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語るよ佐井田さん。—記憶の波にさらわれて—  作者: 猫田笑吉


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『赤飯の記憶 ― 第二話 婦人警官の動画が止まらない ―』

ちょっとズレた“動画記憶”能力を持つ佐井田。

そしてツッコミの声がでかすぎる後輩・翔子。

赤飯工場の休憩室で今日も、妙に濃い話が始まる――。


前話では「ごま振り専任になった理由」が明らかになりましたが、

今回は佐井田の“前職”に迫ります。


どうぞお楽しみください。

ここは、とある赤飯製造工場の休憩室。


昼休みの味噌汁の湯気がぽわぽわと揺れる中、

佐井田茜(38)は今日もほうじ茶を両手で包んでいた。

一度見た記憶をそのまま“動画で保存”してしまう、ちょっとズレたベテラン社員である。


向かいには、ドサッと座る風間翔子(28)。

ツッコミの声がでかすぎて、休憩室の時計がたびたびビビる女だ。


「佐井田さん、ひとつ聞いていいスか」


「なに?」


翔子が、おにぎりを握ったまま前のめりになる。


「佐井田さんって……昔、婦人警官だったってホントなんスか?」


佐井田のほうじ茶が、ぴたりと止まった。


「……本当よ」


「マジっすか!? あの制服着てたんですか!?

絶対似合うでしょ、いや似合ってたでしょ!!」


「ええ、似合ってたわね」


「自分で言うんかい!! そこは謙遜のゾーン!!」


翔子の声が蛍光灯を震わせた。


佐井田は落ち着いたまま続ける。


「婦人警官は記憶力が必要だったの。

わたしの“動画記憶”が買われて、すぐ指名手配犯の担当になったわ」


「活かし方ド直球すぎ!!」


佐井田はほうじ茶を見つめた。


「でもある日……大量の指名手配犯の資料、全部見せられたのよ」


「全部って……写真?」


「顔、特徴、現場写真……“覚えろ”って上司が言ってね。

言われた通り、全部“動画”で記録したの」


翔子がごくりと唾を飲む。


「そしたらその夜――」


佐井田は静かに目を閉じた。


「寝ても、出てくるの。

写真の中の顔が、勝手に動き始めるのよ。

笑ったり、振り返ったり、ウインクしたり」


「ウインクすんな犯人!!

お前インフルエンサーか!!」


だが佐井田は真剣だ。


「街を歩くとね……通行人の顔に犯人の顔が重なるの」


「ホラー!!

その能力、警察より怪談寄りなんよ!!」


「外に出られなくなったわ。

頭の中で、ずっと、動画が再生されるの」


翔子が肩を落とす。


「キツ……それは辞めますわ」


佐井田は小さくうなずいた。


「だから警察は退職したの。

動画が追ってくる仕事は、もう無理だった」


翔子はしんみりと頷き――

しかし数秒後には、いつものテンションに戻る。


「で、なんで赤飯工場を選んだんスか?」


佐井田は迷いなく即答した。


「……ごまは、追ってこないから」


「当たり前だわ!!

追ってくるごま見たら、まずお祓い呼ぶわ!!」


翔子がテーブルをバンッと叩く。


佐井田はふっと微笑んだ。


「それにね、ごまは動画で覚えても怖くないの。

ただ落ちるだけだから。

誰もウインクしないし」


「基準が事件の顔!!

ごまに人格求めるな!!」


翔子のツッコミが休憩室中に響き、湯気が揺れた。


佐井田はほうじ茶を飲み干し、満足そうに言う。


「だから今日も、ごまを振るのよ。

平和だもの」


「いや締めたけど!

その“平和”、世界で佐井田さんだけだから!!」


こうして赤飯工場の昼休みは、

今日もズレとツッコミで平和に過ぎていく。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


佐井田の“動画記憶”がついに本格的に語られました。

次回は、赤飯工場ならではの“あの事件”が登場します。


引き続き、応援よろしくお願いします!


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