正太郎の決断
まどろみの中、意識がゆっくりと浮上していく。気がつくと、俺の顔はネムの柔らかく豊かな胸に包まれていた。
……なんて幸せなんだろう。まるで全ての悩みや疲れが溶けていくようだ。ああ、癒やされる……最高……
最近ずっと心に重くのしかかっていたものが、少しずつ軽くなっていく気がする。俺に本当に必要だったのは、誰かに素直に甘えることだったのかもしれない。
このままずっと、ネムの温もりに包まれていたい――そう思いながら、俺はそっと彼女の細い体を抱きしめ、再び心地よい眠りへと身を委ねた。
※※※
次に目を覚ましたとき、ネムの姿はもうなかった。
どうやら彼女は俺より早く起きて、部屋を出ていったらしい。
……なんだか、急に寂しさがこみ上げてきた。ネムぅ……。
『お兄様、お目覚めですか?』
はっ!幼児退行していた!気を取り直して、オリガミに返事をする。
「あ、オリガミか。今起きたよ。……もしかして、昨夜のこと見てた?」
『いつも自慰行為を拝見させていただいておりますし、いまさらですよ。』
そうだった……それなら、本当にいまさらだな。
「ネムは今どこにいる?」
『すでに研究室で作業を始めています。お呼びしましょうか?』
「いや、大丈夫。ネムらしいな、切り替えが早い。」
少し気になっていたことを、オリガミに尋ねてみる。
「なあ、オリガミ。今回の件、お前が仕組んだのか?」
『……こうなることを期待していたのは事実です。ただ、私がしたのは、お兄様がスーツ姿の女性たちに誘惑されて限界が近いことを、ネムさんに伝えただけですよ。』
「誘惑はウハウハだったけど、我慢しなきゃいけないのは正直きつかったな。でも、今なら気にならないような気がする。」
『お兄様はご自身の状況を甘く見ていました。あのままでは、いつ間違いが起きてもおかしくなかったのです。お金目当ての女性ならまだしも、どこかの組織のハニートラップ要員の可能性もありますから。』
「……おっしゃる通りです。反省します。」
『ネムさんには心から感謝しなきゃいけませんね。お兄様、これからネムさんの所に行って、彼女にお礼をいうべきです。』
「本当に、オリガミの言う通りだな……」
『ネムさんは研究室にいますよ。』
「わかった!今すぐ行ってくる!」
俺は自室を飛び出し、ネムのいる研究室へと向かった。
※※※
俺は廊下を歩き、元倉庫の扉を開けて隠し階段を降りる。目の前には研究室のドアがある。
一度深呼吸して、ガラガラと研究室のドアを引く。
「ネムー、いるか?」
俺の声に反応して、ネムがこちらに声をかけてきた。彼女は可愛らしいお尻をこちらに向けたまま、床下の配線が張り巡らされている空間に上半身を突っ込んで、何やらゴソゴソと作業中だ。
「おお、正太郎か。ちょっと待ってくれ。今、床下のケーブルの配線を記録してるところなんだ」
ネムのお尻がプリプリと揺れている。思わず手を伸ばしたくなる衝動を抑えつつ、俺は静かに作業が終わるのを待った。
やがてネムは床下から上半身を引き抜き、こちらを振り返る。顔には油汚れがついている。まるで漫画みたいなやつだ。
「正太郎、待たせたな。おっ、随分と顔色が良くなってるじゃないか?スッキリしたか?」
「ああ、最高だった。本当にありがとう」
「そっか、それは良かったな」
ネムはそう言って、俺に向かってニヤッと微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥から愛しさが溢れ出す。俺は思わず、彼女を引き寄せて唇を重ねた。
「んんっ……!んんんっ……!」
俺たちのキスは、しばらくの間、静かに続いた。
※※※
唇を離し、少し息を整えると、ネムがむくれた顔でこちらを見つめてきた。
「び、びっくりしたじゃないか。急にはやめろよぉ!」
……ん?昨日、強引にキスしてきたのはネムの方だった気がするけど。まあ、可愛いから許す。
「ごめん、ネム。気持ちが抑えきれなかった。」
「気持ちが抑えきれなかったって……もう、しょうがないな。正太郎は本当にワタシのこと好きなんだから。」
「うん……大好きだけじゃ足りないくらいだ。昨日、改めてそう思った。」
「え?そうか足りないか?オマエ、私の事好きすぎだろ!」
俺はそっとネムの瞳を覗き込む。彼女の頬はほんのり赤く染まり、どこか照れくさそうに視線を合わせてくる。
俺は心の底から、想いを込めて伝えた。
「ネム。俺は、ネムのことを愛してる。心の底から、本気で愛してるよ。」
※※※
俺の言葉に、ネムは目を大きく見開き、呆然としたままその言葉を口の中で繰り返した。
「あ、アイシテル……?」
ネムの肩が大きく跳ね、顔が一気に真っ赤になる。全身が小刻みに震え出す。どうやら「愛してる」って言葉が効いたようだ。
そして、例のごとくネムの発作が始まった。
「おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡き、聞こえてくるぅ……!おうじさまのぉ!力強い、愛情のきらめきィ……!」
ネムはとろけるような顔で少しよだれをたらして、天井を見あげる。今となってはこの姿も可愛くてしかたない。
俺は、ネムが正気に戻るまで静かに見守っていた。
※※※
ネムの顔色が戻り、呼吸も落ち着いたころ、彼女は俺に向かってニヤリと笑った。
「正太郎がワタシのこと、どうしようもなく大好きで、愛してくれるのはよーく分かったよ。ウヘヘヘ……」
その笑い方、なんだよ。
だが、すぐにネムは真剣な表情に切り替え、俺をじっと見つめて言った。
「昨日も言ったけど、今日は千穂ちゃんの番だ。彼女、まだ過去のことを引きずってる。自分に資格がないとか、そんなことまで言ってた」
「えっ、そんなことを……?」
「そう。だから、ちゃんと千穂ちゃんを言い訳ができないくらい正太郎のものにしてあげて。じゃないと、あの子、本当に身を引こうとしちゃうかもしれない」
「……!」
それは駄目だ。絶対に許せない。
「分かった。今日、千穂をレストランに誘って、そのままホテルで抱く。絶対に千穂を離さないから」
「うん、それでいい。ワタシのためにも頼むぞ。千穂ちゃんのご飯が食べられなくなったら、ワタシ泣くからな!」
ネムのいつもの調子に、俺も少しだけ肩の力が抜けた。ギクシャクするかと心配していたが、そんな心配は無用だったようだ。
「よし、じゃあ千穂のところに行ってくる!今日は帰らないからな!ネム、ありがとう!」
「おう!正太郎、しっかりやってこい!」
俺は勢いよく研究室を飛び出し、千穂のもとへと向かった。
※※※
正太郎が勢いよく研究室を出ていった。
……あいつはやると言ったらやるヤツだ。今夜、きっと千穂ちゃんをしっかり抱いて、彼女の心の傷も癒してくるだろう。
胸の奥が少しチクリと痛んだけど、それよりも二人が幸せになれるなら、それが一番だ。千穂ちゃんの不安やわだかまりが、今夜で全部消えてくれたらいい。ワタシ、できることは全部やったよな?
……あれ?そういえば、正太郎と千穂ちゃん、今日は帰らないって言ってたよな?
ってことは、今夜は千穂ちゃんの手料理が食べられない!?え、うそ、今日は絶品ご飯なし!?
「な、なんてことだ……」
ワタシはその場に崩れ落ちて、膝をついてしまったのだった。
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