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7話 橋姫ガールと海の誘い(前編)

「はあーっ……。や、や、やっっとついたーっ……」

「颯君、お疲れ様」

「こらっ!他人事みたいに言わない。オレ達、ここまで頑張って来たろ……?短い間だったが、学校を出てからこの赤島西臨海公園までの共に歩いてきたこの関係は、まさに一蓮托──」

「……本当にごめんなさい。私がずっと変な様子でいたばっかりに……。さっきも他人事のように接しちゃって……。ただ、ちょっと疲れただけだったの。いろいろごめんなさい……」

「橋立さん、オレね……。……めっっっちゃ悪いことしたって思ってる!!えっ、ホントごめん。急に連れ出したりしちゃって……」


 赤島西海浜公園──。

 本町高から一番近いであろう海浜公園。……まあ、近いといっても電車で40分かかったので、実際にはそんなに近くない。……ちょっとどころじゃない誤算だな。

 ちなみに、40分といえば東京駅から熱海駅までの所要時間とだいたい同じだったな。電車か新幹線かの違いはあるが。

 ここには、JR線と私鉄を使ってやっとこ辿り着いた。運賃は500円払ってお釣りが来るくらい。


 しかし……オレの『人を巻き込んで衝動的に行動する』っていうのは改善しなきゃいけない部分だな。片道40分というのは移動するだけでも普通に体力が削られる。学校終わりの放課後なら尚更のことだ。

 おかげで、オレも、隣にいる橋立も疲れ切ったげんなりした顔をしている。しかし、どんなに疲れていても砂浜と夕日のオレンジ色で染められた海の水面は、デッキの上からでもよく輝いて見えた。

 

 夕日が半分ほど沈んだ、もうすぐ午後6時を迎える6月下旬の出来事だ。


 ──────────


「あー、オレってバカだ。橋立さんの方が疲れるってこと、考えてなかった……」

「……でも、私のためにここまで行動してくれたんでしょ?ここまで一緒に行動してくれた」

「そりゃあ、あんな弱ってる姿見たら……放っておけないだろ?でも、さらに弱らせるような、疲れさせる真似をしたのは良くなかったな」

「いきなり『海に行くぞっ!』って言われた時には、さすがに驚いたけど……。それでも、颯君とここに来ることが出来て、素直にうれしい」

「……うれしい、か。そう言ってもらえて、オレもうれしいよ。ただ、次はこんな風に突発的に行動するんじゃなくて、ちゃんと予定を立ててから行動するよ。……悪かった」


 左隣に立つ橋立に向けて、オレは深く頭を下げる。彼女は一応は『大丈夫』と言っていて怒ってはいないようだが、それでも、いきなり遠くまで連れて行ったことには変わりない。

 橋立は、『頭を上げてくれ』と言わなかった。

 しばらく辺りには沈黙の空気が流れる……と思ったが、波や潮風の出す音でそんな空気はかき消された。

 頭を下げてから『ザァーッ……ザァーッ』と波が寄せては返す音が六度聞こえたところで、オレは頭を上げた。頭を上げた時に、海の潮の匂いが鼻腔をくすぐった。


「別に謝らなくていいのに……」

「そういうわけにはいかないだろう。『親しき仲にも礼儀あり』ってやつだ」

「……っ……!ね、ねえ、下の方に降りてみない?デッキの上から見てるだけじゃ、も、もったいないよ!」


 そう言って、橋立はオレの手をとって砂浜へと続く階段へ駆けていく。橋立がオレに声をかけてから手を引くまでは瞬間的な出来事だったので顔があんまり見えなかったが、なぜか耳たぶが赤く染まっていたように思う。

 

 風が吹く。

 それは、そよ風……というには強烈すぎるものだった。

 この風が、彼女を縛っているもの全てを切り裂いたらいいのに──。

 刹那、そう思いながらオレは橋立と共に階段を下っていく。

 

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