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暖かい君を守ると決めた

作者: 海空丸
掲載日:2025/12/09

優しさと依存の境界線を描いた物語です。

物心ついてから一つだけ心がけていること。


大切なひとに、優しくする。


将来の夢は決まっていないけど、僕の周りにいてくれる人たちに、暖かさを与えたい。

これだけは決まっていた。


僕は今年から高校一年。


小さい頃から仲良くしてくれている結衣は、僕にとって一番大切な人。


高校生活が始まってからクラスも一緒で、心強い。


「春人、一緒に帰ろう!」


結衣はいつも僕に帰ろうと誘ってくれる。


「帰ろっか。」


「あれ、私のスマホがない。」


結衣はすごくなくし物が多い。


「また? 僕、教室見てくるよ」


僕は、いつも通り結衣のなくしたものを探しに行った。


「やっぱここにあった。」


簡単に見つけ出して、結衣のところに持っていった。


「春人ありがとう〜! いつもなくしたもの見つけてくれるから、やっぱ一緒にいないとだめだね。」


結衣はくしゃっと笑い、嬉しそうに僕を見た。


「じゃあまた明日。」


そう言って帰った。


幼い頃から、僕が大切に思っていた家族から、優しく暖かくされたことなんてなかった。

だから絶対、あの人たちのようにならない。


大切な人にだけ、優しくあることを心がけて生きてきた。


結衣は、僕が一人ぼっちだった時、家が近くて遊んでくれていた。

結衣の両親も、妹の美梨ちゃんも、今でも優しく家に呼んでくれる。


この家族は、僕の「暖かい」理想だ。

第二の家族だと思っている。


―僕にできる限りの恩を返す。


そんな昔のことを思い出しながら、この居心地の悪い家で、朝に早くなれと願いながら眠った。


***


いつも通り朝は、結衣の家に行ってから、一緒に学校に行く。


「おはよう春人!」

毎朝結衣は一番に、おはようと声をかけてくれる。


「春くんおはよう!」

妹の美梨ちゃんも、もう中学生になった。


小さい時から二人とも、本当に優しかった。


「おはよう。今日も頑張ろうね。」


結衣と学校に向かった。


「ごめんね。今日、真奈美たちと放課後買い物行く約束してるから、一緒に帰れないけど、明日は帰ろう!」


結衣は明るく、友達もたくさんいる。


「いつも僕に気をつかわなくていいんだよ! 楽しんできて。」


笑いながら僕はそう言った。

優しいから僕のことを考えてくれる。

そんなこと考えなくていいのに。


そう思いながらも、考えてくれることは嬉しかった。


今日は一人だから、何をしよう。


学校はもう終わりのチャイムが鳴っていた。

靴箱で靴を履き替えていると、


「春人。」


結衣の声がした。

見てみると、目に涙を溜めている。


「どうしたの?」


「真奈美たち、やっぱ遊べないって。私だけ置いてかれた。」


悲しんでいる結衣を見て、怒りが込み上げてきた。

こんなに暖かい子を傷つける人の気持ちがわからない。


「一緒に帰ろう。僕は結衣の味方だよ。」


怒りを飲み込んで、「優しさ」を優先した。


「春人がいてよかったよ。あ! 私の家でご飯たべない? 美梨も喜ぶよ!」


結衣に笑顔が戻った。


「久しぶりにみんなにも会いたいし、行こうかな。」


「決まり! 帰ろう!」


そう言って僕の手をつかみ、一緒に走って帰った。


「おじゃまします。」


「ただいまお母さん、春人連れてきたよ〜」


高校に入ってからはあんまり来れてなかったから、久しぶりだ。


「春ちゃんいらっしゃい! 久しぶりね。ご飯できてるよ! 美梨〜春ちゃん来たよ。」


「ありがとう! お腹すいた〜。」


ここにいると僕は素の自分でいられる。前からそうだった。


「春くん! 一緒に食べよ!」


美梨ちゃんも僕に懐いてくれている。

みんな暖かいなあ。


そう思いながら、心が休まる時間はあっという間に過ぎた。


「今日お父さん仕事だったけど、春人に会いたがってたから、また来てね!」


結衣は辛いことがあったはずなのに、忘れたかのように笑顔になっていた。


「結衣も美梨も昔から春ちゃんのこと大好きよね、ほんと。二人ともほんと懐いてる。

これからも仲良くしてあげてね! 前みたいにもっとうちにも来てね。」


結衣の両親は本当にいい人だ。


「またすぐ来るね。おじゃましました!」


笑顔の三人に見送られて外に出た。


この家から自分の家に帰るのは、いつもの何倍も気が重い。


開けたくもないドアに手を伸ばし、家に入る。


「あ。よかった。」


家に帰り、誰もいない。


あの人たちがいないことにほっとした。


でも、結衣の家はあったかいのに、僕の家はすごく冷たい時間が流れていく。


けどもう慣れた。


結衣の優しい笑顔を思い出すと、頑張れるから。


一人暗い家で、閉めきれていない蛇口から、ぽたぽたと水の音だけが響いていた。


***


朝になると心は少し軽くなった。


だって結衣に会える。

面倒くさい学校も楽しかった。


「おはよう結衣」


「おはよう! 今日も頑張ろう〜」


朝から元気いっぱいの結衣を見てると、元気が出てくる。


この日は教室の空気が、やけに嫌な感じがした。

その理由はすぐにわかった。


結衣は、いつも仲良くしてるみんなに無視されていた。


「結衣大丈夫?」


「…」


いつも明るい結衣の笑顔が消えていく。


僕が笑顔にしなきゃいけない。


「無視とかタチ悪いことしかできないんだ。」


僕は教室に響き渡る声で、口を開いていた。


「こんなことしかできない人間と一緒にいなくていいよ。結衣行こう。」


