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千穂の限界。ネムの限界。

「ん……」


次に目を覚ましたとき、窓の外はすっかり夕焼け色に染まっていた。


隣を見ると、千穂が俺の顔をじっと見つめて、にこにこと微笑んでいる。その表情があまりにも可愛くて、思わずドキッとする。


「しょうちゃん……起きた?」


「ああ、今起きたよ。千穂、体は大丈夫か?昨日はちょっと無理させちゃったかもしれないけど……」


俺が尋ねると、千穂は顔を真っ赤にして、少し恥ずかしそうに答えた。


「う、うん……大丈夫。とてもよかったけど……ちょっと疲れたかな……しょうちゃん、すごかったから……」


「千穂が可愛いすぎるから、我慢できなかったんだ」


彼女の白い肌、肩から腰、そしてお尻にかけての美しいラインが目に焼き付く。芸術品のようなその姿に、また情欲が湧きだしてくる。


……もう一泊したい。千穂がよければ、もっと一緒にいたい。


「なあ、千穂。もう一泊していかないか?もっと千穂とイチャイチャしたいな?」


「え?いいの?でも、仕事は大丈夫?」


「うん、多分問題ないはず!」


オリガミいいよね?俺は心の中でオリガミに語りかける。


すると、イヤホン越しにオリガミの声が響いた。


『緊急の予定は入っていません。先方には私からキャンセルの連絡を入れておきます。リモートで対応できるものは私が処理しますので、ごゆっくりお過ごしください。』


……やっぱり心の中を読まれてる!もうハンドサインいらないじゃん!


俺はすぐにコンシェルジュへ電話し、延泊をお願いした。


※※※


お腹が空いてきたので、延泊の連絡を済ませたついでにルームサービスもお願いした。こういう時、コンシェルジュサービスはありがたい。高級ホテルって最高だ。


千穂はバスローブ姿でソファに腰掛け、窓の外の夕焼けをうっとりと眺めている。時折、左手薬指のルビーの婚約指輪を見つめては、幸せそうに微笑んでいる。その姿があまりにも可愛くて、思わず見惚れてしまった。


そんな千穂に、俺はそっと声をかけた。


「その指輪、気に入ってくれた?」


「うん!とてもキレイ。これ、ルビーだよね?私の誕生石、覚えててくれたんだ。……これ、かなり高かったんじゃない?」


3カラットのSランクルビーを使ったリングだ。俺にとっては大した出費じゃないが、普通の学生なら到底手が届かないレベルのものだろう。でも、千穂に余計な負担をかけたくない。値段のことはあえて伏せておいた。


「千穂が喜んでくれるなら、どんなものだって用意するよ。それが俺の幸せだからさ」


俺の言葉に、千穂は目を潤ませる。


「しょうちゃん……」


自然と二人の距離が近づき、俺たちはそっとキスを交わした。お互いを抱きしめ合い、幸せな時間が静かに流れていく。


そして、ルームサービスが届く頃には――


「ふぁ……あへぇ……」


千穂はまたソファの上で脱力し、幸せそうに横たわっていた。


※※※


俺はルームサービスのカートを部屋の前に置いてもらい、コンシェルジュが完全に立ち去ったのを確認してから、カートを部屋の中へ運び入れた。


今だけは、この空間に他人を入れたくなかった。千穂と二人きりの、特別な時間を壊されたくなかったのだ。


ソファにぐったりと横たわる千穂の体に、そっとタオルケットをかけてやる。彼女が落ち着くまで、静かに隣で見守る。


しばらくして、千穂がようやく息を整え、ぽつりと呟いた。


「しょ、しょうちゃん……すごすぎるよ……」


「ごめんな、千穂。千穂が好きすぎて、暴走しちゃうんだよ……」


「そ、そうなの?……えへへ……」


千穂が照れくさそうに笑う。


「ルームサービスも来たし、シャワー浴びてから食事にしよう。その前に水分補給しようか。このままだと、脱水しちゃいそうだし」


「そ、そうだね……」


俺はミネラルウォーターを手渡すと、千穂はそれをゆっくりと口に含んだ。そして、まだ少しふらつきながらも、千穂はシャワールームへと歩いていった。……大丈夫かな。シャワールームで転んだりしないといいけど。ちょっと心配だ。


