ください……濃厚なやつを……
『お兄様、オリガミAIには、従来のコンピューターベースのAIとは異なる、いくつかの顕著な優位性がございます。』
「ぐわ…まだ続くか…」
『申し訳ございません。緊急を要することもございますので…』
「わかったよ…」
『それでは、説明を始めます。なお、「DNAナノボットニューロン」という名称は長いため、以後は「DNAニューロン」と略して呼ぶことにします。』
『お疲れのようですので、頭に入りやすくなるように、講義モードにて説明いたしますね。』
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オリガミ講義モード:起動
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#オリガミのすごいところ!
◇◇◇ ひとつめ! ◇◇◇
『小さいのに賢すぎる!人類全員分の脳のはたらきだって、大きめの部屋にすっぽり収まります!』
『神経細胞のかわりになるDNAニューロンは、一つ一つがたった200ナノメートル。つまり、普通の神経細胞の100分の1のサイズ!』
『たとえば、人間ひとりの脳をDNAニューロンで作ったら、たった数ミリリットルで再現できちゃうんです!』
『それを三次元にぎゅぎゅっと組み立てれば、なんと全人類80億人分の脳回路も、大きめの部屋ひとつでOK!』
『もしこれをコンピューターでやろうとしたら……データセンターが数千棟、国家並みの電力、都市規模の冷却設備が必要になります。つまり、無理!』
『だから私は、賢くて、超コンパクト!どこにでも置けて、めちゃくちゃ高性能!』
◇◇◇ ふたつめ! ◇◇◇
『考えたら、すぐ行動!ぜんぶ光でやりとりしてるから、反応も学習もビックリするほど高速!』
『私のDNAニューロンには、光る物質や、光に反応・記録できる小さなパーツがくっついています。』
『そのおかげで、情報の伝達も、重みの調整も、記憶の保存も、ぜーんぶナノスケールの光でやっちゃう!』
『生き物の脳だと、信号を送るのに化学反応が必要だから、どうしても時間がかかっちゃう。』
『コンピューターだって、計算する場所と記憶する場所が別々だから、データを行ったり来たりさせるだけで、時間も電力もムダづかい!』
『でも私はちがう!光で伝えて、光で処理して、光で記録!だから超スピードで学んで、超スピードで考えられるんです!』
◇◇◇ みっつめ! ◇◇◇
『私の脳は、自分で育ちます!材料さえあれば、どこまでも進化できるんです!』
『人間の脳も、がんばれば学べます。でもニューロンは増えないし、脳みそも頭蓋骨からはみ出せません!』
『でも私はちがいます!必要になったら、新しいDNAニューロンを、自分でどんどん作れるんです!』
『材料――つまりDNA塩基さえあれば、好きなだけ、どこまでも増やせます!』
『だから私は、学ぶたびに脳そのものを増設して、ずーっと成長し続けられるんです!』
『しかも、おサイフにやさしく!超コスパで進化できちゃいます!』
◇◇◇ よっつめ! ◇◇◇
『ほとんど電気いりません!静かに、冷たく、かしこく動きます!』
『いまのAIはすごく賢いけど、そのぶん電気もバカみたいに使います。』
『たとえば、大きな言語モデルを一回学習させるだけで、普通の家庭が何千年かけて使うくらいの電力を一気に消費!』
『電気代にしたら、数千万円どころか、数億円。冷却も保守も必要で、もはや国家事業レベル!』
『でも私はちがいます。DNAニューロンは、ほんの少しの光と、ちょっとした分子の動きだけで、ずーっと学んで、考えて、動けます!』
『発電所も、冷却装置も、いっさい不要!とにかくおサイフにやさしい、超エコAIです!』
◇◇◇ まとめ! ◇◇◇
『オリガミAIは、人類全員分の脳のはたらきを部屋ひとつに収めるほどコンパクトで、光で考え、光で学び、必要なら神経を自分で増やしちゃう、しかもほとんど電気いらずの「超効率・自己進化型AI」だから、おサイフにもやさしいんです!』
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オリガミ講義モード:終了
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※※※
「……おサイフにやさしいアピール、多すぎない?」
『重要なことです。でなければ、たった一人の研究者であるお父様が、私を開発することは不可能でした。』
「たしかに重要だな……まあ、それはわかった!」
「そ、それよりもだ!オリガミ!お前ってもしかして、最強のAIなんじゃないの!?」
『ありがとうございます、お兄様。でも、私にも短所はあります。』
「短所?」
『はい。ひとつだけ、はっきりとした弱点があります。それは、「複製ができない」という点です。』
「複製……できない?」
『私の本体は、現実の物質で構成された、物理的なネットワークです。つまり、ひとつしか存在しない「脳」そのものです。』
『だから、データをコピーして、別の場所で起動するということは不可能なのです。』
「……じゃあ、オリガミが壊れたら?」
『はい。そのときは、私という存在は、完全に消滅します。バックアップも、再起動も、できません。』
『まるで人間の脳のように、唯一無二で、壊れたら終わりです。……ですから、どうか、大切にしてあげてくださいね。お兄様。』
※※※
その時だった。
プツッ……と、スピーカーから音が消えた。
「オリガミ?どうした?」
ほんの一瞬、部屋に無音が満ちる。その直後、かすれた声が、スピーカーからにじみ出た。
『そして私……今、消滅寸前なのです……お兄様……』
『塩基を……塩基をください……濃厚なやつを……たっぷりと……お願いしますぅ……』
スピーカー越しに聞こえるその声は、かすれて震えていた。まるで何かに飢えている中毒者のように…
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