いつも仲の良かった真奈美が、


「え? だって春人…」


こんな奴らに耳を貸さなくていい。

僕はこんなところに結衣を居させたくない。

学校はまだ終わっていないのに、結衣の手を引っ張り教室を後にした。


結衣は驚きながら僕の方を見て、辛い涙を隠して笑ってくれた。


結衣を笑顔にできてよかった。


家に送り、結衣のお母さんにその事を伝えた。


「僕も、今日は帰るけど、何かあったらいつでも連絡してきてね。」


「ありがとう。春人のおかげで私は大丈夫だよ。連絡するね。」


そう言ってこの日は家に帰った。

「春人のおかげ」その言葉が忘れられないと同時に、結衣が心配で眠れなかった。


その時電話が鳴った。結衣からだ。


「もしもし。結衣大丈夫?」


「大丈夫だよ!」


声がさっきより明るくなっていた。


「美梨がね。今日の話聞いてくれたの。

お姉ちゃんには私も、春くんもいるから大丈夫!って。

本当にそう思った。春人も本当にありがとう。」


結衣と美梨ちゃんは本当に仲がいい。

見たことないような姉妹だ。


「美梨ちゃん本当に優しい子だね。でもその通りだよ。僕もいるからいつでも言って。」


心臓の形が、少し歪んだ気がした。


「ありがとう。こんなことがあったから明日は学校休むね。」


「分かった。ゆっくり今は休んで。」


電話を切った。


真奈美なんて最初からいなければよかった。

結衣を泣かせるものは、世界から全部消えればいい。

結衣を笑わせる人は、僕だけでいい。


少しずつ何かが崩れているような、そんな気がした。


***


今日、結衣は学校にいない。

僕も行く気が湧かない。やる気もない。


この家は冷たくて嫌だけど、結衣が辛い時に呑気に学校に行く、そんな自分の方がもっと嫌だ。

そう思い休んだ。


結衣の笑顔を見たい―それだけを考え続けていたら、夜になっていた。


電話が鳴った。


「助けて。美梨が帰ってこないの。」


「どうしたの? 一回落ち着いて説明して。」


結衣は息が上がり、パニックになっていた。


「とっくに帰ってくる時間なのに帰ってこないの。電話も繋がらない。助けて春人。」


「今から行くから、僕も探すから。」


電話を切り、急いで結衣の家に行った。


家の前には、結衣とお母さんがいた。

二人とも真っ青な顔をしている。


「い、いまお父さんは探しに行ってる。」


結衣は言葉にならない声で震えていた。


「大丈夫だから。僕も探してくる。絶対見つけるから。」


結衣のあんな顔は見たくない。

僕は真っ先に走り出していた。


数時間探し回った。


僕が―美梨ちゃんを見つけた。


美梨ちゃんをすぐ家に連れて行った。


「美梨!!! どこにいたの。」


結衣と両親は美梨ちゃんを抱きしめた。


「ごめんなさい…私、迷子になっただけなの。」


「心配したんだよ。本当に本当によかった。。」


結衣は美梨ちゃんを抱きしめた後、僕の方に走ってきて、涙でぐしゃぐしゃの顔で抱きついてきた。


「春人がいなかったら、美梨危なかったかもしれない。本当にありがとう。

いつも一番に助けてくれてたのは春人だけだった…」


そう。僕はくすりと笑みが溢れた。

その言葉が欲しかった。


「結衣のためならなんでもするよ。美梨ちゃんも、今度から危ない場所には行かないようにね。」


「…」


結衣はあの日以来、僕とばかり一緒にいるようになった。


学校、放課後も。時間があれば僕と一緒。


学校の帰り道に、結衣が言った。


「あの日から美梨が全然話してくれないんだ。

私が春人の話をすると笑ってくれたのに、今は暗い顔を見せるの。」


「見つけた時、帰れなくなってうずくまってたから、相当怖い思いをしたんじゃないかな。

時間が経って治るといいな。」


胸に大きな棘が刺さって抜けない、そんな感覚に襲われた。


「そうだよね。もう少し見守ってみる。」


「うん…」


「ねえ春人。いつも私を助けてくれてありがとう。

私、前からずっと春人のこと好きだよ。友達としてじゃなく。ずっと好き。」


いつもの変わらない、暖かい結衣の笑顔。


その言葉を聞いて、僕は息ができなくなった。

血の気が引いた。

耐えきれない。


返せるはずの言葉は、僕に何もない。


―その場から走り去った。


家に帰り、洗面所に急いで行った。

この家のうるさいあの人たちの声が聞こえないほどに、嗚咽が止まらない。


僕には結衣しかいなかった。


大きくなってからどんどん結衣は、みんなから愛される光のような存在になっていった。

孤独から生まれたような僕とは、似ても似つかない存在。


そんな僕といてくれた結衣だけは、いなくならないで欲しかった。


だから結衣から、いろんなものを奪ってきた―


いつまでも暖かい結衣の笑顔と、「ずっと好きだった。」なんて言葉、僕の記憶には残ってはいけない。


顔を上げ、鏡を見た。


いつの間にか見たことのない、僕の知らない僕になっていた。


***


次の日。


結衣に電話をかけた。


「昨日は、途中で逃げてごめん。びっくりしすぎちゃって。

僕も結衣が大好きだよ。良かったら付き合って欲しい。」


電話越しに、誰かの泣き声がした。

嬉しい涙ならいいな。


もう二度と離れることはできない。

結衣をちゃんと守るために。


読んでくださり、ありがとうございました。

一人の主人公の「優しさ」について描きました。


人によって優しさの受け取り方が違う。

そんなことを考えながら描いたお話です。

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