※※※


千穂がシャワーを浴びている間、俺はルームサービスで届いた料理を丁寧にテーブルへ並べていった。


さすが高級ホテル、どの皿も彩り鮮やかで、まるでレストランのコース料理だ。これなら、部屋にこもって千穂と二人きりで贅沢な時間を過ごせる。なんて幸せな堕落だろう。


料理の準備がちょうど終わった頃、千穂がバスローブ姿でシャワールームから戻ってきた。テーブルいっぱいに並んだ料理を見て、目を輝かせる。


「わあ、しょうちゃん、すごい!どれも美味しそうだね!これ、しょうちゃんが並べてくれたの?」


「うん。ルームサービスって、想像以上に豪華なんだな。正直、もっと簡単なものが来ると思ってたよ。ネットカフェのカレーみたいな」


「ふふっ、私も。そう思ってた。なんだか、全然違うね」


俺は椅子を引いて千穂に座るよう促す。


「さあ、千穂、座って。飲み物は何がいい?コーラ、オレンジジュース、烏龍茶、それともお水?」


「えっと……オレンジジュース、お願いしてもいい?」


「もちろん」


千穂のグラスにオレンジジュースを注ぎ、俺は自分のグラスにコーラを注ぐ。


「しょうちゃん、ありがとう。えへへ……なんか私、お嬢様みたい……」


いやいや、俺にとってはお嬢様というよりお姫様だよ。そんなことを心の中で呟きながら、席につく。


「じゃあ、乾杯しようか。」


「うん、乾杯!」


グラスが軽やかに触れ合う音が響いた。


※※※


ルームサービスの料理はどれもとても美味しかった。もちろん千穂の料理にはかなわないが……。これ、本当に部屋から出る必要ないな。このままずっと部屋にこもっていたら、ダメ人間になりそうだ。


千穂も、目を輝かせて料理を頬張っている。


「しょうちゃん、これとても美味しいよ!」


千穂が幸せそうに笑いながら食べている姿を見ると、俺まで嬉しくなってくる。その笑顔、癒されるわあ。


※※※


食事が終わった後は、使い終わったお皿をカートに戻して、廊下に出しておく。コンシェルジュに連絡すれば、すぐに片付けに来てくれるらしい。


さて、せっかくの時間だし、また千穂とゆっくり過ごそう。


二人でソファに並んで座り、肩を寄せ合いながら、たくさん話をした。


これまでのこと、これからのこと――いろんな思いを言葉にして伝え合った。オリガミのこと以外は、ほとんど全部話せた気がする。


やはり、オリガミの話だけはできない。千穂は……人が良すぎるのだ。カマをかけられたら、すぐに顔にでてしまうだろう。柚希さんなんかが見れば、顔が喋っているように見えるのではなかろうか。


※※※


夜景を眺めながら、自然と会話が途切れ、静かな時間が流れる。ふと気づけば、俺たちはまたそっと唇を重ねていた。


「しょうちゃん……大好き……」


そんな千穂が可愛くてしかたなくなり、お姫様抱っこで彼女を抱える。


「きゃっ……!」と驚きつつも嬉しそうな千穂。


そのまま、俺は千穂をベッドルームへと運ぶ。


「え、また……?またするの?」


「うん。する。千穂が可愛くて、我慢できない」


ベッドの上にそっと千穂を降ろし、優しく彼女を抱きしめる。そして、俺は再び千穂への欲に身を任せた。


※※※


気がつけば、窓の外はすでに朝日で明るくなっていた。


「うふぅ……あへぇ……」


千穂はベッドの上で、幸せそうに力が抜けた声を漏らしながら横たわっている。


「本当に可愛いな……」


思わずそんな独り言をつぶやき、そっと千穂の髪を撫でる。ふと視線を落とすと、彼女の白く滑らかな腰からお尻にかけての美しいラインが目に入る。


おれは思わず、また千穂に襲いかかっていた。


※※※


「も、もう無理……た、助けて……」


千穂が腕の中でか細い声を漏らし、俺は我に返った。


しまった。欲に溺れすぎた。夢中になりすぎてしまった。


「ご、ごめん千穂!やりすぎた……!」


「しょ、しょうちゃん……私……もう駄目……休ませて……」


「わかった、もうやめる!何か欲しいものある?水、持ってこようか?」


「うん、水……お願いします……」


俺は素っ裸のままベッドルームを飛び出し、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。すぐに戻って、キャップを開けて千穂に手渡した。


