表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/36

女あさりの日々(間男視点)

気分が良くなかった。


俺はあれだけ、時間も手間も、そしてそれなりの「リスク」だって背負って、やっとのことで朝比奈千穂をモノにしたはずだった。


時間をかけて、段取りを整え、手はずを組んで、ようやく彼女を抱いた。


あれだけ時間をかけてモノにした朝比奈千穂だ。一回抱いたぐらいじゃ採算が合わない。


しかし、全く連絡がとれない。RINEもブロックされたし、通話にも出ない。


意味がわからなかった。


※※※


以前より、朝比奈千穂のことは知っていた。


学年は違ったが、名前も顔も、よく覚えている。


黒髪は肩より少し下までまっすぐに伸びていて、癖ひとつなく艶やかで、まるで手入れの行き届いた人形みたいだった。


顔立ちは整っていた。大きくて垂れた瞳に、睫毛も長い。肌は白くて、どこか儚い雰囲気をまとっていた。


それでいて、身体は、思春期の男どもの目を釘付けにするようなものを持っていた。制服の上からでもはっきりわかる胸のライン。細い腰、なのにヒップは肉付きがよくて、歩くたびに揺れる。出るところは出ていて、引っ込むところはちゃんと引っ込んでいる。まさに理想形。


正直、一目見たときから、「モノにしたいな」と思っていた。


だけど、接点がなかった。


学年が違うから、共通の授業もなければ、話しかけるきっかけもない。俺のことを知ってるか知らないのもわからない。


それでも、気にして見ていた。登下校のタイミング、誰と話しているか、昼食をどこで取っているか。それとなく情報を集めて、接近のチャンスをうかがっていた。


やがて、彼氏がいるという話を耳にした。


最初は驚いた。あの千穂に、彼氏? どんなやつだ?


気になって、名前を調べ、顔を見に行ってみた。


……拍子抜けだった。


なんだあの冴えない男は。髪はボサボサ、顔も別に整ってない。身長はそこそこあったが、鍛えてるような様子はなかった。ボーっと何かを考えながらフラフラしながら歩いていた。


信じられなかった。あんなやつが千穂の彼氏だなんて。


おれが見てきた女たちは、もっと見た目やスペックに敏感だった。イケメンかどうか、スポーツができるか、金を持っているか、そういうわかりやすい「格」で男を見ていた。だからこそ、俺の周囲には女が集まっていた。


なのに、朝比奈千穂は、なんの魅力もないような男とつきあっていた。


……許せない、とは思わなかった。ただ、不思議で、理解できなくて、腹立たしかった。


おれより先に、そんな奴に選ばれていることが、何より気にくわなかった。


※※※


俺はとあるサークルに所属していた。成人していると嘘をついて入り込んだ、いわゆる「ヤリサー」ってやつだ。


年齢確認なんてザルだったし、雰囲気とノリさえ合えば、誰も細かいことは言わない。実際、見た目だけなら大学生にも見えたし、何より女ウケが良かった。


髪型も服もそれなりに整えてたし、筋肉も程よくついていた。体育会系すぎず、線が細すぎるわけでもない。ちょうどいいバランス。


そういう「ちょうどいい男」は、こういう場所で重宝される。


ヤリサーってのは、要するに「遊び場」だ。遊ぶっていっても、ただ飲んで騒ぐだけじゃない。本音では全員、女を食うために集まってる。イケメンは女を連れてくる役。ブサメンは場所代と金を出す係。


シンプルな構造だ。


俺みたいなイケメンが何人かいて、パーティーの場に華を添える。で、そいつらが引っ張ってきた女の子たちを、サークルの中でシェアする。主導権は常に「持ってる側」にある。


イケメンの新規は基本的に大歓迎だ。それは女の供給源だからだ。


逆に、顔も金もないやつは、せめて酒と場所とタク代くらい出してくれなきゃ、ただの荷物だ。そういうやつは空気を読んで、雑務をやったり、帰りの車を出したりして、なんとか居場所を作ってた。


女に飽きたらサークル内に流す。それも暗黙のルールだった。もちろん、表立って言うような奴はいないけど、みんなそれが当たり前だと思ってた。女もわかってるのか知らないけど、案外すんなり受け入れる。


