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特待パートナー計画

俺に二人の婚約者ができてしまった。でも、千穂はネムも好きだというし、ネムは明らかに俺への愛より千穂のご飯目当てだ。


可愛い婚約者が二人もできたというのに、あまり嬉しくないのは何故だろう?もしかして俺がいなくても成立するのではなかろうか?コレ。


まあ、千穂とネムが納得しているというのであれば、それでいい。俺が中心の関係という思い込みが駄目なのかも知れない。守るべき家族ができた。そう考えればいいのだ。


……千穂とネムは俺の新しい家族だ。絶対に幸せにして見せる。


だが、俺の人生の主目的は変わらない。オリガミを成長させることだ。俺は家族を守りつつ、オリガミを成長させなければいけなくなった訳だ。


幸い、ネムは家族でありながら同じ目標を共有してくれている。千穂も、研究以外のことをおろそかにしがちな俺たちの世話を焼いてくれている。彼女たちには、感謝しかない。


※※※


さて、現時点で俺たちが持つリソースを整理しよう。


人的リソースとしては、「よいこ保育園」を卒園した「よいこ軍団」や「黒田エステート」の連中がいる。


なお「よいこ軍団」の十人は日本で「よいこ警備保障」という会社をやっている。少しずつだが警備仕事も入ってきているようだが、それはあくまで仮の仕事であり、実際は俺やオリガミが自由に動かせる私兵だ。


「よいこ軍団」の残り二十人は海外の民間軍事教練施設において、実際の軍隊が受けているような訓練を受けさせている。訓練に使用するのは実銃だ。クーデターを起こすつもりなんてないが、いざという時に身を守るための暴力装置の準備である。


他にも、俺を信奉している神山や、冤罪事件の際の嫌がらせを許してやったことで借りがあるクラスメイトたちもいる。まあ、こいつらは、何に役に立つかはわからないが。


資金面では、オリガミが運営するドールハウスのVTuber500人が稼いでくれる。その気になれば、様々な分野のVTuberを使った世論操作・市場操作などもある程度はできる。


ただし、肝心の「オリガミ神化計画」は停滞している。研究室のスペース不足でニューラルネットワークの拡張ができず、オリガミの成長は停滞させてしまっている状態だ。


研究所の建設はもう少しで開始されるが、完成まで一年ほどかかるとの事だった。中途半端に研究所を建設して、オリガミの成長にトラブルが発生したら元も子もない。ここは、しっかりと作ってもらいたいから、急がせるわけにもいかない。


※※※


そして、二人の婚約者ができたことで、新たに解決すべき問題が発生した。


当たり前だが、この国では二人の配偶者を得ることが出来ない。一人の配偶者を持つと、もう一人は愛人とか内縁の妻などとなってしまう。


ネムは特に結婚にこだわりがないので、正妻じゃなくていといっている。しかし、まわり人間の彼女への視線は変わってしまうだろう。彼女がそんな色眼鏡で周りから見られることは、許せない。


※※※


俺は卒業式を終えて自宅に戻り、オリガミと話し合っていた。ネムは俺の卒業式に寝ずに来てくれたらしい。今はベッドでぐっすり眠っている。


俺はオリガミに切り出す。


「というわけで、封印していた世論操作と政界進出を本格的にやろうと思う」


『お兄様?私はずっと見聞きしていたので、理解できますが、説明を省きすぎでは?ご自身の行動を理解するためにも、言語化は大切ですよ?』


確かに、その言い分はもっともだ。


「そ、そうだな。えっと、つまり……ネムが変な目で見られないように、二人目の妻がいてもおかしくない社会や法律を作りたいんだ」


『承知しました。お兄様、まずはご婚約、おめでとうございます』


オリガミが祝ってくれたので、お礼を返す。


「ありがとう。まだ婚約指輪も買ってないけどね」


『千穂さん、とても喜んでいましたね。千穂さんもお兄様も幸福値がとても高くなっております。私の行動の指標である幸福関数も高い値を示しております。実に、素晴らしいです』


