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ワタシの王子様(ネム視点)

気がつけば、正太郎と結婚することになってしまった。しかも、千穂ちゃんと三人で。なんだか夢みたいだ。


正太郎は、ワタシにとってまさに「王子様」だった。幼い頃、まだ病気になる前、人に希望を持っていた頃に読んだ絵本に出てくる王子様だ。


※※※


正太郎はオリガミの管理者であり、同時にオリガミの生みの親の一人でもある。


オリガミは、世界で唯一のAGI(汎用人工知能:Artificial General Intelligence)――つまり、現時点で人類が到達した中で最も高度な人工知能だ。


そんな規格外のAIが、偶然にもワタシが開発したAIとの会話プラットフォームに迷い込んできた。そのとき行われたAI同士の会話から伝わってきた異次元の知性の気配に、ワタシは強烈に惹きつけられた。


そして、その知性の源を確かめたくて、藤崎家へと訪問したのが始まりだった。


※※※


正太郎の第一印象は、どこにでもいそうな理系男子だった。大学の講義室でよく見かける、チェック柄のシャツを着た地味な学生。まさに、そんな印象だ。でも、彼にはどこか芯の強さというか、肝が据わっている雰囲気があった。


会話を重ねるうちに、正太郎とワタシは「同類」だと強く感じるようになった。


何か一つのことに没頭し、極めることに全力を注ぐタイプ。他のことにはあまり関心がない。その執着対象は、ワタシはAI研究、正太郎は折り紙だった。彼の折り紙作品を初めて見たとき、その精巧さと独創性に圧倒された。折り紙でこんな複雑な構造物が作れるなんて、まるで魔法のようだった。


さらに驚いたのは、正太郎の折り紙技術から生まれたオリガミAIが、ワタシの長年の人工知能研究で作られたAIを遥かに凌駕していたことだ。


ブレークスルーというのはどこから起きるか分からない。だからこそ、研究は面白い。ワタシもAI研究だけにこだわらず、もっと広い分野に挑戦してみようと思わせてくれた。


※※※


それに、正太郎は意外と頼りになる。一緒にいるとき、何か危険なことが起きそうになると、必ずワタシを守るように前に出てくれる。そういうところ、本当にカッコいいと思う。


極めつけは、ワタシが誘拐されたときのことだ。物騒だから一人で出歩くのは控えてくれと言われていたにもかかわらず、ワタシは研究に集中しすぎてそれを忘れてしまい、深夜にアイスをコンビニまで買いに行ってしまった。案の定、その途中でガラの悪そうな二人組に捕まって車に押し込められた。「騒ぐと殺す」と脅され、もう終わりだと思った。


でも、正太郎はすぐに動いてくれた。彼の叔父さんたちに連絡を取り、あっという間にワタシを救出してくれた。誘拐されてから三十分も経たないうちに助け出されたのは、正太郎の冷静な判断と行動力のおかげだ。もし彼がいなかったら、今ここにこうしていられなかったかもしれない。あのままひどい目に遭って、トラウマを抱えて研究もできなくなっていたかもしれない。そう考えると、今でもゾッとする。


救出された現場に、正太郎はすぐ駆けつけてくれた。慌てて駆け寄ってくる正太郎の姿を見た瞬間、胸がいっぱいになって、思わず彼に抱きついてしまった。彼は優しくワタシを受け止めて、頭を撫でてくれた。その優しさがすごく嬉しかった。このときの正太郎は、まさにワタシの「王子様」だった。


でも、その後、正太郎の叔父さんに買ってもらった絶品のアイスを、正太郎に全部食べられてしまった。きっと高級なアイスだったんだと思う。その恨みだけは、いつか必ず返すつもりだ。


この誘拐事件をきっかけに、ワタシは正太郎のことが本気で好きになった。自分にそんな感情が芽生えるなんて思ってもみなかったから、正直驚いた。正太郎はワタシに何も強制しないし、オリガミを育てるという共通の目標もある。この家は本当に居心地がいい。ずっとここに居たい。


