表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/109

テレビ局で黒歴史を刻む

「やっぱり、こう……ビジョンとかコンセプトとか、そういうキーワードを大事にしつつ、フレキシビリティとかシナジーとか、あとイノベーションも意識しながら、全体のバランスを俯瞰的に見ていくことが、経営には必要なんじゃないかなって思うんですよね。まあ、最終的にはエンパワーメントとかダイバーシティとか、そういうのも大事にしつつ、時代のトレンドをキャッチアップしながら、なんとなくいい感じの方向に進んでいけたらいいな、みたいな……そんな感じですかね」


※※※


テレビ画面の中の俺は、両手を前に突き出し、例の「ろくろを回すポーズ」で熱心に語っていた。雑誌などのインタビューで自分がたりをする人が、つい無意識にやってしまう、あの壺作りの手つきだ。


なぜ、あんな仕草をしてしまったのか、自分でも全く分からない。気がついたら、自然とそのポーズになっていたのだ。


「やっちまった……!」


俺はテレビの前で頭を抱え、悶絶していた。


そのすぐ横で、ネムが床に転がりながら腹を抱えて爆笑している。


「うははははっ、このポーズあれだよな!有名なやつ!ろくろ回し!なにこれ、なにこれ!お腹痛い!息できないって!」


「正太郎、やっぱり天才だよ!よくもまあ、あんな中身のないことを堂々とスラスラと話せるな!ろくろを回しながら!」


そう言いながら、また笑いが止まらなくなる。


「ぷっ、ぷはははははっ!」


俺は必死に弁解する。


「だ、だってさ、テレビ局の人たちがやたら持ち上げてくるんだよ。それで、つい調子に乗っちゃって……」


一方、千穂はキラキラした目で俺を見つめてくる。


「しょうちゃん、すごくかっこよかったよ!まさにデキるビジネスマンって感じ!やっぱり社長は違うね!」


その純粋な瞳が、逆に胸に刺さる。


「やめてくれ……褒めないでくれ……笑ってくれよ……」


「ええっ!?」


そんな俺たちを見て、ネムがさらに愉快そうに言う。


「千穂ちゃん、それはさすがに色眼鏡すぎるって……ぷぷっ!」


「ネム!お前は笑うな!」


こいつに笑われると、なんだか余計に腹が立つ!


※※※


すべての始まりは、二週間ほど前にテレビキー局から取材依頼が届いたことだった。


どうやら、急成長中の企業を特集するビジネス番組のコーナーらしい。


正直、人前に出るのはあまり得意じゃないし気が進まなかったが、VTuberという存在がまだ届いていない層にもアピールできるかもしれないと思い、思い切って取材を受けることにした。


そんなわけで、先日、株式会社ドールハウスの代表取締役としてテレビ局へ向かった。


服装は、いつも通り白いTシャツにジーンズ。気取らず自然体で行こうと決めていた。


タクシーでテレビ局に到着すると、スタッフたちからは、それはもうチヤホヤされた。


自分より十歳、いや二十歳も年上の男性たちがペコペコ頭を下げ、美人なスーツ姿のお姉さんたちにはやたらと距離を詰められ、正直、鼻の下が伸びっぱなしだった。


そして、すっかりその雰囲気に飲まれて受けたインタビューが、例のテレビ番組の内容だったというわけだ。


ほんの一瞬の気の緩みが、まさか一生消えない黒歴史になるとは思いもしなかった。


※※※


オリガミしか知らないが、取材の後もなかなか大変だった。


スタッフに誘われて皆で食事に行ったのだが、両隣にはスーツ姿の美人が座り、緊張で体が固まってしまった。俺はいろいろな意味で、いろいろな場所がカチカチになっていた。


女性って、こんなにいい匂いがするんだなあ……と、ぼんやり肩に寄りかかってくる女性を眺めていたその時。


『お兄様?もし誰かと子作りされるなら、千穂さんかネムさんにしてくださいね。』


オリガミのこの忠告がなければ、危うく流されてしまうところだった。本当に危なかった。自分を見失うところだった。


地位とお金の力って、やっぱりすごい。叔父さんはこんな世界で戦っているのか……改めて尊敬する。


ここは危険だ。誘惑だらけだ。


※※※


そんなこんなで、テレビ番組に出演した影響もあってか、最近は自宅の前で立ち止まる人が増えてきた。


以前は静かな住宅街で、通りすがりの人がちらりと家を眺める程度だったのに、今では明らかに様子が違う。わざわざ足を止めて、家の表札や玄関をじっと見つめたり、スマートフォンで写真を撮る人まで現れるようになった。


