キラキラ感ってなに?
スマホを耳に当てると、相手の声が明るく響いてきた。
『いやー、ドールハウスさんところの「サバ美」いいですね!ウチの「さよこ」の登録者数、すごい増えましたよ!』
俺は思わず口元が緩む。
「いえいえ、御社にはいつもお世話になってますしね。「さよこ」さんのおかげで「サバ美」の登録者数も増えましたし、お互いウハウハですね!」
電話越しの担当者は、まるで旧知の友人のように気さくに話してくる。こういうやりとりにも、だいぶ慣れてきた気がする。
『ははは、全くです!しっかし本当に高校生とは思えないほど、しっかりしてらっしゃる。本当は三十代とかじゃないんですか?もしくは、人生二周目とか?話題のタイムリープですか?』
「いやいや、私みたいな若造、褒めても何も出ないですよ?出るとしたら『タイ子』とのコラボくらいですよ?」
『うわー、ちょっと思ったことを言っただけなのに、すっごい見返りが来ちゃったなあ』
「いやー、担当さん、アホな男子高校生が喜ぶような事をポロポロおっしゃってくれるから、ついコラボをポロポロ出しちゃうんですよ〜」
「『はっはっはっ〜』」
俺と担当さんは、声を合わせて笑っていた。
※※※
オリガミが、骨伝導イヤホン越しに小声で囁いてくる。
『お兄様、さすがです。既に決まっていたコラボを、相手の手柄にしてあげるなんて……政治家とかに向いてそうですね。』
「……俺、こういうの、向いてるかもしれないな」
ふと、ネムがぼそっと言った。
「なんか正太郎って高校生らしいキラキラ感ないよな。オッサンっぽいというか」
オッサンいうな!せめて落ちついてると言ってくれ。
「キラキラ感ってなんだよ。なんとなく分かるけどさ。でも、ネムも同じじゃん。キラキラ感ないだろ?」
「ワタシは……ほら……なんだ……ないな……キラキラ感……ないな」
ネムは天井をあおぎ、どこか呆然としたように言った。
「だろ?」
俺は、ちょっと考えてみた。これ、若々しくないってことか?でも、ネムは若々しすぎるくらいに若々しい。
「なあ……キラキラ感ってなんだろうな?どっから出てくるんだ?」
自分でも答えが出ないまま、ぽつりと問いかける。
「カラオケ……とか行けば出てくるかもしれん。あとクレープ食べるとか?ネム、行ってみるか」
ネムは少し考えてから、ゆっくりとうなずいた。
「そうだな……何事も、新しいことにチャレンジしないとな」
※※※
その日、ネムと一緒にカラオケに行き、クレープを食べることにした。
まずは二人でカラオケボックスに行ってみた。
カラオケボックスの中は、薄暗い照明とカラフルなライトが交互に点滅していて、壁には最新のアーティストのポスターが貼られていた。
部屋の中に入ると、機械の操作パネルが目の前にあり、リモコンで曲を選ぶ仕組みだ。俺たちはソファに腰掛け、操作パネルを覗き込んだ。
「最新の曲、全然わからないな」
俺がそう言うと、ネムが提案する。
「じゃあ、音楽の授業で習った歌にしよう」
「いいね。じゃあ、俺は『ドレミのうた』を歌うよ」
「じゃあ、ワタシは『かえるのうた』にする」
カラオケでは、まるで保育園のおゆうぎ会のような雰囲気になった。俺たちの歌声が小さな部屋に響き、画面にはカラフルなアニメーションが流れている。
外から聞こえてくる他の部屋の盛り上がった歌声と比べて、俺たちの空間はどこかのんびりしていて、子どもっぽい空気が漂っていた。
その後、クレープも試してみた。クレープ屋のカウンターには色とりどりのメニューが並び、ショーケースには生クリームやフルーツがぎっしり詰まったクレープのサンプルが飾られている。
俺たちは列に並び、注文を済ませてから、紙に包まれたクレープを受け取った。外のベンチに座って、クレープを一口かじる。
「甘くて美味しいな」
「そうだな。ただ……周りの女の子たちとなんか違う気がするな」
「だな。俺たちの周囲だけどんよりしてる感じがする」
周りを見渡すと、他の女の子たちは友達同士で写真を撮ったり、笑い合ったりしている。
