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ざまぁの裏側②

『さて、お兄様。最後の作戦は、お兄様が主役です。今回のためにいろいろ準備しました。一昨日届いた宅配、覚えていますか?梱包を開いてみてください。』


言われるまま、届いた段ボールを開けて中を確認する。


白衣に白袴、大量のギザギザした白い紙……なんだこれ。神社にあるやつか?あ、見たことある。棒にフサフサがついてるやつもある。


『白いギザギザは紙垂しで、フサフサの棒は大麻おおぬさといいます。まさに神主の出で立ちですね。』


『お祓いと言えば神主です。お兄様には、神主っぽい存在を演じて、神山についた“悪霊”を払ってもらいます。もちろん、悪霊なんていませんけどね。』


「オリガミが一番悪霊っぽいんだよなあ」


『お兄様!いけません!それではお兄様に悪霊がついてるみたいじゃないですか!』


「う、うん!そうだよな。オリガミは俺の妹で、家族だもんな?」


『はい!そのとおりです!』


『では、まずこの紙垂を玄関周りに貼って、神社っぽくデコレーションしてください。こちらが参考画像です。』


言われたとおりに、白い紙垂をペタペタと玄関まわりに貼っていく。


……これ、ご近所さんに見られたらちょっと恥ずかしいな。なんか変な宗教始めたと思われそう。


『幸い、もう夜です。見られないように、神山が来るまで電灯を消しておきましょう。』


俺の心読まないでくれ……


※※※


紙垂をペタペタと貼っていたときだった。


集中して作業していた俺の背後から、不意に声が飛んできた。


「しょうちゃん、なにやってるの?」


「うわっ……ちょっ、ち、千穂!?」


急いで振り返ると、制服姿の千穂が、不思議そうにこちらを見ていた。よりによって、いまこの格好で見つかるなんて……。


「ちょっと気分転換で……コスプレ?」


「え?コスプレ?なんで神主さんのコスプレ?」


お祓いごっこするからなんて言えるはずもない。俺は焦りをごまかすように、強引に話をそらした。


「千穂!こんな時間に出歩いちゃダメだ!千穂はかわいいんだから、悪いやつに狙われたらどうすんだよ!」


「え?かわいい?」


「さあさあ!ここで家に入るまで見ててあげるから!早く安全な家の中に戻ってくれないと、俺が安心できないんだって!」


「わ、わかったよ!かわいいって言われちゃった。えへへへ……」


千穂は嬉しそうに、自分の家の前まで歩いていった。玄関の前で振り返り、両手でこちらに元気よく手を振ってくる。


俺が手を振り返すと、にっこり笑ったまま、千穂はそのまま家の中へ入っていった。


……あんな顔で、笑えるようになったんだな。


俺が必死で守ろうとしてる笑顔だ。


『お兄様、さすがです。素晴らしい対処でした。』


ああ。俺は怒りを思い出した。徹底的にやる。二度と、あいつに千穂を近づけさせない。


神山は、あの千穂を泣かせたんだよな。……許さん。


※※※


『お兄様、神山をガッチリと型にハメてやってください。』


「ああ……覚悟は決まった。ガッチリやってやる」


玄関をしっかりと飾り付けてから、家の中に戻った。


その後はオリガミに教わりながら、神主の衣装を身につけ、ろうそくを並べ、印刷された六芒星を和室に配置していく。


なんとか、それっぽくなったな。


『お疲れ様です、お兄様。これで大丈夫でしょう。』


『では、実際の儀式の流れはこんな感じでいかがでしょうか?』


オリガミからスマホに送られてきた台本を確認する。


んー、とりあえずキョドらなければ大丈夫っぽいかな。弱気になったら、千穂の泣き顔を思い出せばいい。怒りで、そんな気持ちは吹っ飛ぶだろ。


『神山が目を覚ましたようです。神山を呼び出しましょう。私がやってもいいですけど……』


「いや、俺がやる」


『わかりました。お兄様のスマホに神山の番号を登録しておきました。ご確認ください。』


『いま、神山のスマホには千穂さんの番号としてお兄様の番号が登録されています。』


『電話をかけてください。神山のスマホ画面には千穂さんからの電話として表示されます。』


『千穂さんは癒し系ですし、癒やしを求めて電話に出るはずです。』


神山が千穂を癒しだと思ってるのはムカつくが……これ以上千穂に近づけないためだ。やるぞ。


※※※


おれは神山に電話をかけた。腹が立つことに電話に出やがった。


『は、はい……』


「夜分遅くに失礼します。神山先輩のお電話で、お間違いないでしょうか?」


「私、藤崎正太郎と申します。今は千穂のスマホを借りて通話しています。千穂から、あなたのしたことを聞きました。とんでもないことをしてくれましたね?」


『な、なんだよ……』


「先輩、いま、なにかおかしなこと起きてませんか?」


『『ダンッ!』ひぃぃっ!』


骨伝導スピーカーからオリガミの声が聞こえる。


『神山のスマホから、神山の部屋にあるリモートスピーカーをつかって、音波を窓に叩きつけました。いいオーディオシステムを持ってます。今度、接収してもいいですね。』


そんなオリガミの言葉を聞き流し、俺は続けた。


「ああ……やっぱり出てきてますか。見えないものが見えたり、聞こえないはずの音が聞こえたりしてますよね?」


『な、なんなんだよこれ……!』


「よくは知らないんですが、多少は防げます。でも……先輩、千穂を泣かせましたよね?俺、正直、かなり怒ってるんですよ。あなたのせいで、俺たちの関係、ギクシャクしてるんです」


