『赤飯の記憶 ― 第五話 ヤマンバギャルの青春』
休憩室の窓から差し込む灰色の光。
今日もコーヒー片手に、佐井田がふと思い出すのは、高校時代の自由でちょっとぶっ飛んだ青春の記憶。
笑いあり、ちょっとの懐かしさあり。
さあ、あの伝説の“ヤマンバギャル”との出会いを覗いてみよう――。
休憩室の窓の外、灰色の光が差し込む。
佐井田は湯気の上がるコーヒーを一口すする。
「そう言えば、高校は楽しかったな」
風間翔子が首をかしげる。
「何ですか? また、男性教師ホイホイですか?」
佐井田はぷっと笑い、首を横に振る。
「違うの。その頃の私は、授業はもう見ないようにしたの。簡単よ。
そしたら、面倒くさいこともなくなった」
「へぇ~」
翔子は興味津々で前のめりになる。
「まぁ、成績は下がっちゃったけどね」
佐井田は眉尻を下げて笑った。
「でもね、私はある人に出会えたの」
「誰っすか?」
佐井田の目が、突然ピカーンと光る。
「ヤマンバギャルよ」
翔子の口が思わず「あぁ……」と開く。息を飲むその表情に、佐井田はにんまり。
「私もなりたいって思ったの。だって誰も素顔も素性も知らずに、
ノリだけで生きられるんだもん」
「それにメークを取って街ですれ違っても、誰が誰だか分からない」
佐井田は小さく「ふふっ」と笑った。
「勿論、その子の記憶も無い」
佐井田ニッコリ
「最高だったわ〜」
佐井田はうっとりとした。
「マジっすか……そんな自由な生き方、見たことないです!」
翔子の瞳がキラリと光る。
佐井田は立ち上がり、スマホを差し出す。
「見る?」
翔子の視線の先には――
黒リップ、真っ黒アイライン、金とオレンジのメッシュヘア。モリモリアゲアゲ、自由そのもののヤマンバギャル佐井田が立っていた。
翔子は思わず息をのむ。
「うわ……完全に別人じゃないですか!」
佐井田は肩をすくめ、にやりと笑う。
「そう、これが私の青春。授業も記憶も全部、置いてきた」
二人は声をあげて笑った。
小さな休憩室の空気が、夏祭りの夜のように一瞬はじけた。
授業も成績も、ちょっと置いてきた佐井田の青春。
だけど、その自由さや出会いの瞬間は、今も心の中で輝き続けている。
翔子と笑い合ったあの一瞬の空気は、休憩室の小さな夏祭りのように、ふわりと弾んだまま残っている――。
次回はまた違った空気の、第6話でお会いしましょう