俺たちはただ静かにクレープを食べているだけで、どこか場違いな気分だった。
結局、キラキラ感を得ることはできなかった。
※※※
「ええ!ネムちゃんとカラオケ行ってクレープ食べたの?」
千穂が目を輝かせて聞いてくる。
「ああ、行ったぞ」
「そうだな。なかなか不毛な時間だったな。クレープは甘くて美味しかったけど」
「しょうちゃん、今度私も行きたい!」
そんな千穂を見て、ネムが言った。
「むむむ……千穂ちゃんは、なんかキラキラしてる感じするな」
「確かに……」
「正太郎、千穂ちゃんとカラオケ行って、クレープ食べて、キラキラ感の正体を掴んできてくれ」
「そうだな……いくか、千穂」
「うん!えへへへ……」
お出かけ中、千穂はずっとニコニコしていた。千穂は、なんかキラキラしていた。でも、キラキラ感の正体は結局わからなかった。
※※※
翌日、研究室に行くと、ネムが何やら作業をしていた。地面に這いつくばって、ニヤニヤした顔で配線を観察している。
「んふふふふ………」
楽しそうなネムの横顔を見て、ハッとした。俺は衝撃を受けて、思わず声を上げていた。
「ネム!お前、今キラキラしてるぞ!」
ネムがびくっと肩を震わせて、こちらを振り返る。
「おわっ!正太郎か!おどろかすなよ……キラキラ?ほんとか!?」
その顔は、驚きですこし紅潮していた。
「ネム……俺、分かってしまったかもしれない」
「ん……何をだ?」
ネムは怪訝そうに首をかしげる。
「キラキラ感の正体だ」
俺の言葉に、ネムの目が一瞬だけ大きく見開かれる。
「なにぃ!?教えてくれ、正太郎!」
身を乗り出してくるネム。
「キラキラ感……それは……本当に好きなことやってるときに出てくる雰囲気だ!」
自分の中で、ようやく腑に落ちた気がした。
「!?……なるほど。あり得るな……実際、今ワタシすごく楽しんでた。自分のやった配線見て、楽しんでたぞ!」
ネムは自分の手元を見て、納得したようにうなずく。
「だろ!?というわけで、おれも検証したい。そうだな……一時間後くらいに俺の部屋に来てくれないか?」
俺は、少しだけ自信ありげに笑いながら言った。
「……?わかったけど……?どうするんだ?」
ネムは不思議そうにしながらも、俺の提案を受け入れてくれる。
「来れば分かるさ」
※※※
一時間後。
俺は机に向かい、夢中で折り紙を折っていた。指先に集中していると、背後から声が飛んできた。
「出てる出てるぞ!正太郎!折り紙やってる、気持ち悪いニヤつき顔から、キラキラ感が出てる!」
思わず手を止めて振り返る。そこには、満面の笑みを浮かべたネムが立っていた。
「おわっ!ネムか!びっくりしたぁ……ってそうか。キラキラ感か。出てたか?」
自分では気づかなかったが、どうやら本当に“キラキラ”していたらしい。
「出てた!キラキラしてたぞ!若者っぽかった!」
ネムは嬉しそうに頷いている。その様子を見て、なんだかこそばゆい気持ちになった。
「そうか……キラキラ感の正体、検証できたな!」
俺がそう言うと、ネムも大きくうなずく。
「ああ、正太郎。やったな!」
二人で顔を見合わせて、同時に声を上げた。
「「俺達もキラキラした若者だった!!」」
※※※
そんな様子を見ていたオリガミが、スピーカーから声を発した。
『それは“若さ”とは関係ないかもしれませんね。お父様もよく、あのような表情をされていましたから。』
「………」
俺とネムはしばらく無言で顔を見合わせた。
「……まあ、キラキラ感なんて気にしなくてもいいよな?」
「そうだな。これからも、ワタシたちは自分たちが好きなことを全力でやっていこう」
オリガミが、優しい声で続けた。
『お二人とも、本当に素敵です。ただ、「キラキラ感」という表現は、少し時代遅れかもしれませんね。』
「「時代遅れ!?」」
俺とネムは驚愕の顔で、再び、お互いの顔を見合わせた。
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