俺も、他のイケメンが飽きた女を何人か回してもらった。もちろん、俺が連れていった女を他のやつに回したこともある。


※※※


ある日、ホテルの一室を借り切って、サークルでただれた交流会をした帰りのこと。


朝比奈千穂の彼氏が、同じ電車に乗っていた。たしか藤崎という名前だったはずだ。以前と見た時と同じように、ぼーっと窓の外を眺めていた。


ひらめいた。こいつを陥れて、朝比奈千穂をモノにしてやろう。


※※※


交流会のメンバーの女に頼み、藤崎に痴漢冤罪をしかけた。俺の頼みならと、すぐに乗ってきた。「飽きたら回してやる」と言ったら、他の男性メンバーも協力してくれた。


しっかりでっち上げて、それを撮影して、すぐに撤収。


適当に編集して、都合の悪い部分だけ切り取って「これヤバくね?」ってノリでRINEに流した。グループで拡散され、すぐ藤崎のクラスにまで届いた。


※※※


意外だったのは、朝比奈千穂が必死に藤崎をかばっていたこと。


普通、彼氏のこんな動画が出回れば、すぐに別れるだろうに。なのに、千穂は藤崎の冤罪を信じて、証明しようと動いていた。


だが、そんな必死さも、動画のリアリティには敵わなかった。誰も千穂の話なんか信じなかった。


※※※


数日後、朝比奈千穂が俺のクラスまでやってきた。どうやら動画の出どころを追っているようだ。


チャンスだと思った。すぐに「話がある」と人気のない廊下へ連れ出した。


「おれ、藤崎くんが冤罪だって知ってるんだ。協力させてくれない? その場にいたっていう証拠もある」


そう言って、流出している動画とは別アングルの動画を見せた。他のサークルメンバーに頼んで撮ってもらったものだ。もちろん、冤罪が証明された場面は切り取ってある。


千穂は、思ったよりあっさりと信じてくれた。というより、信じたかったんだろう。必死に藤崎のことをかばっていたし、正義感だの責任感だの、そういう「いい子」なところをこっちは逆手に取った。


こっちは「冤罪を晴らすための味方」って立場を徹底した。余計なことは言わず、寄り添ってるフリをした。わざと遠回しな言い方をして、曖昧な優しさを見せるようにもした。


そのうち自然に、ふたりで話す機会も増えていった。放課後に呼び出して、藤崎のことを一緒に調べる流れをつくって。昼休みに「ちょっと聞きたいことあるんだけど」って言えば、千穂は断らなかった。


何度か会えば、女は慣れる。慣れたら、境界線が曖昧になる。


そうやって少しずつ距離を詰めていった。手をつなぐでもなく、ボディタッチをするでもなく、ただ「真剣に協力するフリ」をして。疑われないように、慎重に、じわじわと。


ここまでくれば、もう勝ちパターンだと思った。


向こうも、きっと俺に気がある。そう確信して、告白した。


……だが、振られた。


※※※


信じられなかった。俺みたいなイケメンを、あっさりと振るなんて。


こっちは、ここまで手間ヒマかけてやってきたんだ。冤罪の協力を口実に、何度も顔を合わせて、話して、時間を重ねてきた。普通の女なら、とっくに落ちてる。それが、何度告白しても、まったくなびかない。


イライラが募った。理屈じゃ割り切れない苛立ち。だから、やり方を変えた。


「もう気持ちの整理がつかない。一回だけでいい、思い出をくれ」


「そうじゃないと、冤罪のことにも動けないんだ……ごめん」


弱さを装って、しおらしく頼んだ。罪悪感を刺激すれば、女は案外簡単に折れる。


千穂は迷っていた。目が揺れていた。正義感と、責任感と、罪悪感……その全部がせめぎ合ってるのが見て取れた。


そして、千穂は、ほんの一瞬だけ目を伏せて小さく頷いた。


ホテルに連れ込むときも、まだ迷いは残っていた。歩く足取りも、口数も、どこか固い。それでも、俺は押し通した。


「大丈夫」「すぐ終わるから」「誰にも言わない」


そうやって言葉を重ねて、雰囲気を作って、逃げ道を塞いだ。いつも通りの手順だ。いつも通りに、仕留めた。


手間はかかった。確かに面倒だった。だが、そのぶん、達成感は格別だった。


手間ヒマかけてモノにした女だ。苦労の分だけ、価値がある。獲物はでかければでかいほど、狩ったときの快感はひとしおだ。


つまり。最高の夜だった。


※※※


一度抱けば、女はなんとでもなる。それが俺の経験則だった。


だが、千穂は違った。それから連絡が、ぷつりと途絶えた。


最初は「いつもの駆け引きだろ」と思った。少し距離を置いて、俺の関心を引こうとしているだけ。どうせ数日すれば、向こうからまた連絡してくる。


そう思って、のんびり構えていた。既読がつかないトーク画面を、軽く流し見ていた。


……だが、数日経っても、何も来なかった。


RINEの表示が、おかしいことに気づいたのは、その翌日だった。プロフィール画像が初期化されていて、タイムラインも見えない。試しに別アカからアクセスしてみたら、普通に見えた。


ブロックされていた。


その瞬間、胸の奥がざらついた。いや、苛立ちとともに、得体の知れない怒りが広がった。


「は?」


なんでだ?何が気に入らなかった?イケメンの俺に抱かれたんだぞ、喜んで当たり前なんじゃないか?


……俺は失敗したのか?


いや、まだ終わってない。まだ手はあるはず。


仕方ない。新しい動画を作るか。


もっと、「藤崎の冤罪が証明できそう」なネタを仕立てて、それをエサに近づく。あくまで善意を装って、「君のために協力したい」って顔で。


今までだって、善意を装って女を落としてきた。一度抱いた女を、ここで逃がすなんてこと、あるわけがない。


ただ……動画編集、クソめんどくせえ。


素材はある。角度違いの映像もいくつか保存してあるし、ちょっといじればそれっぽくなるだろう。でも、あの映っちゃマズい部分を違和感なく切り取るのはなかなか骨が折れるものだ。


……まあ、明日でいいか。とりあえず、今日は普通に登校しよう。


そう思って、何気なく校門をくぐったそのときだった。


※※※


こちらをじっと見ている男がいた。


藤崎。あの、冴えない男。痴漢をでっちあげてやった、朝比奈千穂の彼氏だ。


「なんだあいつ。ムカつくな。みてんじゃねぇよ」


あんなやつ、どうとでもなる……そう思っていた。


あの日から、俺のすべてが終わり始めるとは、この時は知りもしなかった。

もし気に入っていただけたら、【ブックマーク】と【下の評価 ★★★★★】をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