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ざまぁ対象、丸裸

翌日からまた登校しはじめた。


学校をさぼりすぎると、じいちゃんたちから一人暮らしのお許しが出なくなる。


じいちゃんたちは口うるさいが、俺を信じて自由をくれている。その信頼まで裏切るわけにはいかない。一人でもきちんと生活できていることを、ちゃんとアピールしておかなきゃならない。


朝は、千穂が迎えに来てくれた。


「千穂、昨日はありがとうな。来てくれなかったら、俺、干からびてたかもしれん」


「しょうちゃん、ほんとに廊下で転がってたんだもん。びっくりしたよ!」


「なんか、疲労が積み重なっててさ。そこにやりたい事の緊急対応が重なって、ダウンしてたんだ。あの雑炊、マジで身にしみたよ」


「あんなの、お詫びにもならないよ。しょうちゃんが倒れたのだって……私のせいみたいなもんだし」


「……気にするなとは言えないけど、俺は千穂には笑っててほしい」


「……しょうちゃん、やっぱりやさしいね」


千穂は目に涙をためて、ぽつりと答えた。


「……そうだ、ひとつ頼みがある。神山だったよな?あいつの情報、全部送ってくれない?」


「え?いいけど……なんで?」


「孫氏いわく『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』ってさ。千穂を泣かせて、俺たちの仲をメチャクチャにした奴だろ?そのくらいは調べとかないと、気がすまないんだよ」


「……わかった。学校着いたら、まとめて送る。でも……しょうちゃん、無茶は絶対だめだからね。ほんとにお願い」


「大丈夫。千穂が悲しむようなことは、俺はしないよ」


※※※


教室に入った瞬間、クラスメイトたちの冷たい視線が俺に降り注いだ。


俺は、それを無視して自分の席につく。


机には新たな落書き、中はびしょ濡れ。嫌がらせはまだ続いているようだ。


その時だった。オリガミの声がイヤホン越しに響いてきた。


『机の状態、撮影記録しました。マルチスペクトルセンサにより、表面に残された指紋をすべて検出しました』


今の俺は、父さんが使っていたウェアラブル装備を身につけている。制服の内側に骨伝導イヤホンとカメラを仕込み、外からは何も見えない。


鞄の脇には高感度カメラ、マイク、マルチスペクトルセンサも仕込まれていて、現地での調査には困らない。いつでもオリガミと会話できるし、オリガミも常に俺の周囲をモニタリングしてくれている。


もちろんオリガミ本体は研究室にある。だから、外出中はモバイル通信経由で常時接続だ。使い放題プラン万歳。


『机の中のものを、すべて机の上に広げてください。状態を記録します』


オリガミの指示に従って、俺は濡れた教科書やノートを一つずつ机の上に並べていく。破かれ、落書きされたページの数々を、オリガミはすべて記録していた。


『教科書とノートに残る指紋を記録しました。落書きの筆跡も収集完了』


『高感度マイクにより、教室内の音声を解析中。現在、クラスメイトのおよそ半数の声紋を取得しました。名前との関連付けも完了。本日中には全員分が揃う見込みです』


※※※


『お兄様、クラスメイトを少し刺激してみてください』


……気は進まないが、やったほうがいいだろう。


「まだ、こんなことやってるのか」


俺は、周囲に聞こえるように、わざとらしく大きめの声で言ってみた。教室の空気がピリッと張り詰めた気がする。


『注視先を検出しました。現在、5人がお兄様を注視しています。各人の瞳孔径を測定しました。マルチスペクトルセンサにて、血流集中の状態を取得しました。』


『怒りの反応、瞳孔径と血流から判定。該当者は山田太郎、佐藤次郎の2名。ほぼ確定です。』


……そんなことも分かるのか。ちょっと同情しちまうレベルだな。


『次に、カバンを持ってクラス内を歩き回ってください』


言われた通り、俺はカバンを手に教室内を一周するように歩いた。数人のクラスメイトがギョッとした目でこちらを見た。ひと通り歩き終えたところで、オリガミの声が再び届く。


『クラスメイト全員の指紋・声紋の取得を完了しました。お兄様の机にイタズラした犯人も特定しました。やはり、山田太郎と佐藤次郎ですね。』


数分でこれか……オリガミが敵じゃなくて本当に良かった。


※※※


『なお、教室に入った時より、クラスメイト全員の会話を録音しています。リアルタイム音声解析により、各人の発言を個別に記録しております。』


『クラスメイトについて、欲しい情報があればお知らせください。現在、保持しているデータを随時提供可能です。』


……個人情報とか、そういうレベルの話じゃないな。


「大丈夫?それ、盗撮とか盗聴とかで訴えられたりしない?」


俺は、周囲に聞こえないように、そっと問いかけた。


『ご安心ください。これは継続的いやがらせに対する自己防衛の記録措置です。』


『加えて、たとえ私を鹵獲ろかくされても、現行の技術では記憶の読み出しは不可能です。人間の脳から過去の記憶を取り出すようなものですから。』


……ほっとした。本当に、オリガミが味方で良かったと思う。


※※※


気を取り直して椅子に戻り、深く息を吸い……ゆっくりと吐き出す。


ちょうどそのとき、千穂から大量のメッセージと、数枚の写真、そして俺の痴漢冤罪の場面と思われる動画が届いた。神山の情報だ。


「オリガミ、最優先で解析頼む」


『データを受信しました。……ああ、やはりそうですね。この動画は意図的に、冤罪が分かる直前で切り取られています。オリジナルでは、冤罪部分もはっきり映っていたはずです。』


『タイムラインを比較したところ、ところどころ編集されています。女の顔が映るシーンがごっそり削られています。おそらく、撮影者の仲間だったのでしょう。マッチポンプですね。』


『瞳や窓への映り込みを解析中……完了しました。お兄様を痴漢扱いした女は、この人物です。』


スマホが震えた。画面を見ると、オリガミから一枚の写真が届いていた。一人の女の顔が、そこに写っている。


ガタッ!


「こいつだ!」


思わず大声を上げて、勢いよく席を立ってしまった。教室の空気が一瞬止まり、視線が一瞬こちらに集まる。


「ああ、ごめんごめん」


慌てて謝った。どうせ無視されてるんだから、ここで無駄に嫌なやつになる必要もない。迷惑かけたなら、ちゃんと謝っておく。


骨伝導イヤホン越しに、オリガミがさらりと告げる。


『ちなみに、カメラ外にいた人物もすべて解析済みです。音声データとの照合も完了。置換冤罪女についての情報収集を開始します――顔写真より検索……発見しました。名前、所属、SNSアカウント等を特定しました。対象、完全に丸裸です。』


『お兄様。ここで興奮されても困りますので、詳細は後ほどお伝えしますね。』


……もう、全部オリガミ一人でいいんじゃないかな。


※※※


……いや、コイツらは千穂を汚した。俺の大切な人に手を出した。関わった人間全員、俺が潰す。潰さなきゃ気がすまない。


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