『赤飯の記憶 ― 第八話 恋愛相談室は赤飯の香り』
休憩室に漂う赤飯の香りと湯気――
今日も職場は静かで、でも翔子の心はちょっとそわそわ。
ちょっと若いおっさんに恋心を抱く翔子と、観察眼鋭い佐井田先輩の、赤飯を挟んだ“恋の相談タイム”。
ちょっとした日常が胸を高鳴らせる――そんな瞬間をお届けします。
休憩室。湯気の立つ急須の音だけが静かに流れていた。
佐井田がふわりと顔を上げる。
「どうしたの? おかしな顔して」
翔子はテーブルをとんとん叩きながら、むくれた声を上げた。
「いや……親譲りのプリティガールですよ……
って、佐井田さん、さり気なく酷くないですかぁ、もう…」
その表情は、親譲りのプリティふくれっ面そのものだった。
佐井田は微笑み、少し肩を回す。
「赤飯作ってるあなた、輝いてるわよ」
翔子は一瞬目を丸くした。
「えっ」
佐井田は頷く。
「うん」
――静かにお茶をすする音。
翔子は小さくため息をつく。
「……いや、輝いても、職場にいるのはおっさんと、ちょっと若いおっさんだけじゃないですか」
佐井田は涼しげに笑った。
「はい、ちょっと若いおっさんが――恋の人だね」
翔子は思わず肩をすくめる。
「うぐっ」
翔子「さ、佐井田さんだって、どうなんですか?」
「あの、その恋愛とか…」とごにょごにょ聞いた。
佐井田はカップの中の茶葉をじっと見つめた。
「私は……あれよ。“恋愛不適合者”だから。だってね、相手の記憶が邪魔をするの。ある日、ズボンのチャックが全開だった記憶、バスに乗り遅れて口笛吹いて誤魔化している記憶……まぁ、色々ね。でも、その恋愛阻止記憶が有っても、好きになる時は好きになるけどね…」
佐井田は遠い目で窓の外の水色の空を見上げた。
翔子は息を呑む。
「……あ、なるほど。……ちょっとそれも、辛いですね…」
翔子は提案する。
「じゃあ……今度、飲み会やりません?」
佐井田は軽く笑った。
「貴方が“ちょっと若いおっさん”に近づく会ね」
翔子は慌てる。
「ちょ、ちょっと! 言い方!」
佐井田はニヤリと笑う。
「いいわよ。私の記憶力で、あなたをアシストしてあげる」
翔子は嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます!」
佐井田はさらに付け加えた。
「でも、恋の場はね、記憶じゃなく“瞬間”なのよ」
翔子は息を呑む。
「……深っ」
二人の笑い声が、湯気の向こうに溶けていった。
――つづく。
翔子の初めての恋心も、佐井田先輩の“観察眼”も、赤飯の香りと共に漂う。
日常の些細な出来事が、心をほんの少し温める瞬間になる――
そんな小さな幸せを、今日も読者の皆さんに届けられたら嬉しいです。