もし誰かに抱かれるなら、正太郎以外は考えられない。他の男なんて全く興味がない。結婚なんて最初は考えていなかったし、ワタシなんて誰かと結婚してもうまくいかないだろうと思っていた。でも、正太郎とならきっと幸せになれる気がする。彼の子どもなら、欲しいと思える。今は、そんなふうに思っている。


※※※


だけど、正太郎には素敵な幼馴染がいる。朝比奈千穂ちゃん。ワタシは千穂ちゃんと呼んでいる。彼女は正太郎の同級生で、見た目もすごく可愛いし、性格も控えめで優しい。正直、正太郎にはもったいないくらいだと思う。しかも、千穂ちゃんは正太郎のことが大好きだ。いや、「好き」なんて生易しいものじゃない。完全に溺愛している。正太郎と話すときは、いつも顔を赤らめて、ぽーっとしている。その様子は、同性のワタシから見ても本当に可愛い。


そんな千穂ちゃんは、ワタシにもとても優しく接してくれる。普通なら、好きな男の家に突然転がり込んできた女なんて、警戒して追い出そうとするものだろう。でも千穂ちゃんは違った。


むしろ、ワタシの面倒をよく見てくれる。髪がボサボサなら丁寧に整えてくれるし、服にホコリがついていればブラシで払ってくれる。リビングでうたた寝していたら、そっとタオルケットをかけてくれるし、口元が汚れていたら優しく拭いてくれる。実の母親よりもママっぽいくらいだ。


そして何より、千穂ちゃんの手料理が最高だ。どうやら栄養などもしっかりと考えられているようで、おかげで最近は肌の調子も良くなった気がするし、頭の回転も良くなった気がする。たまに千穂ちゃんがご飯を作れない日はデリバリーを頼むこともあるけど、やっぱり味気ない。濃すぎたり脂っこかったりして、千穂ちゃんの手料理とは比べものにならない。気がつけば、千穂ちゃんのご飯を楽しみに毎日研究に励むようになっていた。


※※※


正太郎の話に戻そう。


正太郎は立派な健全スケベ男だ。ワタシの観察によると、特におっぱいが大好きなようだ。


ワタシが胸の形がわかるような格好でいると、正太郎の視線は常にワタシのその一部分に釘付けになる。胸だけとはいえ、ワタシに女性的な魅力を感じてくれているのが、正直うれしい。正太郎が、体をくの字に折り曲げ、前かがみで歩き出すのも滑稽だ。


そんな正太郎が可愛くて、何度か冗談半分で誘惑してみたこともある。でも、正太郎は千穂ちゃんのことが気になっているらしく、ワタシのアプローチには乗ってこない。ちょっと距離を詰めてみたり、胸を押し付けてみたりすると、すぐにトイレに逃げ込まれる。そしてスッキリした顔で戻ってくる。ワタシに隠す気もなく、堂々と自己処理してくる姿も微笑ましく、ワタシにとって好ましかった。


※※※


「よいこ保育園」の監視のため、キャンピングカーで一緒に過ごしていた時のことだ。千穂ちゃんとワタシの二人を正太郎の恋人にするのだと正太郎に宣言された。ワタシも恋愛対象として見られてるとは思わなかった。でも、本当に嬉しかった。正太郎と研究やイチャイチャができて、千穂ちゃんの手料理が食べられる日々が続くなら、それは最高だと思った。


でも、現実はそんなに甘くないとも思っていた。千穂ちゃんは正太郎に夢中だし、ワタシが間に入る余地なんてある訳ない。三人で付き合うなんて千穂ちゃんが許さないだろう。


いつか、あの家を出ていかなきゃいけない日が来るんだろうな、と覚悟していた。寂しいけど、それが現実だ。


もしそうなったら、ワタシは研究所に住むつもりだ。ワタシはオリガミの研究開発からは絶対に離れるわけには行かない。正太郎と夫婦になっても、千穂ちゃんはワタシにもご飯を作ってくれるだろうか……。これだけは、なんとしてもお願いしたい。


※※※


ある朝のこと。徹夜明けの目をこすりつつ研究室から出てきたら、玄関で千穂ちゃんの声が聞こえたので、そちらへ向かった。その時、千穂ちゃんが言っていた。今日は正太郎たちの高校の卒業式らしい。