千穂はゆっくりとペットボトルを口に運び、ごくごくと水を飲む。


……ゴクッ、ゴクッ。


千穂が俺が渡した水を飲んでいる……その様子にまたムラムラっとくるが、さすがにもう駄目だ。おれは自分の情動を抑え込んだ。


「ごめんな、千穂。あとはゆっくり休んで。千穂と一緒にいると、また理性が飛びそうになるから、俺はリビングの方に移動してるよ」


「うん、しょうちゃん、ごめんね……私も体力つけなきゃ、だめだよね……」


「いや!俺がケダモノなだけだから!千穂は全然悪くないから!じゃあ、ゆっくり休んでね!」


そう言うと、俺はベッドルームから飛び出して、リビングルームに移動した。大切なものをブラブラさせながら全裸で。


※※※


一人でリビングに移動すると、すかさずオリガミの声がイヤホンから響いてきた。


『お兄様、まさにケダモノの本領発揮でしたね。お見事です。』


「うっ……やっぱりそう思う?ちょっとやりすぎたかな……千穂に嫌われてないといいけど」


このホテルは防音がしっかりしているから、リビングでオリガミと話してもベッドルームの千穂には聞こえない。念のため確認済みだ。


『千穂さんなら、大丈夫ですよ。むしろお兄様への好感度はあがってると思いますよ?セックスは女性の好感度を上げるために、一番有効な手法ですからね』


「そういうのを“手法”とか言うのはやめてくれよ……」


『そうですね……お兄様、ごめんなさい。ところで、千穂さんが目覚めたら、できるだけ早くご自宅に戻られることをおすすめします。』


「え?どうして?」


『ネムさんが、たいそうふさぎこんでおられます。』


「ネム!?しまった、すっかり忘れてた!」


そうだよ。ネムへの連絡を忘れてた。もう一人のお嫁さんなのに、俺はなんてひどいやつなんだ!


