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世論操作と政界進出

「おいおい、なんだか大ごとになってるじゃないか」


背後から聞き覚えのある低い声が響いた。振り返ると、悠斗叔父さんと柚希さんが並んで立っていた。叔父さんは面白そうにニヤニヤしていて、柚希さんは淡々とした表情のままだ。


「卒業おめでとう。正太郎くん、千穂ちゃん」


柚希さんが、ほんの少しだけ口元を緩めて声をかけてくれた。


「あ、ありがとうございます。それで……叔父さんと柚希さん?どうしてここに?」


思わず呆けた声が出てしまった。まさか二人が高校まで来ているなんて、想像もしていなかった。


「早瀬から連絡があってな。お前が卒業式だって聞いたから、見に来たんだよ。卒業証書を受け取る姿、ちゃんと見届けたぞ」


叔父さんは腕を組みながら、どこか誇らしげに言う。俺が卒業する姿を、しっかり見てくれていたらしい。


「えっ、そうだったんですか?」


そんな前から、見られていたとは思わなかった。ということは、俺たちの会話の一部始終も聞かれていたりする?俺が二人のお嫁さんを、って話まで、聞かれてたりするのか?


なんとなく、柚希さんの視線が鋭い気がする。ちょっと怖い。ふと見ると、早瀬さんは少し離れた場所に立っている。もしかして、早瀬さんも柚希さんが怖くて距離を取っているのかもしれない。


※※※


そんな空気の中、叔父さんが口を開いた。


「ひどいじゃないか。卒業式くらい呼んでくれよ。お前は大切な甥っ子だって言ってるだろ?」


「すみません……忙しいと思って……」


「忙しいのは確かだけど、お前は兄貴の大事な息子なんだ。卒業式くらいは出席させてくれよ。親代わりなんて大それたことは言えないけど、もう少し頼ってくれてもいいんだぞ?」


叔父さんは俺の肩に手を置き、優しく語りかけてくれる。そうだよ、俺のことを大切に思ってくれる人も、ちゃんといるんだった。


「……はい、ごめんなさい」


俺は小さく頷きながら、素直に謝った。


「それで、親父とおふくろには卒業式のこと伝えたのか?」


叔父さんがふと真剣な表情になり、問いかけてきた。俺の中に冷や汗が流れる。


「うっ!忘れてました……」


研究所の建設準備で頭がいっぱいになっていて、じいちゃんとばあちゃんに卒業式のことを伝えるのをすっかり忘れていた。そもそも、卒業式が親や家族が参加する大事なイベントだということすら、すっかり頭から抜け落ちていた。俺にとって、学校なんて、その程度の存在だったってことだろう。


「孫の晴れ舞台だぞ?親父たちも、きっと来たかっただろうなあ?」


叔父さんが、少しからかうような声で言った。


「そ、そう思います……」


俺は小さな声で答える。じいちゃんとばあちゃんに伝えていれば、きっと喜んで来てくれただろう。


「親父とおふくろも、正太郎の卒業証書授与、見たかったかもなあ……。俺はともかく、親父とおふくろには伝えるべきだったんじゃないか?」


「本当に、まったくもって、その通りです……」


叔父さんの言葉は、どれも正論で、ぐうの音も出ない。


俺、恩知らずだったかもしれない。ひとりぼっちだって、孤高気取って、悦に浸っちゃってたかもしれない。見てくれてた人、いたじゃないか。


※※※


叔父さんがニヤニヤしながら茶化してくる。


「それで?そんな周囲の気持ちも考えられないやつが、ネムさんと千穂さん、二人と結婚するって?」


もうやめて!客観的に見たら、俺の行動は子供じみてる。完全にガキの行動だ。周りのことを何も考えず、自分の感情だけで突っ走ってる。


俺は深く息を吐き、肩を落として答えた。


「……ダメダメですね。後で、じいちゃんとばあちゃんにも謝っておきます」


「それがいい。あと、二人の嫁さんをもらうこと自体、俺は反対しないけど……世間がどう見るかは分からないぞ。法律的にも複数の配偶者は認められてないしな。その辺はよく考えておけ。しばらくは周囲にも言わない方がいい。ビジネスにも影響が出るかもしれん」


そうか……ドールハウスの運営にも影響が出る可能性があるのか。計画に影響が出るのは困る。


「分かりました。何か対策を考えないといけませんね……」


※※※


そうして、叔父さんと柚希さんは仕事に戻っていった。


きっと忙しい合間を縫って、無理をして来てくれたのだろう。叔父さんは、企業のトップとして、普段は分刻みのスケジュールで動いているはずだ。そんな中、俺のために時間を割いてくれたことが本当にありがたかったし、人生の先輩としてのアドバイスも胸に響いた。


帰り際、柚希さんは千穂に「おめでとう。よく頑張ったね」と優しく声をかけていた。その口調には、普段はあまり見せない温かさがこもっていたような気がした。


※※※


叔父さん達を見送った後、俺たちの会話を黙って聞いていたネムが、なんでもないことのように言った。


「ワタシは、事実婚とかでいいよ。結婚とかに憧れないしな。正太郎や千穂ちゃんと一緒にいれて、研究ができればそれでいい。正太郎とは研究や仕事のパートナーだし、正妻ポジションは千穂ちゃんでいいぞ?」


「ネムちゃん……」


千穂は涙を浮かべている。自分が正妻になりたいけど、ネムは本当にそれでいいの?などと考えているのだろう。


確かに、オリガミの件もあるし、研究や仕事でネムと過ごす時間の方がはるかに多い。現実的には、千穂のほうが妻という立場が必要になりそうだ。


でも、このままではネムの立場が曖昧なままだ。一応ドールハウスの役員という形にはなっているが、それだけでは足りない。俺の嫁の一人として、ネムが他人から色眼鏡で見られないようにする方法を考えないといけない。


※※※


……やるしかないか。世論操作と政界への影響力拡大。


研究所が完成するまでの一年間は、オリガミのニューラルネットワーク拡大には期待できない。だから今は、オリガミにさまざまな経験を積ませて成長を促すべきだ。


ネムの立場を守り、オリガミの経験を増やすため、世論操作や政界進出に取り組む。


俺のこれから一年間の目標が決まった。世間にも国にも、俺が二人の嫁を持つことを認めさせてみせる。


この家族で幸せになるために。

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