VTuberを一人つくってみた
そっか……オリガミが大量のVTuberを同時運用できるなら、儲かるかもな……。ちょっとやってみるか。
「とりあえず、一体だけ作って運用してみようか。うまくいきそうなら、そっから増やせばいい」
『了解です、お兄様。では、まずは一体、VTuberを作ってみましょう。』
初めての一体だ。実験としては十分で、うまくいかなくてもダメージは小さい。
『記念すべき、第一号VTuberです。お兄様のアイデア通りに構築してみたいと思います。』
「俺のアイデアどおりか……」
※※※
千穂っぽくはしたくない。千穂が人目にさらされるのは、どうにも抵抗がある。
あいつ自身も、そういうのを喜ぶタイプじゃないし。むしろ、俺がそんなことをしたら、泣きそうな顔で怒られそうだ。
ネムをモデルにする、という案も一瞬だけ脳裏をよぎった。俺の中で、最強の面白キャラ。「おほおおおおおおっっっ♡」とか言わせれば面白いなんて思ったりもした。
でも、すぐに思い直した。ネムは、我々ヒモ兄妹のあるじ様だ。ご機嫌を損ねるようなことが合ってはならない。
結論。リアルな誰かをモデルにするのは、ダメだ。
※※※
「……俺が考えるVTuberなんだから、俺に関連することがいいか」
そうつぶやいて、天井を見上げる。俺と言えば……折り紙だろ。折り紙のことなら何時間でも語れるし、折ってるだけでも幸せになれる。
じゃあ、名前は……折り紙に関連してて、でもオリガミと紛らわしくない名前がいいよな……うーん……もう、なんか面倒になってきた。
「オリ子でいいんじゃね?あ、女の子じゃなくてもいいのか。じゃあ……オリ男でもいいな」
俺がぽつりと呟くと、すぐさま反応が返ってきた。
『オリ男!いいねですね。名前が、私とおそろいじゃないですか!さすが、お兄様です!それでいきましょう!』
オリガミは、やたらとノリノリだった。そのテンションの高さに、俺は少しだけ引きつつも、まあいいかと苦笑いをこぼした。
※※※
オリ男の3Dモデルは、オリガミが瞬時に作ってくれた。
なんとなく俺の骨格に似ているような気もするが、完成されたビジュアルはどう見ても超イケメンの男性だった。
『お兄様、オリ男のアバターです。コレで行きましょう。』
「おおー。数秒もかからなかったな」
『はい。こういうのは得意分野なので。お兄様の見た目を基本に、髪型も、流行と骨格比率をもとに最適化してあります。』
「俺の顔、こんなに整ってないぞ……?」
『大丈夫です。元の面影は5%くらい残しました。』
「もはや他人じゃないか……?」
軽くツッコミながらも、画面に映るオリ男をじっと見つめる。完成度が高すぎて、文句が出なかった。
『では、このVTuberには何をやらせましょう?』
「え?オリ男だから折り紙?」
『折り紙ですか。それでは、今まで私がコッソリ収集してた、お兄様が折り紙をしているときの映像を使用してもよろしいでしょうか?』
「そんなのとってたの?……まあ、俺ってバレなきゃ別にいいけど」
『ありがとうございます。お兄様の手元は、3Dアバターに変換します。配信中は、オリ男がリアルタイムで折っているように見せます。』
『隣にオリ男の上半身を表示して、手の動きと体の動きをリンクさせて、トークも展開しますね。ちょっと特殊な形態ですが、やってみましょうか?』
「うん、それで頼む」
俺がうなずくと、オリガミは即座に作業に入った。
『少し作ってみました。ああ……これは素晴らしいですよ。さすがです、お兄様。ご覧になって下さい。』
※※※
そう言って、オリガミはリビングのテレビを切り替えた。大型モニターに、バーチャル空間の映像が映し出される。
そこには、照明の落ちた静かな空間の中で、オリ男が折り紙を折っていた。ゆっくりと、慎重に、指先だけが柔らかく動いている。そのすべてが計算されたように美しく、リアルすぎて不気味なほどだった。
「おおー。超イケメンが、折り紙やってるようにみえる。すごいな。まったく違和感ないぞ」
『そうでしょう、お兄様の神の手が作っていく、精緻な立体物……。まさに芸術的な動画ですね。』
そんなに褒めるなよ。照れるじゃないか。
『この手の動き……手フェチの女性は多いと聞きます。おそらく女性の視聴者がたくさんつきますよ。』
「そ、そう?……想像できないな」
※※※
『もちろん、ライブ配信します。視聴者からのコメントも拾って、皆が喜びそうなコメントを返していきます。こんな感じです。』
オリガミはテレビにサンプル動画を流した。画面に映るのは、淡い照明に照らされた仮想空間。その中で、スラリとしたオリ男が静かに紙を持ち上げ、しなやかな指先で折り始める。
オリ男:『君たちのために…心を込めて…折るよ…』
わずかに伏せられた目元、優しい声色。
視聴者A:「その手つき…好きすぎて泣ける」
オリ男:『泣かないで……この一折に、君のための祈りを込めてるから』
紙の音すらBGMのように心地よく、コメント欄が一斉にポエム化する。
視聴者B:「なんでそんなに手が綺麗なの!?」
オリ男:『紙を大切にする手は、人も大切にできる……らしいですよ』
指の節と血管のラインまで再現されたアバターの手が、角度をつけて折り目を滑らせていく。見ているだけで、なぜか胸がざわつく。
視聴者C:「もう寝なきゃいけないけど……寝たくない」
オリ男:『じゃあ……君が寝るまで、もう一羽、折ってもいい?』
まるで子守唄代わりの折り紙。チャットが「好き」「しんどい」「無理尊い」で埋まっていく。
視聴者D:「その鶴、私にください」
オリ男:『うーん、困ったなあ。画面越しじゃ渡せないから……心で受け取って……』
オリ男:『じゃあ、みなさん……おやすみなさい……いい夢を……』
言葉と仕草がぴたりと噛み合い、最後に静かに手を広げる仕草で画面がフェードアウトした。
おおおお、背筋がぞぞっとした。氷の指先でなぞられたみたいに、体がびくっと震えた。
こ、これ……ほんとにウケるのか?
※※※
結果として、このオリ男はバズりにバズった。
甘すぎる口調と、指先から生まれる本気の折り紙。そのギャップが、視聴者の脳をじわじわと焼いたらしい。
『言ってることはチャラいのに、手の動きがスゴイきれい…』
『ただただ、折る姿に癒される。尊い!』
そんな謎の中毒性が話題を呼び、拡散され、SNSで勝手に切り抜きが流れ始めた。
最初は女性が多かったが、やがて「技術がヤバい」「こいつ何者?」と興味を持った男性層も流れ込んできた。
気づけばチャンネル登録者数は、三日で十万人を超えていたのだった。
※※※
世の中、何がウケるかなんて、本当にわかったもんじゃない。その夜、そうしみじみ思いながら、俺は布団の中で天井を見つめていた。
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