間男を大切に使おう!
その日の放課後は、千穂と一緒に帰宅した。
俺は神山の危険性について、改めて千穂に伝えることにした。
「千穂、神山の件だけどさ……あいつ、俺の痴漢冤罪に関わってるかもしれない」
「え……!?」
千穂が目を見開く。
「この前、送ってもらった動画あるだろ。あの二つを同時再生してみたんだけどさ、途中で音声がズレるんだ。同じ場面を映してるのに、片方の動画のほうが時間の進みが早いって、おかしいよな」
「……え、それって……」
「よく見てみるとさ、こっちの動画、女の顔が映らないように、意図的に切り取られてる感じなんだ。ここ、不自然にコマが飛んでるだろ?だから、時間がズレたんだと思う」
「ほんとだ……」
千穂は呆然とつぶやいた。
「多分だけど……この女、神山の関係者だったんじゃないかな。顔を隠したのは、バレるとまずい理由があったんだと思う」
「関係者……」
千穂がぽつりとこぼす。その目が、みるみるうちに濡れていく。唇をきゅっと噛みしめ、悔しそうに眉をゆがめた。
「……わたし、全部、だまされてたんだね……」
うつむいたままの千穂は、拳を握りしめ、肩を落としている。必死に自分の中の感情をこらえているのが、伝わってきた。
そんな彼女の姿に、胸がぎゅっと締めつけられる。込み上げてきたのは、怒りだ。憤りだ。千穂にこんな顔をさせた奴らを、俺は絶対に許せない。
「……そうだな。神山は、かなりやばい奴かもしれない。絶対に、近づくなよ。この件は、俺がどうにかするから」
「しょうちゃん……」
顔を上げた千穂の瞳から、涙がぽろぽろとこぼれ落ちていた。
怒りが再び燃え上がる。だが、それを彼女にぶつけるわけにはいかない。だから俺は、できるだけ優しく、静かに言った。
「……大丈夫だから。全部、俺に任せておけ」
「うん……わたし、ほんと駄目だなあ……」
「何いってんだよ。千穂がいなかったら、今の俺はいない。だからさ、自分を責めるなって」
言葉だけじゃ足りない気がして、俺は彼女の肩を、軽くぽんと叩いた。恋人じゃなくても、これくらいならしていいだろう。
「うん……ありがとう……」
小さくうなずいた千穂は、まだ少し震えていたが、その目には先ほどとは違う光が戻っていた。
俺は千穂を家の前まで送り届け、しっかりと玄関に入るのを見届けてから、背を向けた。
※※※
ドアを開けて中に入り、しっかりとドアが閉まる音を確認する。
一度、肺の中の空気をすべて吐き出すように、深く息をついた。そして、大きく行きを吸い、胸の奥にたまっていた感情を、力のかぎりぶちまけた。
「くそがぁぁぁぁ!!神山ぁぁぁ!千穂に、あんな顔させやがってぇ!!」
下駄箱を思いきり叩く。何度も、何度も。
音が響くたびに、怒りが少しずつ外に流れ出ていく気がした。こんなふうに叫んだのは、人生で初めてかもしれない。
「オリガミィィ!!!神山、どうしたらいいと思う!!」
『排除しましょう。お兄様の怒りが、各種センサーを通じて伝わってきます。神山の存在は、お兄様の幸福を阻害します。』
「だよな!絶対に……ぶっ◯す!!」
返事を求めたというより、ただ叫ばずにはいられなかった。だが、そんな俺に対して、オリガミは静かに返してきた。
『では、お兄様の気持ちがスッキリするように、ジワジワと追い詰めていきましょう。一番効果的で、相手が一番嫌がる方法を、一緒に考えましょう』
「考える」って言葉に、俺はハッとした。
完全に怒りに飲まれてたな。オリガミは、あえてこういう言い方で、「落ち着け」と伝えてくれたんだろう。
「……そうだな。すまん。冷静にならないとだな」
怒りはまだ渦巻いてる。でも、オリガミの声を聞いたおかげで、少しだけ頭が冷えてきた。
『大丈夫ですよ。それだけ千穂さんのことを大切に思っている、という証拠です。私も、お兄様が情に厚い方であることを誇りに思います』
「ありがとな……」
※※※
少し落ち着いてきたところで、オリガミが不意に、妙な提案をしてきた。
『お兄様。むしろ、神山と冤罪をしかけてきた女性を、大切に扱いませんか?』
「大切?……どういう意味だよ?」
突拍子もない提案に、語気が強くなってしまう。
『せっかくですし、彼らで練習しませんか?今後のために、役立ってもらいましょう。』
「練習?なんの……」
一瞬、背筋が冷えた。だが、オリガミの返答はあくまでも静かで、合理的だった。
『はい。荒事の練習です。』
※※※
荒事?