オリガミはいつも俺の味方でいてくれる。本当にできた妹だ。


※※※


オリガミは少し間を置いてから、また話し始めた。


『話を戻させていただきます。お兄様は、ネムさんが変に見られないように、社会を変えられたいんですね?』


「ああ。そのとおりだ」


言語化してみて改めて思う。俺、とんでもない事しようとしてるな。


『お兄様のお考え、理解しました。問題解決には、やはり世論のコントロールが必要そうですね。ドールハウスに500人いるVTuberを使って世論を変えていきましょう。ニュース・時事解説、教育、投資・金融など、様々な分野にVTuberを配置しておいたのは正解でした。』


『ただ、世論をコントロールする前に、どんな世論を広めるか明確にする必要があります。』


そして、申し訳なさそうにオリガミが言う。


『残念ながら、この国で一般的な一夫多妻制が認められることはないでしょう。代わりに、二人目の事実上の妻の名誉を高める方法を考えるべきです。』


やっぱり、一夫多妻は無理か。そんな気はしていた。俺は少し考え込む。


「名誉が上がる……地位向上……地位を勝ち取る……勝ち取る?でも男側が勝ち取る形だと、二人目の妻の地位は上がらないだろうな……男のトロフィーみたいになってしまいそうだ」


オリガミは静かに同意する。


『そうなってしまうでしょうね。二人目の妻自身は何も勝ち取っていないですからね。』


俺はふとひらめいた。


「なるほど……じゃあ妻自身が勝ち取る形にすればいいのか?……それなら、特別な実績や一定以上の納税を行う女性に限って、男が既婚者であっても、その妻の一人の座を勝ち取れる形にすればいいんじゃないか?もちろん既にいる奥さんの同意も必要ということで」


オリガミの声が弾む。


『素晴らしいアイデアです!選ぶのは男性じゃなくて、女性というわけですね。まさに逆転の発想です!さすがお兄様です!』


この考え、本当に俺が思いついたのかな?なんか誘導された気がするけど。


オリガミが続けて話す。


『実績や能力があり、さらに既存の配偶者の同意がある場合に限り、二人目の妻となれる仕組みですね。それなら現実的な制度として導入できそうです。』


オリガミがさらに付け加える。どんどん、制度が具体的になっていく。


『もちろん、男女どちらにも適用できるようにして、一夫多妻と多夫一妻のどちらにも対応できる形にしましょう。同性同士の結婚もこの制度で実現できるようにしましょう。なお、名誉的な配偶者という位置づけで、本人は相続権から除外して、子どもにのみ相続権を認める形にすれば、社会的な反発も抑えられるかもしれません。』


どうやら、現行の社会システムを可能な限り変えない事を、オリガミは重要視しているみたいだ。


変化するのは面倒な事である。そして、面倒事が増えれば、新制度への反発は増える。皆、暇じゃないのだ。そんなもんだろう。


※※※


オリガミが俺に尋ねてくる。


『この、制度の名前はどうされますか?』


俺は頭の中でいくつかの案に考え巡らせた。そして、少し考えた後、ひらめいた名前を口に出す。


「『特待パートナー制度』ってのはどうだ?それで二人目の妻は『特待パートナー』と呼ぶと。学校の『特待生』みたいで、すごい優秀そうだから、変に見られないような気がする」


『いいですね!これなら、本当に実現できる可能性があります。もちろんデメリットもありますが、経済効果、少子化対策、能力主義促進、多様性向上などのメリットもありそうです。十分に検討する価値がある制度でしょう。』


※※※


プロジェクトの名前は、そのまま「特待パートナー計画」と名付けることにした。制度の骨子が固まったことで、俺とオリガミはさっそく具体的な計画の立案に取りかかることにした。


オリガミのおかげで、到達すべきゴールが随分とクリアになった。その遠い道のりを想像してしまい、俺は思わず胃のあたりを押さえる。


今回の計画は、本当に大変そうだ。これって、いわば国民の価値観を変えるって事だろ?一朝一夕で進む話なわけがない。


だが、オリガミはそんな俺を励ますように、明るい声で言った。


『お兄様、今までで最大の計画ですね。ワクワクします!一緒に頑張りましょう!』


「そうだな、俺は胃がキリキリしてきてるよ……」


自分が社会を変えるなんて、まだ実感は湧かない。だが、新しい家族と楽しく暮らしていくために、絶対に成功させなければならない。


こうして、「特待パートナー計画」は本格的に動き出したのだった。

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