「ね、ネムは大丈夫なのか!?あいつに何かあったりしたのか!?」


『いえ、特に何かがあったわけではありませんが……とにかく、直接ご自身の目で確かめられた方がよろしいかと。』


「……わかった。ありがとう、オリガミ」


オリガミがそう言うなら、ネムは無事なのだろう。


でも、俺は反省しなければいけない。少し浮かれすぎていたようだ。


※※※


数時間後、千穂はすっかり元気を取り戻し、ベッドルームから明るい表情で出てきた。


「千穂……ゴメンな?俺、おかしくなってたみたいだ」


「だ、大丈夫だよ?求められるのは嬉しいし……でも、あんなに激しいのは……たまにでお願いね……」


千穂は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにうつむく。その表情がたまらない。


俺は、またケダモノにもどらないように、思考を切り替える。


「さあ、身だしなみを整えたら、そろそろ帰ろうか?ここにいると、俺、ダメになっちゃいそうだし」


「うん、そうだね!でも、しょうちゃんはちょっとくらいダメになってもいいと思うよ?私がちゃんとお世話してあげるから!」


太陽のような眩しい笑顔でそう言う千穂。その笑顔にまた理性を失いかける。


だからやめろって!俺をケダモノに戻そうとしないでくれ……


※※※


その後、コンシェルジュに丁寧にお礼を伝え、ホテルをチェックアウトして車で自宅へと向かった。


「このまま、私もしょうちゃんの家に行っていい?」


「え?大丈夫?疲れてない?」


「大丈夫!それに、しょうちゃんとのこと、ネムちゃんにもちゃんとお礼言いたいし」


確かに、今回の件ではネムにたくさん助けてもらった。俺も何かお返しをしないとな。


「しょうちゃん、ネムちゃんには婚約指輪、もう渡した?」


「いや、まだなんだ。買ってはあるんだけど……」


「じゃあ、早く渡してあげて!きっととても喜ぶと思うよ!」


「ああ、そうだな……」


ネムに指輪を渡すタイミング……どうしようか。あいつ、あんまりムードとか気にしなさそうだけど……少し考えてみよう。


そんな話をしながら、車は無事に自宅へと到着した。


※※※


俺は車を駐車場に停め、千穂と並んで自宅のドアの前に立った。


オリガミの言葉が頭をよぎる。ネムがふさぎこんでいると。何があったかわからないが、俺は彼女を元気づけたい。彼女からの恩に報いるためにも!


深呼吸して、ドアを開けると同時に声を張り上げた。


「ただいま!」


しかし、家の中は静まり返っている。ネムの返事がない。


「ネムちゃん、寝ちゃってるのかな?」


「いや、この時間なら起きてるはずなんだけど……」


胸騒ぎを覚えながら、俺はリビングのドアノブに手をかけ、そっと開けて中を覗いた。


そこで目にしたのは――絨毯の上にうつ伏せで倒れているネムの姿だった。


※※※


「ネム!」


俺は思わず叫びながら、絨毯の上にぐったりとうつ伏せになっているネムの元へ駆け寄った。心臓がバクバクと高鳴る。まさか、何かあったんじゃ……?そんな不安が頭をよぎる。


「ネム、大丈夫か!?」


俺はそっとネムの肩に手をかけ、優しく抱き起こした。彼女の体は小さく震えていて、顔はうつむいたまま。呼吸は……ある。脈もちゃんとある。ほっと胸を撫で下ろす。だが、よく見るとネムの頬には涙の跡が残っていた。


「ネム……泣いてるのか?」


俺がそう声をかけると、ネムは顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見つめてきた。その目は、普段のふてぶてしいネムとはまるで別人のように弱々しく、どこか寂しげだった。


「留守にするの、一日だけだと思ってたのに……」


ネムの声はかすれていて、今にも泣き出しそうだ。俺は驚いて、さらにネムの顔を覗き込む。


「留守にするの、一日だけだと思ってたのに!一日だけだと思ってたのに!二日はないだろう!ひどいぞ!うっうっ……」


俺はどうしていいかわからず、ただネムの背中を優しくさすった。こんなネムを見るのは初めてだ。あのネムが、こんなに泣くなんて……。


「ご、ごめん!すまない、ネム!俺が悪かった!二日も家を空けてしまって、ごめん!」


俺は慌てて謝った。ネムがこんなに寂しがるなんて思ってもみなかった。俺のせいで、ネムをこんなに悲しませてしまったのか?なんで、ここまで悲しんでる!?


千穂もすぐにネムのそばに駆け寄り、慌てて声をかける。


「ネムちゃん、ごめんね!二日もしょうちゃんを独り占めしちゃってごめん!今度はネムちゃんの番だから、いっぱいしょうちゃんと一緒にいてね!」


千穂の言葉に、ネムは一瞬だけ顔を上げた。その目にはまだ涙が浮かんでいる。


え?もしかして、ネムは俺に会えなかったことがそんなに辛かったのか?二日会えなかっただけで、こんなに泣いてくれるなんて……。俺って、そんなに愛されてるのか?それなら……正直、ちょっと嬉しいぞ?


だが、ネムは千穂の言葉を聞くと、急にむっとしたように顔をしかめ、涙声のまま声を張り上げた。


「ちがうぞ!ワタシが悲しいのは、そんな理由じゃない!」


え?違うのか?俺と千穂は顔を見合わせる。なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ……。この感じ……断言する。多分これから、俺はネムから悲しい発言を聞くことになるだろう。


ネムは涙を拭いながら、さらに大きな声で叫んだ。


「ワタシは!千穂ちゃんのご飯が!二日も食べられなかったことが悲しいんだ!」


……はい、悲しい発言、ありがとうございました。やっぱりそうだよなあ。ネムって、そういう奴だよなー。

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