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ワタシの事、好きすぎだろ(ネム視点)

研究所は、詳細設計もほぼ固まり、いよいよ着工が目前に迫っている。


ワタシは大人として、そして一人前の研究者として社会人として、建設会社の担当者ともスムーズにやりとりできている。さすがだなワタシ。


もちろん、うまく話がまとまらないときもある。畑が違うこともあり、ワタシの言うことが理解できないのかも知れない。


そんな時は、なぜか正太郎がふらりと現れて、建設会社との進捗について尋ねてくる。あいつはワタシが大好きだから、ワタシの事が心配なのだろう。仕方ないやつだ。


正太郎が来た後は、不思議なことに、次の打ち合わせまでには、担当者さんはワタシの要求を理解してくれている事が多い。ふふふ、さすがだなワタシ。


※※※


最近の正太郎は、テレビ局に行くことが多い。ドールハウスのVTuberたちをテレビに出演させるためだ。高齢者にもドールズを認知してもらうために、テレビ局を抑えたいらしい。そして、それもワタシをお嫁さんにするための『特待パートナー計画』の一環。まったく、正太郎はどこまでワタシのことが好きなんだろう。ムフフフ、仕方ないヤツだ。


ただ、時々、テレビ局にいる正太郎から電話がかかってくることがある。


スマホ越しに、正太郎の慌てた声が響く。


『ネム、ネム、助けて!やばい!何か話して!何でもいいから!』


そんな切羽詰まった様子で連絡が来ることが多い。きっとワタシの声を聞いて安心したいのだろう。ふふ、可愛いヤツだ。


そんな時は、ワタシは自分の大好きな研究とオリガミについて語ってあげるのだ。


「オリガミって本当にすごいんだぞ?この前さ、オリガミが『問い』について何か言ってたの覚えてるか?ワタシ、あれって人類がまだ発見していない新しい法則みたいなものを見つけたんじゃないかって思ってるんだ。正直、何かはまだ分からないけどさ。AIって、広い範囲のデータから相関を見つけ出すのが得意だろ?オリガミはその能力が群を抜いてすごいんだよ。他のAIとは比べものにならないくらい。もしかしたら、統一理論みたいなものを発見したのかもって思うんだよな!それに、もしかしたら並行世界の……」


気がつくと、熱く語り続けてしまっていることが多い。


ワタシの話が一段落すると、スマホ越しに正太郎の声が、さっきよりも落ち着いたトーンで返ってくる。


『ありがとう。ネムのおかげで落ち着いたよ。もう少しで帰るから』


そう言って、通話が切れる。


ワタシの声がたくさんに聞けて嬉しかったんだろうな。ムフフフ。


けれども、「ワタシの声が聞きたかった」というのは、実は半分当たっていて、半分は違っていたのだ。


※※※


オリガミは普段、特別な用事がない限り、ワタシに自分から話しかけてくることはほとんどない。


もちろん、こちらから話しかければきちんと返事をしてくれるし、質問にも的確に答えてくれる。


でも、何気ない雑談や、ただ楽しむためだけの会話は、ほとんど正太郎としかしていない。正直、少し寂しい。もっとワタシにも話しかけてほしいし、オリガミの知性の深さを感じさせてほしい。


そんなある日、研究室でオリガミタンクの水質のモニタリングしていると、珍しくオリガミの方から声をかけてきた。


『ネムさん、少しお話ししてもよろしいでしょうか。』


「ん?どうした、オリガミ?」


オリガミは、いつもより少し間を置いてから、静かに切り出した。


『最近、お兄様が少しお疲れのように思うのですが、お気づきでしたか?』


「え?正太郎が?全然そんな風には見えなかったけど……」


『外見からは分かりにくいですが、精神的に少し疲労が溜まっているようです。』


「そうなのか?正太郎に何かあったのか?」


『お兄様がテレビ局に行くとき、ネムさんに電話をかけてくることがありますよね?』


「あ、ああ。あるな。きっとワタシの声が聞きたいんだろう」


『そのとおりです。それも理由の一つですが、なぜネムさんの声を聞きたくなるのか、ご存知ですか?』


「え?……いや、そこまでは考えたことなかったな」


え?ワタシのかわいい声を聞きたいってだけじゃないのか?そう思っていたけど、オリガミの雰囲気的に違うらしい。


『実は……お兄様はテレビ局で働く女性たちから、毎回のように誘惑を受けているのです。』


「な、なんだって!」


ゆ、誘惑だと?正太郎が?


『皆さん、とても美しい方ばかりです。太ももに触れられたり、胸を押し付けられたりといったこともあります。お兄様も普通の男性ですから、そうした状況に流されそうになることもあるのです。そんな時、ネムさんや千穂さんに電話をかけて、気持ちを落ち着かせているのです。』


『タイトスカートにパンストにハイヒール。残念ながら、彼女たちの出で立ちは、お兄様の性癖に刺さってしまっています。お兄様は欲望に抗うのに必死なようです。』


「つまり、そういう時に、ワタシたちの声を聞いて、正気を保とうとしてるってことか?」


『はい、その通りです。』


そんなことが……


『ですが、我慢を続けることは精神的な負担になります。お兄様は、そのことで少し疲れてしまっているのです。』


「ワタシたちの為にって事だな……」


オリガミの意図が分かった。つまり、ワタシと千穂ちゃんで正太郎を癒やしてあげてほしい、ということだろう。


『はい。本来ならお兄様に無断でこうしたことをお伝えするのは気が引けるのですが、お兄様の幸福度が下がってきており、見過ごせなくなりました。』


「分かったよ、オリガミ。教えてくれてありがとう。後はこっちで何とかするよ」


オリガミは珍しく、少し沈んだ声で続けた。


『どうかお願いします。お兄様の力になれず、不甲斐ないです。』


「いや、ワタシたちが気づかなかったのも悪かったよ。婚約者として失格だったかも。でも、もう大丈夫。オリガミは安心しててくれ」


『……ありがとうございます。』


※※※


状況は完璧に把握した。これは、ワタシひとりで判断できるものではない。正妻である千穂ちゃんと話し合わないと駄目だろう。


正太郎、ワタシたちが全力で癒やしてあげるぞ。待ってろ!

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