痴漢冤罪女の処遇
『お兄様、痴漢冤罪を仕掛けた彼女は、どうなさいますか?』
「うーん……あいつ、神山のことが好きだったから、言われるまま動いてただけだろ。ただ何も考えてないだけじゃないかな?ホストに貢ぐために体売るようなタイプだと思う」
『ええ、まさにそんな印象ですね。』
「正直、そんなやつに構ってる時間はないんだよな。もうこいつらに手間をかけてる場合じゃないし、早く計画を進めないと」
「ちょっと脅すだけにしようか。たとえば……俺が自殺したってことにするとか?神山経由で伝えれば、それっぽくなるだろ」
『それは、一案かもしれません。でも、お兄様が“自殺”などと口にするのは、私は聞きたくありません。』
オリガミの声が、いつもより少し硬かった。どこか、ピリピリするような緊張感があった。
「まあ、本人がやったことの重さを、自分の心と体で味わえばいいさ。本当にヤバそうになったら、“ウワサだった。実は生きてた”ってことにすればいい」
「その女の後始末も、神山に任せよう。案外、破れ鍋に綴じ蓋でうまくいくかもしれないしな」
『そうですね。少しお願いされただけで冤罪を仕掛けるような彼女です。神山の手駒に過ぎませんし、間接的にはお兄様の駒でもあります。』
『二人には、周囲に害を及ぼさないよう、お互いを依存先として支え合いながら、手駒として働き続けてもらいましょう。』
「そ、そうだな…」
オリガミは相変わらずだった。
※※※
その翌日、千穂と一緒に登校しているときだった。
運悪く、正面から神山と鉢合わせてしまった。千穂もすぐに気づいてしまい、顔を真っ青にして、俺の背中に隠れた。
「ふ、藤崎さんと……朝比奈さん……」
「やあ、神山。悪いことはしてないか?」
努めて上から目線で言ってやる。少しでも舐められたら意味がない。
その瞬間、神山が突拍子もない行動に出た。千穂の方へ向き直り、突然、地面に手をついた。
「朝比奈さん、本当に……もうしわけ……」
「かみやまぁ!」
俺は神山の発言をさえぎり、怒鳴りつけた。
神山の肩がビクリと跳ねた。
俺の後ろに張り付いていた千穂も、小さく息をのんで、俺の様子をうかがっている。
「俺はお前に、千穂に話しかけることも、謝ることも許可してないぞ」
「え……?」
「よく考えろ。謝罪ってのはな、あるラインを超えると、加害者の自己満足になるだけなんだよ。お前が謝って、千穂が楽になると思うか?」
「……た、確かに。お、思いません」
「それにな、千穂は可愛くて優しい。だから“謝られたからには許さなきゃ”って思うかもしれない。……それこそ、千穂を追い詰めることになるとは思わないのか?」
「……おっしゃる通りです、藤崎さん。俺……何も分かってませんでした……」
神山はその場で膝をつき、がっくりと肩を落とした。
「えへへ……可愛くて優しいって……」
そのとき、千穂は俺の背中に顔をうずめ、おでこをグリグリと押し付けていた。かわいい。
※※※
「千穂、先に行っててくれないか? ちょっと、こいつに話しておきたいことがある」
「で、でも……しょうちゃん……」
「大丈夫だから、千穂」
「危ないこと……しないでね……」
「ああ。すぐに教室に行く」
千穂は心配そうに、上目遣いで俺を見つめた。俺はその頭にそっと手を置き、もう一度だけ、しっかりと目を見て言った。
「大丈夫だから」
「……わ、わかった……」
顔を赤らめながら、涙ぐむ千穂。こちらを何度も振り返りながら、学校の方へ足早に歩き出した。
……あれ、大丈夫かな。なんかつまずきそうだぞ。ちゃんと前向いて歩けよ。後で注意しておかないとな。
※※※
さて、と。俺は神山の方を向いた。
神山はその場で、ぐしゃぐしゃに涙を流して号泣していた。
「こ、こんな……こんなキレイな関係を……お、俺が……壊しかけたなんて……!」
どうやら、さっきのやり取りがガツンと心に刺さったらしい。
うーん、なんか……人格変わってないか?コイツ?俺達がやったのって、洗脳だったのかも。
俺は、気を取り直して、神山に言った。
「神山。痴漢冤罪を仕掛けた女、いたよな?」
「……はい」
「そいつに、俺が自殺したって伝えろ」
「え……!? それって……!」
「もちろん、あの件で一番悪いのはお前だ。だけどな、あの女も同じくらい悪い。たとえ頼まれたからと言って、人一人の人生を潰すことが、どれだけ取り返しのつかないことか、身を持って分かってもらう必要がある」
「……」
「じゃなきゃ、また同じようなことをやるぞ?深く考えずに誰かを陥れて、次は本当に誰かが死ぬかもしれない。お前は、その子を“人殺し”にしたいのか?」
神山は、唇を震わせながら言った。
「で……でも……、あいつは……俺の頼みを、聞いてくれただけだったんです……ただそれだけなんです!あんな状態の俺の話を、ちゃんと聞いてくれたの……あいつだけだったんです!」
俺は一呼吸おいて、ゆっくり言った。
「だけどな。どんな理由があったとしても、自分の行動には、自分で責任を取らなきゃならないんだよ」
※※※
「もし、お前があの子のことを本当に大切だと思ってるなら……」
「……」
「彼女に申し訳なさを感じてるなら、お前が支えてやれ。誰よりも、世界で一番、大切にしてやれ」
「そして、お前が、彼女を幸せにしてやれ」
神山は顔を伏せたまま、しばらく動かなかった。やがて、震える声で答える。
「……そ、そうですね。わかりました。確かに、全部……藤崎さんのおっしゃる通りです……」
「俺……あの子を殺人者になんか、したくない。だから……藤崎さんの言うとおりにします。藤崎さんが“自殺した”って伝えて、そして……一緒に、罪を背負っていきます」
「ああ。頑張れ。今のお前なら、できるさ」
神山は深く一礼した。そして、一歩一歩、覚悟を決めた足取りで、校門の方へと歩いていった。
※※※
『さすがです、お兄様。本当に話術が上達されましたね……私、感激してしまいました。心強いです。』
いつもの涼やかな声が、どこか嬉しげだった。
「いやいや……なんか、オリガミ見てるうちに、自然と身についてきた気がする。最近の俺、ちょっと詐欺師っぽいかもな……」
『いけません!お兄様!』
突然、骨伝導イヤホンから伝わる音量が跳ね上がった。
『お兄様は詐欺師ではありませんし、その妹である私も詐欺師ではありません。ただ、ちょっと話がうまい兄妹なだけです!』
そうだった……オリガミは、俺が自分のことを卑下するようなことを言うと、すぐ怒るんだった。
俺はなだめるように言った。
「わ、わかってるって……俺達はちょっと会話がうまい仲良し兄妹だよな!」
『お兄様。そのとおりです。仲良し兄妹です。』
オリガミの声は、少しだけ嬉しそうに聞こえた。
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