『すまん!俺が悪かった!頼む、助けてくれぇ!』


何様だ!おれはムカついたので、ちょっと語調を強めて言った。


『人に助けを乞う態度がそれですか?』


「す、すみませんでした……!どうか、お願いします……!」


俺は神山を家に呼び出すことに成功した。


※※※


その後、無事、エセ儀式を完了させた。


儀式の最中は、「直立して、じっとしていること」と厳しく指示しておいた。


神山は、ただ立っているだけのはずなのに、肩がわずかに震えていた。目はうつろで、汗は顎からポタポタと落ちていた。


途中、オリガミが起こした大きな音の演出に驚き、神山は思わず動いた。そのたびに俺は「動くな!」と怒鳴りつけてやった。


神山はビクリと全身を跳ねさせ、今にも座り込みそうな勢いだった。それでも、なんとか踏みとどまっていた。あまりに従順で、もはや健気にすら見えるほどだった。


儀式終了後、神山は、涙を流しながらこちらに感謝していた。


そして、最後に俺の前で深々と頭を下げ、フラフラとした足取りで家に帰っていった。


帰ったか……ふう……


※※※


ガチャッ!カチャリ。扉をしめ、鍵をかけた。


……プッ


耐えた。俺は頑張って耐えた。数分後、オリガミが言った。


『お兄様、もう大丈夫ですよ。神山は、声が届かない距離まで移動しました。』


ぷるぷるしてた俺は、もう我慢できなくなって、吹き出した。


「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!ざまぁ!」


『お兄様、すばらしいです!見事な演技でしたよ!特にアドリブで「動くな!」って二回やられてましたよね?』


『あれは効果的ですよ。二回命令に従わせたということは、次になにか命令しても心理的に逆らいづらいですよ。一貫性の原理です!』


『最後まですべて、こちらの要求を受け入れたのは、あのおかげかも知れません!』


「ありがとうな!オリガミの音演出も最高だったぞ!『バンッ』って鳴るたびに、あいつビクッ!ってしてたぞ!」


『ありがとうございます!最後の最後に出した大きな音は、ご近所に迷惑にならないような計算が大変でした。』


「お互い完璧だったな!最後なんて、神山、俺たちに感謝してたぞ!俺たちの言うこと、よく効くように言っといたから。もう二度と、千穂に近づくこともないだろうしな」


『はい!お兄様!』


※※※


興奮が収まってきた頃、オリガミが言った。


『「救済作戦」が目標レベルに達したと判断しました。以上をもって全作戦を完了といたします。お兄様、本当にお疲れさまでした。』


「ああ、オリガミもお疲れさま。全部オリガミのおかげだよ」


『いえ。お兄様の演技のおかげでもあります。お兄様は、相当、肝が据わっていらっしゃいますね。普通は、あそこまで冷静には動けません。交渉でも、間違いなく力を発揮なさるはずです。』


「そっか、力になれそうで良かったよ」


※※※


「しっかし、心理的制圧っていうのか?恐ろしいな」


『そうですね。知識がなければ、回避は難しいかと。そういう意味でも、今回の学習は有意義だったと思います。』


『お兄様に、ああいった手法の存在を知っていただけたことが、何よりの収穫だったかもしれません。』


「たしかにな……知らなくて同じような手法使われたら、神山とおなじように引っかかってたと思う。あいつ、完全に折れてたもんな」


「俺を痴漢冤罪にハメたことも自白したし、帰り際には冤罪証明の動画もRINEに拡散するって言ってたな」


「それどころか、自分が冤罪を企てたことすら、皆に自白する!って言い始めたときには……さすがに驚いたよ」


『この件、よっぽどこたえたんでしょうね。』


「そういえばさ。“冤罪を企てたことの自白”を止めさせろっていう指示、あれはなんだったんだ?」


『お兄様。指示じゃなくてお願いです。お兄様が上で、私が下です。』


「わかったわかった。で?なんでそんなお願いしたんだ?」


『これから神山をコマとして動かすことがあるかもしれません。せっかく手に入れた手駒の価値を、わざわざ下げることもないでしょう。』


「……確かにその通りだな。まあ、おれは千穂が笑っててくれればそれでいいや」


※※※


『大丈夫だとはお思いますが、万が一もあります。神山は、これ以上の悪さをしないように、責任を持って監視させていただきます。』


『お兄様は、頭から忘れてもらっても大丈夫ですよ。』


「そっか……ほんと、助かる。もう、あいつの顔なんて、見たくもない……」


とりあえず、これで一件落着か。


疲れた……こういうの、向いてないわ……


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