社会に浸透するドールたち
『お兄様。さらに処理能力に余裕ができました。二百体ほどドールズの追加が可能です。』
オリガミが報告してきた。オリガミの基盤となるニューラルネットワークが拡張され、同時に動かせるVTuberの数がさらに増えたということだ。
「うんうん。しっかり成長してるな」
俺は、オリガミの成長に満足していた。そう、俺達の目的は金儲けではない、あくまでオリガミの育成なのだ。
※※※
それを聞いていたネムが、プルプルと震えだした。
「ど、どんどん成長していく。超知能になっていってる……」
あ、くる!くるぞ!俺は慌ててスマホを取り出し、撮影を開始した。
「おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡きこ、聞こえてくるぅ……!神への道を歩むぅ、超知性のあしおとォ……!」
よし、今回もバッチリ撮影できた!最近はネムの発作を見るたび、なぜか楽しみになってきている自分がいる。あの様子を見ると、不思議と元気になってくるんだよな。
俺は満足してスマホをポケットにしまった。
※※※
さて、新しいドールズを投入可能できるわけだが、どうしよう?
VTuber市場自体にも限界がある。
「ゲーム配信や身内でキャッキャウフフするドールは、もうたくさんいるから、これ以上増やさなくてもいいんじゃないかな?みんな、ちょっと飽きてきてるかもしれないし」
俺は最近思っていたことを口にした。
『では、世論操作に使うために、ニュース・時事解説系、考察系、教育系VTuberを増やしましょう。』
オリガミはすぐに方向転換を提案してくる。もともと想定していたのだろう。
言ってることは……単なる金策目的だけでなく、社会的な影響力を持つ分野へと進出しようってことか?
『他に、金融操作や相場誘導に使うために、投資金融系、経済解説系VTuberも増やしていきます。』
市場操作ってことか?やばくね?
「頼むから、頼むからグレーゾーンレベルで抑えてくれな?ブラックは駄目だぞ?俺、捕まりたくないぞ?」
『お兄様、ご安心を。あくまで秘密が漏れそうな時の為のリスクヘッジです。非常時以外の操作は行いません。基本的にはしっかりと、公平で、正しい情報を伝えていきます。』
「ならいいけど……いいのかなあ」
これがうまく行けば、ドールハウスは世論や経済にまで影響を及ぼせる会社となる。この会社、社員、二人しかいないんだが?
でも、進むしかない。もう引き戻せはしないのだ。
※※※
方針が決まると、オリガミはすぐに動き出した。
VTuberがまだ進出していないニッチな分野に、最高水準のクオリティを誇るドールたちを次々と送り込んだ。
VTuberはもともと一般の人間よりも親しみやすく、さらにドールズたちは卓越した調査力と分析力、心理学を駆使した説得力を兼ね備えている。そのため、彼ら彼女たちが新たなジャンルに登場するたびに、視聴者は雪だるま式に増えていった。
こうしてVTuber市場は、かつてないスピードで拡大していった。
※※※
──【ネット掲示板:VTuber総合スレ】──
【1】名前:名無しの視聴者
最近、VTuberの分野が広がりすぎじゃね?
【12】名前:名無しの視聴者
>>1
それな。前はゲーム実況ばっかだったのに。
【23】名前:名無しの視聴者
>>1
むしろ色んなジャンルあった方が楽しいだろ。飽きないし。
広がりすぎて、逆に何見ていいか分からん時ある。
【57】名前:名無しの視聴者
わかる。前はゲーム実況とか雑談ばっかだったのに、今は経済解説とか投資アドバイスとか、果ては時事ニュースまでやってるやついるし。
【102】名前:名無しの視聴者
>>57
でも、専門外のこと語ってるの見るとちょっと不安になる時あるわ。
【145】名前:名無しの視聴者
しかも、どれもクオリティ高いんだよな。普通のYouTuberより分かりやすいし、なんか説得力ある。
【151】名前:名無しの視聴者
>>145
分かる。台本しっかりしてる感じ。
【188】名前:名無しの視聴者
心理学とかデータ分析とか、やたら詳しいVTuber多くない?
