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世論操作の手口

少し現状を整理してみよう。


先日、高校を無事卒業し、高校生でなくなった俺。今の俺の肩書は、株式会社ドールハウスの代表取締役だ。あとオープンにしてないが、株式会社よいこ警備保障の代表取締役でもある。


よいこ警備保障の方はオリガミにまかせっぱなしで、俺は名前だけ貸している状況だ。オフィスを借りているようだが、俺は行ったこともない。だって、元半グレとか、あまり会いたくないんだもん。顔怖いし。


俺の主計画は、オリガミを成長させて、理不尽をこの世から消せるような存在、いわば神にしようという『オリガミ神化計画』だ。だが、現在はスペースの問題でオリガミのニューラルネットワークを拡張させることが出来ない。こちらは、研究所の完成を待つしかないのだ。


しかし、ただ研究所の完成を待っている訳にはいかない。


オリガミは、その能力ゆえに世界のパワーバランスを一変させかねないAIであり、その存在が外部に漏れれば、各国や巨大組織が必死になって奪い合いを始めるだろう。最悪の場合、第三次世界大戦の引き金になる可能性すら否定できない。


この国の政府も守ってくれないだろう。オリガミが国家に接収され、最終的に大国へ引き渡されるリスクも十分に考えられる。


だからこそ、どんな敵が現れても、オリガミや自分自身、そして大切な人たちを守り抜く力を身につける必要があるのだ。


そしてその力というのは、オリガミの性能。いわば賢さだ。なんとかしてオリガミがさらに賢くなるように、彼女を成長させ続けなければならない。


だから、これから研究所が完成するまで、ニューラルネットワークの拡張以外のアプローチをとる。


それは、オリガミに実体験として色々なタイプの経験を積み重ねてもらうことだ。オリガミは学習データの品質が高ければ、高いほど優秀なAIとなっていく。通常では得られないような、貴重な経験であればあるほど、オリガミの成長につながるのである。


だから、俺がこれからすることは、オリガミと一緒にいろいろな事にチャレンジすることだ。俺もオリガミの管理者として彼女といっしょに成長出来たらと思う。


※※※


先日、俺に、千穂とネムという二人の婚約者ができた。


ふたりとも俺が守るだけの存在ではない。ネムはAI研究開発の天才だし、現在は、オリガミまわりの研究開発や新研究所の建設管理を担当してくれている。オリガミの成長には彼女の存在は欠かせない。


一方、千穂は、生活力が全くない俺とネムの身の回りの世話、特に絶品の手料理を振る舞ってくれる。俺だけでなくネムにとっても天使のような存在だ。


ふたりとも俺には、大切な女の子で婚約者だ。


しかしながら、この国では二人の妻は得られない。だから、新たに法律を作って、二人目の妻としてネムを合法的に迎えようというプロジェクトが『特待パートナー計画』だ。この法律は別に国や国民のために作ろうといるわけではない。自分達だけのために法律を作るのだ。


そして、この『特待パートナー計画』には、世論操作と政界進出という、高品質な学習をオリガミにさせてやるという目的もある。オリガミは人間社会の複雑な力学を理解し、大衆心理を操る技術を身につけることで、より強力なAIへと進化していくのだ。


さあ、計画を開始しよう。俺と婚約者である千穂とネム、そして妹のオリガミのために。


※※※


はじめに、オリガミがやろうとしていることを理解しないといけない。


オリガミはまだ四歳ぐらいだ。いくら優秀であっても、人間とは倫理観のズレなど、おかしい時がある。そういうときにストッパーになるのは俺の役目だ。


俺はオリガミに尋ねた。


「まずは、世論のコントロールからだったよな?」


『はい。世の中の人たちに、特待パートナー制度が必要だと思っていただきましょう。』


「ドールズを使うんだよな?どうやるんだ?」


『少子化問題の解決を建前に使って、世論の後押しを得られるようにします。』


「少子化問題?まあ、確かにこの国はやばいけど」


政府はそのヤバさを必死に誤魔化そうとしているが、具体的な数値が出てしまっている。このまま放置すれば、この国に未来はないだろう。


『はい。この国の少子化問題の行く末について、リアルにイメージがわくような配信をドールズたちにさせます。様々な分野のドールズにいろいろな切り口で、少子化問題の深刻さについて語らせます。』


『間口を広くするために可愛らしいキャラクターや動物を使った、アニメや映画などを作成してもいいでしょう。少子化問題を放置すると、あなた自身がひどい目にあいますよ?というメッセージを具体的に出していきます。』


「なるほど。少子化問題を放置する危険性を煽るんだな」


人はメリットよりも、そのデメリットを三倍高く評価するってやつか。たしかプロスペクト理論だっけ?そんな名前だった気がする。


『はい。これをドールズ五百人で1000万人の視聴者に対して仕掛けます。』


「すごいな……」


『これぐらいの規模があれば、ある程度の少子化への恐怖心を植え付けられるはずです。』


※※※


「少子化への恐怖心を煽るのは分かったよ。その先はどうするんだ?」


疑問を投げかけ、オリガミの返答を待つ。なんか、俺、オリガミに頼りっぱなしだ。


『はい。ドールズに特待パートナー制度をほのめかすようなアイデアを出させていきます。あくまでほのめかすだけです。できれば、リスナーが自分たちで思いついたような形にするのがベストです。』