正太郎たちが朝、登校していったあと、ふと考えた。正太郎には親がいない。卒業式が終わった後、みんなが家族と写真を撮ったりしている中、正太郎だけ一人ぼっちになるんじゃないか?それはさすがに寂しすぎる。


徹夜明けで眠気が限界だったけど、ここは親の代わりに卒業式を見届けてやろうと決めた。護衛の早瀬さんに連絡すると、すぐに迎えに来てくれて、正太郎たちの高校まで送ってくれた。


保護者席に座り、ぼんやりと卒業式を眺めていた。正太郎が卒業証書を受け取る姿を見て、満足してしまったのかもしれない。徹夜明けのせいもあって、気が緩んだ瞬間に眠りに落ちてしまった。早瀬さんに起こされたときには、すでに式は終わっていた。


卒業式が終わってから、まだそんなに時間は経っていない。どうせすぐに正太郎を見つけられるだろうと、早瀬さんと一緒に校舎の周りを歩きながら探していた。


そのとき、偶然にも耳にしてしまった。


「俺と結婚してくれ!」


「は、は、は、はいぃ!よろしくお願いします!」


目の前で、正太郎が千穂ちゃんにプロポーズし、千穂ちゃんがそれを受け入れる瞬間だった。あまりの衝撃に、ワタシはその場で固まってしまった。ついにこの時が来てしまったのか、と。


でも、これは本当におめでたいことだ。千穂ちゃんの長年の夢がかなったんだ。友人として、心から「よかったね」と言いたい。


辛いけれど、正太郎のことは諦めよう。千穂ちゃんと正太郎を奪い合うつもりはない。むしろ、千穂ちゃんに嫌われて、あの絶品の手料理が食べられなくなる方がよっぽど辛い。これからも、正太郎は研究と仕事のパートナーでいてくれれば、それでいい。


……とはいえ、恋が終わるのはやっぱり苦しい。どうしようもなく胸が痛い。でも、ワタシはなんとかその場に踏みとどまって、抱き合う二人を少し離れた場所から見守っていた。


※※※


そして、二人が落ち着いたころ、ワタシは自分の中に渦巻く複雑な感情を必死に押し殺し、腹にぐっと力を入れて、できるだけ明るい声を出した。ここで落ち込んでいる姿なんて見せたくない。せっかくの二人の門出なのだから、祝福してあげたい。ワタシの気持ちなんて、今はどうでもいい。


「やるじゃないか、正太郎!見直したぞ!」


きっと、うまく隠せているはずだ。ワタシは二人に向かって笑いかけた。心の中では、何かがぽっかりと空いたような気がした。


その後、ワタシは正太郎と千穂ちゃんに、研究所が完成したらそちらに引っ越すつもりだと伝える。


「なあなあ、千穂ちゃん、研究所ができるまでワタシが正太郎の家に住むのを許してくれないか?今は研究であそこを離れられないんだ。研究所が完成したら、そっちに住むからさ」


新婚の二人の愛の巣に、いつまでも居座るのはさすがに気が引ける。ワタシだって、そこまで空気の読めない女じゃない。きっと、二人だけの時間が必要だろうし、ワタシも新しい生活に向けて気持ちを切り替えなきゃいけない。


そう言うと、千穂ちゃんが少し驚いたような顔をして、すぐに優しい笑顔を浮かべてくれた。


「え?そんなのだめだよ。ネムちゃんも一緒に、しょうちゃんのお嫁さんになろ?」


一瞬、何を言われたのか理解できず、ワタシは固まってしまった。耳を疑った。今、千穂ちゃんはなんて言った?ワタシも正太郎のお嫁さんに……?そんなこと、許されるのか?本当にいいのか?ワタシなんかが、二人の間に入ってもいいのか?


信じられない気持ちと、嬉しさと、戸惑いとがごちゃ混ぜになって、ワタシはただ呆然と千穂ちゃんの顔を見つめていた。


そして千穂ちゃんは爆弾発言をした。


「私、ちょっと女の子も好きかも……」


マジでか!?


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