【201】名前:名無しの視聴者
>>188
台本とか監修入ってるんじゃね?さすがに全部自作は無理だろ。
【234】名前:名無しの視聴者
あれ、絶対バックにプロいるだろ。金融系のやつとか、下手な証券マンより話うまいし。
【259】名前:名無しの視聴者
>>234
プロが関わってるならむしろ安心じゃね?変な情報流されるよりマシ。
【265】名前:名無しの視聴者
>>234
でも、プロすぎて逆に怪しい時もある。なんか操られてね?って感じがして。
【301】名前:名無しの視聴者
最近は投資系VTuberも増えてきたよな。解説とか分析が中心で、あんまり「この銘柄買え!」みたいな露骨なことは言わない印象。
【312】名前:名無しの視聴者
>>301
それな。むしろ、VTuberより普通の配信者のほうが煽りとか誘導すごい気がするわ。VTuberは割と中立っぽいよな。
【320】名前:名無しの視聴者
>>301
投資系VTuberはコメント欄も意外と冷静。人間のところは罵詈雑言の嵐だもんな。
【333】名前:名無しの視聴者
世論誘導とかも余裕でできそう。ニュース系のVTuberが「この政策はおかしい」とか言うと、コメント欄が一気に同調ムードになってる。まあ、ファンしかみてないから、同調者ばかりになるのは当たり前だけど
【341】名前:名無しの視聴者
>>333
逆に反対意見書くとめっちゃ叩かれるからな。空気読めって感じ。
【345】名前:名無しの視聴者
>>333
でも、テレビも似たようなもんじゃね?
【356】名前:名無しの視聴者
でも、なんか不思議と反感は持たれないんだよな。キャラが可愛いからか、親しみやすいからか……
【380】名前:名無しの視聴者
>>356
中身が誰か分からないから、逆に信じやすいのかも。
【385】名前:名無しの視聴者
>>356
キャラ補正は絶対ある。
【411】名前:名無しの視聴者
気づいたら、テレビよりVTuberの解説のほうが信じられるって人、増えてる気がする。
【427】名前:名無しの視聴者
>>411
それはちょっと危なくね?テレビもネットも鵜呑みにしない方がいいぞ。
【430】名前:名無しの視聴者
>>411
親しみやすいからつい見ちゃうんだよな。信じる信じないはともかく。
【453】名前:名無しの視聴者
これ、良いことなのか悪いことなのか……
【460】名前:名無しの視聴者
>>453
どっちでもないだろ。時代の流れってだけ。
【478】名前:名無しの視聴者
まあ、面白ければなんでもいいんじゃね?
【482】名前:名無しの視聴者
>>478
面白いだけで済まない問題もあると思うけどなあ。
【495】名前:名無しの視聴者
新分野を開拓してる、VTuberさあ、だいたいドールハウス所属なんだよね?この会社やばくね?藤崎グループだろ?
【498】名前:名無しの視聴者
>>495
陰謀論乙wそんなわけないだろ。普通に新しい会社なだけじゃね?
【501】名前:名無しの視聴者
>>495
藤崎って名字の、高校生が社長やってるってだけで、藤崎グループかどうかハッキリしてないんじゃなかったっけ?