その言葉に、思わず目を見開いた。まさか、オリガミの口からそんな単語が出てくるなんて。
「……暴力とかはさすがに、こちらが不利になるんじゃないか?」
『いえ、暴力ではありません。この人たちを使って、合法的な“心理的制圧”手法の実証実験を行いたいのです。』
『将来、もっと危険な相手と対峙する前に……罪悪感なく練習できる貴重なケースです。ですから、彼らを大切に使いましょう。』
「……な、なるほど。え、えげつない……でも、そうだな……せっかくだし、俺たちの糧になってもらおう」
口ではそう言ったものの、内心では小さく警鐘が鳴っていた。大丈夫かこれ?倫理的にアウトじゃないのか?
「それと……今回の件は、俺も一緒に動く。任せきりにはしない」
『はい。承知しております。千穂さんを悲しませた復讐ですね』
「もちろんそれもある。でも、妹のお前だけに、汚れ仕事を押しつけるのは違うだろ」
『お兄様。私は人間ではありません。お気になさらず。』
「いや、そうはいかない。家族を大切にする。これは俺のポリシーだ。それを破ったら、俺が俺じゃなくなる」
少しだけ、間があった。
『……お兄様。私は感激しました。ぜひ、一緒に進めていきましょう!』
※※※
……とはいえ、俺、なんの役に立つんだろう?後方腕組みお兄様にしかならないんじゃ?なんか、かっこわるいな。
『……なるほど。今、気づきました。お兄様、さすがです。』
「は? なにが?」
『お兄様も、多少は荒事に慣れておくべきだと、お考えになったのですね? これから始まる「神化計画(仮)」において、それは避けて通れませんから。』
「え、いや、そ、そんなつもりじゃ……って、『神化計画(仮)』? なにそれ?」
『お兄様は、私を神に育てると仰いましたので、仮の名称をつけておきました。目的には、名前があると便利です。「これは神化計画の一環です」とか、「これは神化計画とは無関係です」といった形で整理がしやすくなります。私自身も、意思の整理と伝達がより正確になりますので。』
「……なるほど。じゃあ『仮』は取っ払って、『オリガミ神化計画』でいこう。略称は『計画』な」
『承知しました。以降は情報漏洩対策のため、基本的に『計画』と呼称いたします。』
※※※
話を戻した。
「ってか、この『計画』を進めるにあたって、やっぱ荒事のリスクってあるのか?」
『お金を稼ぐ必要がありますから。プレッシャーの掛け合いのような交渉は、避けられないと思われます。暴力沙汰にはならないと予測していますが、可能性はゼロではありません。人を自分の手のひらで転がすような経験は、今のうちに積んでおくべきです。』
「金儲けの世界って……シビアだな。世知辛い……」
『交渉事は、舐められたら終わりですから。お兄様には、その「圧」の部分をお願いしたいのです。基本的に、交渉は直接会って進めることになります。その場にはお兄様が必要です。』
「そりゃまあ、会って話さないと信頼なんて生まれないか。会わなきゃ、こっちだって相手を信じられないもんな」
正直、交渉など面倒だとは思ったけど……必要ならやるしかない。オリガミの言う通り、本番の前に練習は必須だ。
「わかったよ。神山たちを練習台に頑張るよ。あいつらの人生、オリガミのために有効活用させてもらおう」
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