中には、門の前で何かを話しながら友人と盛り上がっている若者や、遠巻きに家の中を覗き込もうとする中年男性の姿もあった。


自分が少し有名になったことで、こうした人たちが興味本位で家の周囲をうろつくようになったのだろう。プライバシーがどんどん失われていく感覚に、落ち着かない日々が続いた。


※※※


『そろそろ、家のセキュリティを強化しましょう。』


「ごめん、俺のせいだな」


『いえ、お兄様の責任ではありません。たとえ番組がなかったとしても、いずれこうなっていたと思います。』


『お金が集まる場所には、良い人も悪い人も自然と集まってきますから。』


※※※


というわけで、家のセキュリティレベルを上げるために動くことにした。


『お兄様、家の監視と防衛を万全に行うため、各種機器の設置をお願いします。通常の防犯カメラだけでなく、高感度マイクや高解像度カメラ、マルチスペクトルカメラ、全天球カメラなど、できるだけ多くの情報を取得できる機器を設置してください。』


『さらに、不審者への警告や音波による威嚇のため、外壁にスピーカーも設置していただけますか?』


『玄関については、私が個人認証を担当しますので、ロックのオンオフを私が操作できるように設定してください。窓ガラスは、可能であれば封鎖したいですが、難しい場合は強化ガラスへの交換をお願いします。』


『また、研究室の外壁には電磁波シールドを貼っていただけると助かります。EMP攻撃などからも守れるようにしたいのです。DNAナノボットがEMP攻撃にどのような影響を受けるか、まだ検証できていませんので。』


『設置していただく機器はすでに購入済みです。届いた段ボールの山の中に入っていますので、お手数ですが設置をお願いします。私がアシストしますのでご安心ください。』


「わかった。もう夜遅いし、作業は明日の朝からでいい?」


『はい、それで大丈夫です。夜間の作業は危険ですから。』


※※※


『最後に、黒い段ボールを開封してください。その中に金属製のケースが入っています。』


オリガミの指示に従い、俺は部屋の隅に積まれた段ボールの中から、ひときわ目立つ黒い箱を探し出した。箱を開けると、ずっしりとした金属製のケースが現れる。


『ケースの中にはカード型の端末が入っています。これはオリガミの小型端末です。外出時は必ず携帯してください。カードケースに収まるサイズなので、社員証のように首から下げて使うと良いでしょう。』


中を覗くと、確かにクレジットカードほどの大きさの端末がいくつか並んでいる。手に取ると、思ったよりも軽く、しかししっかりとした作りだ。オリガミの説明通り、首から下げられるストラップも付属している。


『この端末は私と常時接続できるデバイスです。GPS、高感度マイク、マルチスペクトルセンサーなどを搭載していますので、周囲の状況を私が把握できます。さらに、複数のスピーカーも内蔵しているため、最低限の音波による威嚇も可能です。』


オリガミの声が続く。どうやらこの端末は、単なる通信機器ではなく、周囲の環境を細かく監視し、必要に応じて警告や威嚇までできる多機能デバイスらしい。まるでSF映画のガジェットのようだ。


