」
俺の問いかけに、チンピラの一人が不機嫌そうに顔をしかめる。
「んなこと知ってるよ」
それでも、どこか投げやりな口調だ。俺はさらに問い詰める。
「じゃあ、なんでだよ?」
もう一人が、ため息混じりに答えた。
「金が欲しかったからだよ!」
やはり、動機は金か。俺は呆れたように続ける。
「へー、この仕事でいくら貰える予定だったんだ?」
少し間を置いて、片方が小声で答える。
「一人五十万……」
その金額を聞いて、俺は思わず眉をひそめた。
「五十万?そんなはした金で?誘拐したのか?じゃあ、五十万は俺がくれてやる。全て話せ」
俺がそう言うと、二人は驚いたように顔を見合わせる。
「い、いいのか?」
疑いの色を浮かべながらも、希望を捨てきれない様子だ。
「ああ、構わん」
俺は淡々と返した。今の俺にとって、五十万円の二人分の百万円なんて、はした金だ。そんなことはどうでもいい。
「それで?誰の指示だ?」
俺の問いに、チンピラの一人が首を振る。
「わ、わからん。SNSで募集してたから、連絡して」
やはり、ただの闇バイトか。直接的な黒幕の情報は持っていないようだ。世知辛い世の中だと、改めて実感する。
「どんな指示だ?」
俺はさらに食い下がる。すると、もう一人がしぶしぶ口を開いた。
「この住所の家から出てくる奴、誰でもいいから、さらってひどい目に合わせろって……金は証拠映像と引き換えだって……」
その言葉に、俺の中で怒りがふつふつと湧き上がる。もし放置していたら、ネムの身にどんなことが起きていたか。考えるだけで明白だった。
※※※
そのとき、オリガミの声が再び耳に届く。
『二台ともコピーを完了しました。もういいでしょう。この人たちは、ただの闇バイトです。黒幕をなんとかしなければ、意味がありません。ネムさんのところに戻りましょう。』
ケーブルをさっとぬき、俺は端末を素早くしまう。そして、チンピラたちにスマホを返した。
「ほらよ、スマホは返してやる」
俺がスマホを差し出すと、二人は安堵の表情を浮かべる。しかし、すぐに一人が不満げに口を開いた。
「な、なあ。五十万は?」
俺は肩をすくめて、皮肉を込めて答える。
「安心しろ、ちゃんとお前らの名前で慈善団体に寄付しとくから」
その言葉に、チンピラの顔色が変わる。
「な、てめぇ!約束と違うぞ!」
怒りをあらわにする二人。しかし、俺は冷たく言い放つ。
「はあ?お前!俺の大切な人に何をしようとした!?その空っぽの頭で思い出してみろ!」
俺の剣幕に、チンピラは言葉を失い、ただ「…ぐっ!」とうめくしかなかった。
※※※
俺はチンピラたちに背を向け、俺を見ていた柚希さんのところに戻った。
柚希さんが俺に言った。
「すごい肝が座ってるね。なにがどうなったら、普通の男子高校生が、正太郎くんみたいになれるのかな?」
柚希さんがこちらを見てくる。
「すみません。お礼や事情説明は、また今度させてください。今はネムのところに戻ります。心細がってると思いますので」
俺は頭を下げながら、今はとにかくネムの元へ急ぎたい気持ちを伝える。
「わかったよ。実行犯はどうする?」
その問いに答える前に、骨伝導イヤホン越しにオリガミの声が静かに響く。
『お兄様。更生プログラムという名前出して下さい。』
オリガミの助言を受けて、俺は少し考えた後、柚希さんに向き直る。
「どこかに更生プログラムとか存在しません?簡単にそのあたりフラフラできなくなるやつ。それを受けることで示談ということでお願いしたいです」
俺の提案に、柚希さんは驚いたように目を細め、少しだけ口元を緩めた。
「……よく知ってるね?今度、私の仕事にも協力してくれないかな?」
その言葉には、俺への興味と期待が混じっているようだった。俺はすぐに頷き、感謝の気持ちを込めて答える。
「もちろんです。この恩、絶対にわすれません」
俺の真剣な返事に、柚希さんは優しく微笑んだ。
「気にしなくていいよ。悠斗が望んだことだから」
※※※
俺は心臓がバクバクと高鳴るのを感じながら、足早にネムのもとへと向かった。
ネムがトラウマとかで泣いていたらどうしよう。そんな想像がぐるぐると渦巻いていた。心配で、自然と歩く速度も速くなる。
やがて、目的のベンチが視界に入る。そこには、女性警備員さんが優しく見守る中、ネムが座っていた。
俺の心配をよそに、ネムは両手でアイスをしっかりと持ち、口元にはこれ以上ないほどの満面の笑みを浮かべている。頬を緩ませ、時折「おいしい!」と声を上げながら、まるで何事もなかったかのように幸せそうにアイスを頬張っていた。
※※※
「ん?正太郎?終わったのか?」
叔父さんが俺を見つけて声をかけてきた。その瞳には、疲労の色が浮かんでいた。多忙な中、真夜中の二時に叩き起こされて、こんな大騒ぎに巻き込まれたのだから無理もない。
「はい、本当にありがとうございました。叔父さんがいてくれて助かりました」
俺は深く頭を下げて感謝を伝える。叔父さんは「気にするな」と頭をかきながら言い、ちらりとネムの方を見やる。
「しっかし、ネムさん、相当図太いな。俺、アイスのお使いさせられたぞ。警備員は仕事中で動けなかったからな……」
「お使い?叔父さんに?だ、大企業の社長にアイスを買いに行かせるなんて……」
なんてやつだ……信じられん……
そんな俺の視線に気づいたのか、ネムと目が合う。彼女は両手でアイスをしっかりと持ち、目を輝かせてこちらを見ていた。そして、開口一番、元気いっぱいに叫ぶ。
「正太郎か!アイスめっちゃ美味しいぞ!さすが正太郎の叔父さん、センス抜群だな!」
その無邪気な笑顔と明るい声に、俺は胸を撫で下ろした。誘拐されたことがトラウマになっていないようで、本当に安心した。
※※※
……イラッ
あれ?なんだか急に腹が立ってきたぞ?俺がどれだけ心配したかも知らず、満面の笑みでアイスを頬張っているネム。
これは、代償を払ってもらう必要があるだろう。
「おりゃ!ムシャムシャ!」
俺はサッっと、ネムの手からアイスを奪い取る。そして、そのまま一気にアイスを自分の口に押し込んだ。冷たさが口の中に広がるが、そんなことはどうでもいい。
「ああっ!正太郎!やめろぅ!それ、ワタシのアイスだぞ!」
ネムは涙目になりながら、必死に俺の腕を引っ張る。しかし、俺は意地でもアイスを離さず、全部食べきってやった。
「ぎゃー!全部食べたなぁ!正太郎!許さないぞ!」
「ざまぁ!」
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ネムがアイスを買ってもらえます。