「人は、自分で思いついた考えに固執するってやつか?」


頷きながら、YuuTubeで見た人間心理の動画の内容を思い出す。


『おっしゃるとおりです。自己生成効果という心理効果ですね。これをできるだけ多くの人に起こしてもらいます。』


なるほどなあ。よく考えられている。さすがオリガミだ。


「たとえばどんなほのめかしをするんだ?」


なんだか面白くなってきた。つい前のめりになってしまう。そんな俺の質問にオリガミが答える。


『優秀でお金がある人材であってもキャリアの中断などの理由から、結婚や出産を諦めざるを得ないケースが多いこと。』


さらに、オリガミは続ける。


『そして、既存の夫婦であっても、多くの子どもを産めないのは経済的不安によるものが大きいということ。』


『この二点でしょうか?これらを、アニメ化映像化し、お涙頂戴のストーリーに仕立て上げます。』


説明を聞きながら、俺は頭の中でその映像を想像した。確かに、心に訴えかけるものがありそうだ。


「お金や実績がある人物が子育てのサポートをして貰う対価として経済的な支援をする。支援を受けた夫婦は、経済的な不安が無くなり、より多くの子どもを持てるようになるという訳か……」


こう並べるとメリットしかないように感じる。選択肢としてあってもいいんじゃないかと思えてくる。


『はい。ドールズたちには、少子化を問題視するコメントをどんどん拾っていき、軽視するコメントを軽く扱わせます。』


『また、特待パートナー制度に似たアイデアが出てきた場合は、すぐに取り上げます。リスナーはドールたちのファンであることが多いため、その考えが浸透しやすくなると思われます。これもまた1000万人規模で行います。』


1000万人……やっぱり数は力だな……。だって、日本人口のほぼ十人に一人だぞ?すごくね?


※※※


オリガミが続けた。


『ただ……ドールハウスが使えるのがVTuberという性質上、パソコンやスマートフォンが苦手な高齢者層には、リーチしづらいのが問題です。彼らは数も投票率も高いので、政界への影響力を考えたら、必ず取り込まなければいけません』


「確かに、お年寄りにもアプローチしないとな」


お年寄りがVTuberを見るって言うのは、いまいち想像できない。


『そのため、お兄様にはテレビ局との交渉をお願いできますでしょうか?できるだけ多くのドールズをテレビに出演させたいのです。高齢者層にリーチするには、やはりテレビの影響力はまだ大きいですから、ここをしっかり活用します。今の日本のテレビ局は予算が厳しく、安く番組を作れるなら、VTuberであれ、積極的に起用してくるはずです。』


なるほど。理解した。俺は、テレビ局係ってことだな?


『他にも、お金を使いドールズのコマーシャルを出していきます。たくさんCMを打てば、TV局はドールハウスへのネガティブな報道もできなくなるはずです。』


スポンサーを失いたくないテレビ局は、スポンサーのネガティブな報道は避ける。当たり前のことだ。


俺はため息を一つついて言う。


「わかった。TV局と交渉してみる。あそこは誘惑がいっぱいだから、できれば行きたくないんだけどな……」


スーツのお姉さんが頭をよぎる。正直、たまらん。


そんな、俺の様子を見たのだろう。オリガミが提案してくる。


『もう、千穂さんかネムさんに、慰めてもらってもいいのでは?彼女たちとは、もう婚約してらっしゃるわけですし。』


オリガミの言う通り、それが出来たら問題解決だし、俺も幸せなんだけどなあ。


「……二人とも婚約者だから、どうお願いしたらいいのか分からないんだよ。どっちかとそういう事して、もうひとりに嫌われるかもと思ったら……怖くてできなくて……」


俺は小さくため息をつき、天井を仰ぎ見る。


『なるほど。お兄様はヘタレなのですね。』


「うるさいな、そうだよヘタレだよ。プロポーズでエネルギー使い尽くしちゃったんだよ」


少し疲れた声で答えた俺の言葉に数秒沈黙した後、オリガミがきっぱりと言った。


『……いえ、お兄様はヘタレじゃありません。前言撤回いたします。ヘタレだったら、あんなプロポーズはできません。お兄様は頑張っています。』


オリガミのその言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。自分のことをちゃんと理解してくれる存在がいるのはありがたい。


念のため、俺はオリガミにひとつお願いをしておくことにした。


「……テレビ局で俺が誘惑に負けそうだったら、千穂かネムに強制的に通話をつなげてくれ。前みたいにさ」


二人の婚約者を悲しませるわけにはいかない。間違いがあってはならない。


『委細、承知しました。ご安心下さい。』


オリガミが続けた。


『……お兄様、ちょっとお疲れなのかも知れませんね』


俺は苦笑いした。


疲れてるか……そうなのかもなあ……

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