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34話 『元』橋姫ガールと公園デート(延長戦)

2章の最終です!

 公園デートの延長戦の舞台──それは映画館だった。

 『どうせなら、もっと都会のほうで!』という璃世の意見もあり、新宿にある映画館に。場所は新宿駅から近いところ。

 このあたりは本当に都会で、映画館なんて無数にある。休日の昼下がりということもあってか、人がごった返していた。その人混みを抜けると、一気に静かに。そこにあった閑静な佇まいの映画館に入った。


 名前は『新宿シネマ』──。

 新宿ならありふれた名前であろう、そんな映画館。

 雑踏に揉まれることなく、年月を重ねてきたであろう、ちょっぴりレトロチックな映画館。


 人はまばらに点在しているだけ。

 オレたちだけが知っている『穴場』のように感じた。


 改札を出た時から握られた手からは、心臓のドキドキが伝わってきた。

 新しく未知の世界に入り込む緊張からか、はたまたただ照れて恥ずかしいのか──。オレの予想はその両方で、パワーバランスは後者の方が強い。


 こんなオレも、緊張しっぱなしだった。

 こうやって冷静に振り返ることができるのは、時間が経ったから。


 最初は使命感のようなものから、手を繋いだように思う。はぐれたら困ることも多い。……まあ、明日は月曜で学校に行けば会える。

 そもそも、今はスマートフォンという文明の利器も。連絡を取って、待ち合わせればいい。

 でも、イヤだった。離れたくはなかった。


 本当のところ、オレは璃世と一緒に居たいのだ。そんな正義の使命感からじゃない。純粋な気持ちから手を繋いだ。

 オレと璃世は、お互いに彼女と彼氏──恋人の関係。そんな、愛しの恋人と触れていたいというのは至極当然のハナシで、一瞬でも離れ離れになるのいうのはとてもイヤで仕方がなかったのだ。


 今でも、実は緊張している。

 映画館に入って、チケット2つとポップコーン1つを買ったときから、映画を見て、終わって、映画館の外に出てきた現在も緊張している。

 


 今は正真正銘夕方と呼ばれる時間。

 周辺にあるビルのガラスから、夕日のオレンジ色が反射されて映画館の回りを夕日の色で染めている。

 都会のビル街だからこそ見える、とても幻想的な景色。

 璃世の顔は相変わらず赤い。

 昂った気持ちは、夕日を持ってしても抑えられないということなのだろうか。

 

 


「颯君。映画、どうだった?」

「結構情熱的だったよな。……思ったよりも」

「私も、あそこまでとは思わなかった……」


 オレたちが見たのは、青春ラブコメのアニメ映画。

 初めは嫌いだった2人が、劣等感や過去を乗り越えて結ばれる──という内容のもの。主人公とヒロインは高校3年生。

 なんかデジャブだと思ったが、オレたちとはところどころ違うところもちゃんとあったので、きっと偶然だろう。


 その映画は、美しかった。

 人間の繊細な面も、思春期ならでばの不器用な面も描かれていた。淡いタッチの色や柔らかい線描が、2人の温かい関係を如実に表していたと思う。

 

 しかし、ここまでなら『情熱的』だという感想が出ることはなかった。

 情熱的だと思ったのは、主人公とヒロインが互いに求め合って絡み合うシーンがあったから。

 うまーくぼかされてはいたが、下手すれば年齢制限がかかっても文句は言えない代物だった。


 とにかく、付き合いたてホヤホヤのオレたちには刺激の強いものだった。

 軽いキスから始まって、だんだん舌を絡み合わせて──。荒い息づかいに、ギシギシと音を立てて軋むベッド。なんか突く音。唐突に互いの呼吸だけが聞こえるシーン……。

 なんで、この描写があってオレたちが見れているのだろう。映倫は一体どうした。


 まあ、こんなシーンがあってもコメディと恋愛、ギャグとシリアスがしっかりと同居できていたのは、さすが監督の手腕といったところか。『名作』にちゃんと仕上がっている。

 ……この映画の監督は、もしかしたら人間を辞めているのかもしれない。


「なんか私、体が熱くなってきちゃった」

「……オレも同じだ」

「私たちも、いずれあんなことするのかなあ」

「『あんなこと』って、なんだよ」

「颯君、言わそうとするなんて結構ムッツリだね」

 

 苦し紛れに、頭を4回5回ポリポリと掻いてみる。

 その間、璃世は天を仰いでいた。


「『あんなこと』は、たぶんもうちょっと先だな」

「もうちょっと先なんだ。ずっと先じゃない……!」

「……ちょっと期待してる?」

「あの映画を見たあとだよ? ちょっと意識しちゃうじゃん!」


 ほっぺたを膨らませて、かわいく反論している──かと思ったら、急に凛とした顔に。

 自然と、身が引き締まる思いがする。

 一回深呼吸をする璃世。続きの言葉が紡がれたのは、そこから遠くない未来の話。


「『あんなこと』をするときまで──いや、できるだけずっと颯君には等身大でいてもらいたい」

「……そうだな、精一杯頑張ってみるよ」

「颯君が背伸びをすると、私は届かなくなっちゃう。だから、こうして──」


 不意に、左手を引かれた。

 そこから、璃世の桃色の唇がオレのほっぺたに触れる。

 キレイでぷっくりとした璃世の唇が今、オレのほっぺたに。

 

「キスだってできなくなっちゃう」


 一瞬、なにが起こったか理解できなかった。

 璃世の唇は離れてしまったが、感触はしっかりと刻まれている。忘れることは絶対にない。

 当の彼女は、口をもごもごとさせていた。

 いたずらっぽい笑みを浮かべようにも、気持ちが邪魔をしてうまくできていないみたいだ。過去一の顔の赤さを見せるのみ。夕日のオレンジ色には完全に完勝している。

 

「璃世、さん???」

「私、まだ心臓がバクバク……」

「オ、オレだっていきなりのことで──」

「でも、付き合ってたらこれ以上のこともするんだよ? ほっぺただけじゃない。それに『あんなこと』も……」


 やっと、いたずらっぽく笑う璃世。

 そんな彼女に、オレは──


「が、頑張りますっ!」


 としか答えられないのだった。


 ──────────




 沈んでいくことを予感させる夕日をバックに、オレは璃世の手を『ギュッ』と強く握ってみる。

 体をビクつかせた彼女。素直にウブだと思った。……人のことは言えないが。


 これからいろいろなことがあるのだろう。壁があって、でも乗り越えて。その時、璃世が変わらずに隣にいてくれるといいなって思う。

 



 今日のデートは、これでおしまい。

 でも、寂しくなんかない。充実感に包まれている。

 

 かけがえのない恋人とのデートは、灯りつつあるネオンの街並みを見届けながら終わっていく。






 ここまでが2章

 3章へと続く。


次の3章では、お泊まり会が中心の予定です。

お手数でなければ、ブックマークや評価をしていただけるとうれしいです!

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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