【505】名前:名無しの視聴者
>>501
そもそも高校生が社長ってのも盛ってる気がする。裏に大人いるだろ絶対。
【507】名前:名無しの視聴者
>>495
グループの資本入ってるって噂は前からあるよな。
【510】名前:名無しの視聴者
>>505
でも、夢があっていいじゃん。若い子が活躍してるの見ると応援したくなるわ。
【520】名前:名無しの視聴者
結局、賛否両論ってことだな。俺は面白ければOK派だけどw
※※※
俺は、スマホに表示されているVTuberスレから目を上げて言う。
「うーん。さすがにやりすぎじゃないか?正直、ちょっと不安になってきた」
『現状で十分な影響力を確保できています。しばらくは様子を見て、ドールの追加は控えた方が賢明かもしれません。』
「なあ、正太郎。なんかワタシたち、逆に目立ってないか?」
「俺もそう感じる」
ネットで自分の名前が出てくると、なんだか監視されてるみたいでちょっと怖い。
だが、オリガミは特に問題視していないようだった。
『お兄様、この手の事業は一気に進めて、できるだけ多くの支持者を早い段階で獲得することが重要なのです。中途半端に進めるのが一番リスクになります。』
『ドールたちのファンが増えれば増えるほど、私たちの支持基盤も強固になります。仮に敵対勢力が現れても、簡単には動けなくなるでしょう。』
「敵対勢力にこっちの存在を認識される前に、潰されないだけの力をつけておく必要があるってことか。オリガミを隠してる理由と同じだな」
『はい、お兄様のおっしゃるとおりです』
変化を恐れて腰が引けてては駄目ってことだな。ここは腹を据えるべきタイミングなんだろう。
※※※
そして2ヶ月後。
「最近、動かしてる金額がどんどん大きくなってきてるよな?そろそろ三十億くらいは現金で用意できそうじゃないか?」
俺は、ここ最近の資金の流れを思い返しながら、オリガミに尋ねた。事業の拡大に伴い、扱う金額も一気に跳ね上がっている。
『そうですね。税金対策も視野に入れるべきですし、そろそろ自宅周辺の土地をまとめて買収する計画を本格的に進めましょうか。』
売上が増えるほど、税金の負担も重くなる。節税のためにも、早めに資金を土地の買収や研究所の建設に充ててしまいたいと考えていた。
「ご近所さんには、俺が直接頭を下げに行くしかないかな。引っ越し先としてタワーマンションでも用意すれば、納得してもらえるかなあ?」
お世話になったご近所さんだ。できるだけ気持ちよく引っ越ししてもらいたい。人として、そこにお金を惜しんではいけないだろう。
※※※
「そういえば、他の経理処理はどうなってるんだ?」
『オリガミAI育成に必要な素材は、ネムさんへの報酬という形式で、ネムさんの会社に約十億円の報酬として支払い、そこから正規ルートで購入しています。』
『ネムさんは「お父様の研究を継いだ」という名目で、塩基などの素材を購入しています。違和感を持たれることはないでしょう。』
『AI企業もしくはVTuberプロダクションとして違和感のない範囲の消耗品や機材は、ドールハウスの経費で購入しているため、外部から見ても自然な資金の流れになっています。』
「え、ネムも社長やってたのか?」
ネムはしれっとした顔で言う。
「もともと会社は持ってたぞ。税金対策だ。コンピューターとかも経費で落とせるしな」
「ほおー、しらなかった」
※※※
以前から気になっていた疑問を、思い切ってオリガミにぶつけてみた。
「実際には存在しないドールズの中の人って、経理上はどう処理してるんだ?報酬とか」
『ご安心ください。実在する方々に業務を委託し、きちんと報酬もお支払いしています。』
『VTuberとして活動してもらうことになっていますが、実際の配信や運営はすべてAIが担当しています。』
『ただ、ご本人たちにも台本を渡して、形式的な作業や確認をしてもらっています。その際に得られたデータも、学習用としてしっかり活用していますので、VTuberとしての貢献には変わりありません。』
『さらに、ご本人たちには専用端末を持ってもらい、VTuber活動の一環として日常の反応データや生体データも提供していただいています。もちろん、端末の利用やデータ提供については、事前に同意を得ています。』
『今まで詳細な生体データは、お兄様達数人しかとれていなかったので、とてもいい学習データとなっております。』
なるほどなあ。さすがオリガミ、うまいことやっている。
※※※
「ちなみに、ドールズの中の人ってことになってる人たちって、どんな人が多いんだ?」
『はい。社会的に影響力のある、いわゆるVIPのご家族や関係者を中心に、協力者として登録していただいています。私の端末を持ってますので、彼らの周囲の情報も入ってきます。』
「……なんか、すごいことしてるな……」
『お兄様。誰か重要人物の弱みが得られるといいですね?』
俺とネムは、つい叫んでしまった。
「「オリガミ、黒い!!!!」」
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