『こちらがお兄様用、こちらがネムさん用、そしてこれが千穂さん用です。』


端末は三つ。それぞれに名前のラベルが貼られている。俺は自分の分を手に取り、残りの二つを見比べた。


「やっぱり千穂も危険なんだな?」


俺はふと疑問に思い、オリガミに尋ねる。


『はい。むしろ一番リスクが高いかもしれません。』


オリガミは即答した。その口調には、どこか切迫したものが感じられる。


『ネムさんはほとんど外出しませんし、お兄様は男性です。しかし千穂さんは違います。か弱い女性ですし、現状では私が遠隔でサポートできる手段が限られています。』


オリガミの説明を聞きながら、俺は千穂のことを思い浮かべた。確かに、千穂は学校にも通っているし、外に出る機会が多く、何かあったときに守れる手段が限られている。俺自身も、千穂の安全が一番気がかりだった。


『もし千穂さんに何かあれば、お兄様の幸福度は限りなくゼロに近づくでしょう。それは見過ごせません。必ず身につけてもらってください。』


オリガミの言葉は、俺の心にずしりと響いた。千穂の身に何かあったらなんて、考えたくもない!


「わかった。今、千穂は料理中みたいだから、渡してくるよ」


俺は端末を手に取り、キッチンへと向かった。


※※※


「千穂、ちょっといい?」


俺はキッチンで料理中の千穂に声をかけた。


「どうしたの、しょうちゃん?」


千穂は手を止めて、こちらを振り返る。少し不思議そうな顔だ。


「これなんだけど、お風呂のとき以外は、できるだけ首から下げておいてほしいんだ」


俺は端末を千穂に差し出した。


「え?これって何?」


千穂は端末を手に取り、表と裏を眺める。初めて見る機械に、少し戸惑っている様子だ。


「うん、千穂を守るために作ったんだ。お守りみたいなものだから、必ず身につけててほしい。カードケースに入れて首から掛けてくれればいいから」


俺はできるだけ優しく説明した。不安を与えないように気をつけないとな。


「うん、わかった!しょうちゃんからのプレゼントだと思って、大切に身につけるね。ありがとう、しょうちゃん!」


千穂が嬉しそうに言う。


……今度は、もっとアクセサリとか、ちゃんとしたプレゼントも用意してあげたいな。


※※※


「ネムも、これ」


俺は千穂のときと同じように、ネムにも端末を手渡した。ただ、千穂には丁寧に説明したのに対し、ネムにはつい説明を省いてしまい、雑な口調になってしまった。


ネムなら事情をすぐに理解してくれるだろう、という甘えがあったのかもしれない。


「正太郎、私への扱いが雑じゃないか?もっと私にも優しくしてくれよう。泣いちゃうぞ!」


ネムは、俺の態度の違いにすぐ気づき、不満げに口を尖らせて抗議してきた。千穂にはあんなに優しく説明していたのに、と言いたげな表情だ。


「あ、ごめん。でも、ネムはこれが何なのかわかるでしょ?」


ネムはAIやセキュリティのことにも詳しいし、端末の意味もすぐに察しているはずだ。だからこそ、あえて細かい説明は省いたのだが、やはりもう少し気を遣うべきだったかもしれない。


「そうだけどさあ、もっとほら……あるだろ?なんかさ」


むっ!ネムが可愛いことを言っている。


「ネムなら分かってくれると思ったんだ。ごめんな」


「いいけどさあ」


ネムがちょっとむくれていた。なんか、最近、可愛く見えることが多くなったな。


※※※


翌朝、俺は早くから家中を動き回り、セキュリティ強化のための各種装置を設置していった。オリガミが手順を一つ一つ丁寧に教えてくれたおかげで、作業は思ったよりスムーズに進んだ。


窓には強化ガラスを導入し、費用はかかったが業者に急ぎで取り付けてもらった。ドアも頑丈なものに交換してもらい、オリガミが遠隔操作できるスマートロックを導入した。


これで完璧とは言えないが、今できる限りの対策は施したつもりだ。


※※※


ひと息ついてリビングのソファに腰を下ろすと、隣でネムが横になって眠っていた。きっとまた徹夜したんだろう。


俺は、そんな彼女にタオルケットを掛け、その子供のような寝顔をボーっと見ていた。


※※※


このときセキュリティを強化しておいて、本当に助かったと実感する出来事が、わずか数日後に待ち受けていた。

もし気に入っていただけたら、【ブックマーク】と【下の評価 ★★★★★】をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