第3章:時計塔の試練と震える声
ココロとシロツグは、ついに街の中心、巨大な時計塔の麓にたどり着いた。
時計塔は、上から下まで分厚い霜と氷に覆われ、まるで時間が凍りついた巨大な氷の彫刻のようだ。塔の文字盤に刻まれた針は、動くことをやめ、その冷たい輝きはココロの心を威圧した。
シロツグは、ココロの足元に跳び上がり、不安げな顔を見上げた。
「怖がることはないよ、ココロ。この塔は、君の歌を待っている。この街の時間を再び刻む唯一の鍵は、君のその声なんだ」
ココロは喉の奥が張り付いたように感じた。
こんな大きな沈黙の塊を、私の小さな歌声で動かせるわけがない。もし歌ったとしても、誰も聞いてくれず、私の声だけが虚しく、この冷たい氷に吸い込まれて消えたらどうしよう。
自分の才能への自信のなさが、再び冷たい風となってココロを包み込んだ。
「もし、失敗したら……」
ココロの声は、雪に埋もれるようにか細かった。
シロツグは、ココロの足にそっと体を擦りつけた。その毛並みから伝わる温かい感触と、首から下げた砂時計から響くチリチリという金の砂の音が、ココロの不安を微かに掻き消していく。
「失敗なんてないさ。君が歌うことを選ぶ。それだけで、君の心にはきらきらとした希望が生まれるんだ」
シロツグの言葉に押され、ココロはゆっくりと顔を上げた。
彼女は、氷に覆われた街の空中に漂う、虹色の音楽の結晶を思い出した。
あれは、かつてこの街で歌われていた喜びのきらめきの残骸だ。
私が歌えば、あの結晶が溶けて、再び街に音が戻るかもしれない。
ココロは深呼吸をした。
そして、震える声で、かすかに歌い始めた。
それは、誰にも届かなくてもいい、ただ自分自身のために紡ぎ出す、小さな、祈りのような歌だった。
歌い始めると、体が冷え切っていたはずなのに、ココロの胸の奥から暖かい熱が湧き上がってくるのを感じた。
しかし、時計塔は無反応だ。ココロの歌声は、冷たい氷の壁にぶつかり、すぐに消えてしまう。
「もっと、もっと心を開いて!君の歌は、冷たさを恐れる必要はないんだ!」
シロツグが叫んだ。
ココロはハッとした。
自分が恐れているのは、歌声が消えることではなく、自分の歌声を誰かに聞かれることだった。完璧でなければ、きらきらと輝いていなければ、価値がないと、どこかで決めつけていたのだ。
ココロは目を閉じ、温かい友情を与えてくれるシロツグの存在だけを信じた。
そして、完璧ではなくてもいい、誰のためでもない、ただ、この沈黙を打ち破るために歌うのだと決意した。
ココロは、持てる限りの力を込めて、再び歌い始めた。
今度の歌声は、震えていながらも、芯のある、強い光を放っていた。それは、時計塔の冷たい霜を突き破り、街の静寂にヒビを入れるような力を持っていた。
ココロの歌声に合わせ、シロツグの砂時計の金のきらめきが、今までよりも格段に強く、速く、チリチリと音を立て始めた。
希望の時間は、今、再び動き始めている。




