キミのために法律を作るよ(キリッ)
俺はネムに静かに語りかけた。
「でもな、残念だけど、この国の法律じゃ二人の配偶者は持てないんだ」
「そ、そうだよな……」
ネムの肩がすとんと落ち、視線は足元へ滑った。そんな彼女に、俺は明るく声をかける。
「だからさ、俺は国の法律を変えようと思う」
「はっ?」
ネムは目を見開き、息を止めた。俺は間を置かずに続けた。
「俺は国の法律を変えるよ。オリガミと一緒に、必ず変えて見せる」
「ど、どうするんだ?流石に一夫多妻を法律にするのは無理だろ?」
「ああ。オリガミもそういってた」
「そうだよな……じゃあ……」
ネムは視線を落とし、考え込む。
「だから『特待パートナー制度』という法律を作ろうと思う」
俺の言葉に、ネムは再び顔を上げ、目を丸くして俺を見つめた。
「特待パートナー制度?」
「ああ『特待パートナー制度』だ。オリガミ、説明してやってくれないか?」
俺が頼むと、オリガミは、すぐに説明を始めた。
『はい、お兄様。ネムさん、「特待パートナー制度」というのは……』
※※※
オリガミの丁寧な説明が一通り終わった。
「なるほど……つまり、その制度が法律化できれば、実績や能力があって、千穂ちゃんの同意があれば、ワタシがその特待パートナーってのになれるってことか」
「ああ、そういうことだ。ネムはインパクトファクターの高い論文をたくさん発表してるし、それだけの実績がある。だからこの法律ができれば、ネムも堂々と特待パートナーになれる。配偶者とは違うけど、ちゃんと認められた関係だし、周りから変な目で見られることもなくなるはずだ」
「わ、ワタシのために、そこまでしてくれるのか?」
ネムは戸惑いながら、震えるような声で俺に問いかけてきた。
「当然だろ?俺のお嫁さんにするんだから」
俺の言葉に、ネムはまるで雷に打たれたかのように目を見開き、驚愕の表情を浮かべた。
そして、ネムの頬がみるみるうちに真っ赤になり、肩が小さく震え始めた。何かを必死に堪えているような様子だったが、やがてその表情はとろけるような恍惚に変わっていった。
……え、これって発作?今、知的な刺激なんてなかったよな?
その瞬間、ネムのアレが堰を切ったように溢れ出した。
「おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡き、聞こえてくるぅ……!お、おうじさまのォッやさしいおこえェ……!」
※※※
王子様……って、俺のことか!?
いや、そんなことよりも。この発作、知的な刺激だけじゃなくて感情の高ぶりでも起きるのか?本当に大丈夫なのか……ネムの体に悪影響があったりしないだろうな?
俺がそんな心配をしていると、まるで心を読んだかのようにオリガミが口を開いた。
『お兄様、ネムさんの症状について推測します。おそらく、ドーパミン過剰分泌ですね。今回のように、突然顔が紅潮し、肩が震え、感情が高ぶった発言や行動が見られるのは、脳の報酬系が強く刺激された際に典型的に現れる反応です。』
『ネムさんの場合、知的好奇心の爆発や恋愛感情が引き金となり、脳内でドーパミンが大量に分泌されていると考えられます。これらの症状は一時的なもので、ドーパミン濃度が正常に戻れば自然に治まります。健康には影響ないでしょう。』
「そ、そうか良かった……」
オリガミの説明を聞いて、俺は心の底から安堵した。
ただ、ひとつだけ心残りがある。今回の発作は今までにない新しいパターンだったのに、録画できていなかったのだ。俺の大事なコレクションが……!
「……なあ、オリガミ」
『はい、なんでしょう?お兄様。』
「今のネムの発作、録画できなかったんだ。もし映像残ってたら俺のスマホに送ってくれないか?こんなに感情を爆発させてくれること、もう二度とないかもしれないし……頼む!」
俺は恥をしのんで、オリガミにお願いした。
『わかりました。今回のネムさんの発作の動画、スマホの方に送信しておきますね?』
「ありがとう、オリガミ。あ、あと、ネムには……」
『ふふふ。大丈夫ですよ。ネムさんには内緒にしておきますから。』
もしネムにバレたら、間違いなく動画を消去させられるだろうな……オリガミさん、くれぐれも内密に頼みます。
※※※
ネムはしばらく荒い息をつきながらも、徐々に落ち着きを取り戻していく。
やがて、呼吸を整えたネムが、顔に赤みを遺したまま再び口を開く。
「ま、まあ。正太郎がそこまで、その特待パートナー制度の法律を作りたいと言うのなら、協力するぞ?正太郎が作りたいならな!」
前々から感じていたが、ネムは発作の最中に自分が何を言ったか覚えていないようだ。あんな発言を自分がしていると知ってしまったら、ネムの性格上、今みたいに平然としていられないだろう。
うん、ここは触れないでおいてやろう。愛しい婚約者のためだ。
「ああ『特待パートナー制度』どうしても作りたい。俺のために協力してくれないか?」
「わかった!協力してやろう!」
仕方ないやつだな〜みたいな雰囲気をかもしだして、ネムが言った。ネムって……研究者として天才なだけじゃなくて、お笑いとかの才能もあるんじゃないか?天は人に二物も三物も与えるものだな。俺は感心してしまった。
※※※
その後、ネムは冷静さを完全に取り戻したようで、現実的な質問をしてきた。
「なあ。どうやって法律なんて作るんだ?」
「それはだな……。オリガミ、これからどのように法律を作るのか、簡単に説明してくれるか?」
説明はオリガミの方が得意だ。任せてしまうのが手っ取り早い。俺もその説明を聞いて、しっかりとやるべきことを再認識しよう。
『はい、お兄様。世論コントロールについては、ドールハウスが保有する500人のVTuberを使います。現在でも、1000万人以上のチャンネル登録者がいるため、そこそこの影響力を見込めるはずです。次に、議員に恩を売って味方を増やして法案に賛同してもらいます。これには影響力がある議員を中心に行います。最後に、法案を提出してくれる議員や政党に対して、資金面などにおいて徹底的にバックアップします。以上、この三本柱で進めていく予定です。』
オリガミの説明が終わると、ネムが少し呆れたような声を出す。
「なるほど……本気なんだな……」
そんなネムのつぶやきに俺は返した。
「もちろんだ。どうせ、研究所が完成するまで、俺が出来ることはそんなにない」
俺は続けて話す。
「だから『特待パートナー制度』の件は、俺が担当する。ネムは研究所の建設について頼む」
俺には研究施設がどんなものかなんて、想像もできない。知っているネムに任せるべきだろう。
「そうだな、研究所の方がワタシ向けの仕事っぽいな。まかせとけ!」
そんな自信満々のネムの様子に、俺は少し心配になってしまう。
「あ、あまり担当者さんを困らせるなよ?」
「大丈夫だって!ワタシを信じろ!」
正直、不安しかないんだが……。
※※※
その後、建設会社の担当者さんからは、ほぼ毎日のように「本当にすみません、助けてください……」という悲痛な連絡が届くようになってしまった。
ウチのネムがご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳ございません……
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