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千穂シリーズの役目(幼馴染視点)

しょうちゃんの家に、女の子が住みはじめた。


びっくりするくらい、可愛い子だった。紫がかったツヤツヤのオカッパ頭に、眠たげな瞳。でも、その目はただぼんやりしてるだけじゃなくて、奥に鋭くて強い何かが見えた。


あの目、どこかで見たことがある……そう思ってたら、しょうちゃんと同じ目だった。


すごく危険な香りがする。しょうちゃんが、取られてしまうかもれしれない。


※※※


その子は、星ヶ谷ネムという名前らしい。見た目は中学生みたいなのに、実は十八歳で、東応大学の准教授という肩書まで持っていた。


さっきネットで調べてみたら、AIの論文をたくさん書いている事がわかった。業界ではそれなりに有名な人らしくて、ファンも結構いるっぽい。天才で、十八歳で、しかもあの見た目。そりゃあ人気も出るって話だ。


そんな子が、しょうちゃんの家に住むことになったらしい。しょうちゃんの共同研究者として。


おじさん――しょうちゃんのお父さんの研究を、一緒に引き継いでやってるんだって。


守秘義務とかいうやつで、どんな研究なのかは教えてくれない。なんだか仲間外れにされたみたいで、ちょっと寂しい。


※※※


しょうちゃんとネムさんは、学校が終わって家に帰ると、ずっと一緒に何かの作業をしているみたいだ。


しょうちゃんは、折り紙を折っているときのように、イキイキしていた。


ネムさんは、だいたいいつも髪がボサボサで、顔もやつれてる。でも、それでもどこか、キラキラして見える。


しょうちゃんも、ネムさんも、同じ目をしていた。


思い返せば、しょうちゃんのお父さんも、あんな目をしていた気がする。


あれはきっと、何かに夢中になっている人の目だ。そして、今の私には、持てない目だった。


※※※


しょうちゃんの家の廊下には、今では太いケーブルが這うようになり、倉庫の中身はすっかり取り出されて、大きなコンピューターが運び込まれていた。


しょうちゃんからは、「倉庫には入るな」と言われている。どうやら、あの機械たちはとても高価なものらしくて、ひとつで億を超えるものもあるらしい。


ネムさんは、お金持ちでもあった。それも、自分で稼いだお金らしい。

あのコンピューターには、ネムさんが作ったAIが走っているんだって。AIを作るって、想像できない。すごすぎる。正直、敵わないと思う。


あんな子が本気でしょうちゃんを狙ったら、私なんかに勝ち目はない。私は、幼馴染で、しかも一度は恋人だったというアドバンテージを、自分の弱さで捨ててしまった。


しょうちゃんに、あれこれ言える立場じゃない。それはわかってる。


でも、あんな事があった後でも、しょうちゃんが私のことを大切に思ってくれている。それだけは、本当みたいだ。


神山の件では、私を守るために動いてくれたと確信している。


神山の態度が、ある日を境にまるで変わって、近づいてくることがなくなった。


そういえば、登校中に神山と鉢合わせた時……しょうちゃん、「可愛くて、優しい」って言ってくれたんだった。あれは、本当に嬉しかった。


えへへへ……


※※※


しょうちゃんが折ってくれた、私をモデルにした折り紙「千穂シリーズ」には、実は大事な役目がある。


それは、しょうちゃんとネムさんがいい雰囲気にならないよう、さりげなくブレーキをかけること。


ネムさんにも、「私はしょうちゃんにとって大切な存在なんだよ」って印象づけられるし、しょうちゃんだって、私のことを意識する時間が増えるかもしれない。


なんなら、アクシデントでふたりがベッドイン!なんて展開も、千穂シリーズが防いでくれるかも……って、ちょっとだけ期待している。


だってしょうちゃんも、私がそばにいたら、ネムさんとエッチなことなんて、しにくい……はず。


でも私は、しょうちゃんが、ネムさんとそういう関係になっても、仕方ないとも思っている。


私が、神山に体を許してしまったから。理由があったとはいえ、裏切ったのは私なのだ。


※※※


今のところ、ふたりの間に恋愛感情みたいなものは感じられなかった。どちらかというと、仲間とか親友みたいな関係に見えた。


だから、もしネムさんとエッチするようになったとして。ネムさんが恋人として、しょうちゃんを見ていないのなら。そのときは、私も、仲間として混ぜてほしいと思ってしまう。


たぶん、それくらいしか、もう一度しょうちゃんの温もりに触れる方法はない気がする。


……もちろん、抵抗がないわけじゃない。でも、仕方ないことだとも思う。しょうちゃんは、すごい人だ。ネムさんも、すごい人。私だけが、凡人で、しかも一度しょうちゃんを裏切ってしまった。


だったら……それくらいは、受け入れなきゃいけないんじゃないかって。


それに、ネムさんは、ちょっと価値観が普通と違うところがありそうだから、私がしょうちゃんと関係を持つことも、許してくれるかもしれない。三人で、仲良くやれる可能性だって、ゼロじゃない。


……ということはだ。


私は、ネムさんのことも大切にしなきゃいけない。彼女に嫌われたら、きっとしょうちゃんを独り占めされてしまう。


それだけは、絶対に困る。


※※※


打算的な自分が、正直いやになる。


でも、こうでもしないと、きっと一緒にはいられない。しょうちゃんは、いつかどこかへ羽ばたいていってしまう気がする。私は、それをただ見送るしかないのだろうか。そんなふうに、思ってしまう。


ネムさんのことは、正直、ありがたいと思ってる。すごくいい人だと思うし、きっと、すぐに仲良くなれる。


それに、なんとなくだけど、しょうちゃんと同じタイプっぽい。お世話すると、わりと素直に甘えてくるタイプ。


だったら私は、私なりのやり方で、ふたりの邪魔をせずに、支えになれたらいい。


きっとうまくやれる。……うまくやりたい。


最近は、ふたりとも、ちゃんとしたご飯を食べていないみたいだった。ゴミ袋の中には、デリバリの空き容器がぎゅうぎゅうに詰まってたし……。


だったら、私が二人のご飯を作るのも、悪くないかもしれない。無理に入り込まず、必要とされるかたちで、そっとそばに居よう。


※※※


そういえば、「千穂シリーズ」のことを話すとき、しょうちゃん、私のことを「大切な人」とか「千穂だけ」とか、すごく熱く語ってくれたんだっけ。


あれは、本当に嬉しかった。思い出すだけで、顔がゆるんじゃう。


えへへへ……

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