30話 『元』橋姫ガールと公園デート(中盤戦1)
つつがなく進行するデートというのは、入園ゲートの手前で告白したことにより存在が消え失せた。
『日本庭園』へと向かう足取りはやけに重い。
ミスをたくさんしでかしてしまった。
小さなミスが何重にも重なって、取り返しのつかない大きなミスになろうとしている。
『好き』と言ってくれた璃世に申し訳が立たない。
でも──彼氏として、彼女である璃世に満足してもらおうと頑張ってるけど、どうしても空回りしてしまう。
気丈に振る舞っているつもりだけど、きっといろいろ外に出てる。
足取りがとにかく重い。
璃世はぴったり隣に付いて歩いてくれているけど、幻滅されてないといいなあ……。
──────────
券売機でのこと。
「は、颯君っ!」
「ん?どうした璃世」
「『シルバー団体』ってやつを選択してるけど、なんか間違ってない??私たち、おじいちゃんおばあちゃん連れてきてないよ?」
「えっ……。あっ!」
「もー、颯君ったらおっちょこちょいさんなんだから」
「元のやつを選択しないと──って、あれ?……どうやって戻すんだこれ」
「え?」
「あれ、どうすんだっけ。……璃世ぇ……やり方、分からないよね?」
「え」
「このままだとそこら辺にいるじいちゃんばあちゃんを誘って入園しなくちゃいけなくなるよぉ……」
「えっとね颯君、一回落ち着こう。大丈夫、そんなことにはならないから。……ねえ、この『取り消し』ってやつを押せばいいんじゃない?」
「とりけし?」
「うん。画面の左上に赤枠の白文字で『取り消し』って書いてあるんだけど。そこから戻れるんじゃない?」
「……全然気づかなかった。ありがとう、璃世」
「困ったときはお互い様。……颯君は私の恋人なんだから、助けるのは当たり前だよ!」
失敗その1、券売機で操作に戸惑う。
深夜までシミュレーションした意味とはなんだったのか。
最終的には、璃世に助けられる始末。
助けてくれたのは素直にうれしいけど……でも、やっぱり『あわあわ……』した姿っていうのは見せたくなかったな。
─────
入園ゲートから歩いて5分くらいのところにあるボートハウスでのことだ。
「ねえ、颯君。……私、目が回りそう」
「わ、わ、悪い!」
スワンボートと手漕ぎボートの2つがあって、後者を選択。池に意気揚々と飛び出していった。はじめこそはうまく漕げたのだが……。
──今になって思う。
スワンボートを選択しておけば良かったと。
「私たち、ずっとグルグル回ってる気がする……」
「うん、回ってる。気のせいじゃない。え、本当にごめんねっ!?」
「ちょっと私に漕がせて」
「う、うん」
漕ぎ手交代。
船が転覆しないように、そろりそろりと璃世のいた場所に移動する。
移動はあんまりしちゃいけないことだと思うが、ちょっと陸から離れていたのでどうしようもなかったのだ。
「……璃世、ボート漕いだことあったの?」
「あったような、なかったような」
「面目ない……」
「そ、そ、そんなに落ち込まないで!」
……璃世は漕ぐのが上手かった。
オレとは違ってスーイスイと進んでいく。ちゃんと行きたいところにも行ける。
シミュレーションとはなんだったのか(2回目)。『百聞は一見にしかず』ということなのか?
ちなみに、水鳥が来ても話は盛り上がらなかった。
「あっ、見て見て!颯君、鳥!」
「ああ、鳥だな」
「うん、鳥だね」
会話終了。
鳥から会話を広げるなんて、傷心しかけのオレにはムリだった。いや、普段通りでも盛り上げることができるか分からないけどさぁ……。
失敗その2、うまく漕げない。
失敗その3、水鳥が来ても会話がウソのように盛り上がらない。
あっ、あと人もたくさんいた。
俺の予想だと、もうちょっと少ないはずだったんだけど……。
『2人でのんびりまったり』っていうのもムリだったな。
─────
休憩先のカフェでも、ハプニングが起こった。
早速だけど失敗その4、会計前の商品を食べそうになる。
「颯君!ストップストーッップ!?」
「い、いきなり──」
「それ、会計前の!」
「…………あ」
セルフサービス方式置かれていた、食べて欲しそうに佇んでいるクロッサン。
何を血迷ったのか、手にとって食べようとしていた。気づけば、クロッサンが目の前に……!
もちろん後払いなんてシステムじゃない。ちゃんと前払いシステムである。
さらに、トングを使うべきところを、直接鷲掴みしてしまった……。
璃世がいなかったら、オレは犯罪者になっていたところだった。危ない危ない──の騒ぎじゃないよな、これ。
続いて失敗その5、コーヒーがめちゃくちゃ苦くて、顔に出た。それで璃世を心配させてしまった。
なんとか無事に会計を終えたオレたちは、空いていた2人席に腰をかける。オレが買ったのは、クロワッサンとブラックコーヒー。璃世はカフェオレとクリームパン。パンの甘くて香ばしい香りが食欲をそそる。
「いただきまーす!」
掛け声と同時に、璃世はクリームパンを手にとって『はむっ……!』っと頬張る。カフェオレもちょっとずつ飲み進めていた。
──オレの彼女さん、何をしてもかわいいな……。
璃世の一挙手一投足が魅力的に映る。
食べる姿も、飲む姿も、口についたクリームをペーパーナプキンで拭う姿まで、何もかもが可愛らしく思えてくる。
そんな璃世を見ながら啜るブラックコーヒーというのは──めちゃくちゃ苦かった。すげぇ苦いのなんのって。
「……颯君、おーい」
「な、な、なんでしょう璃世さん……」
「大丈夫?」
「素直に言っていいですか?」
「うん」
「……大丈夫じゃないかもしれません」
「それ、コーヒー?」
「うん、ブラックコーヒー」
「……飲めるの?」
「頑張れば……」
「飲み物って、本当は頑張って飲むものじゃないんだけどねぇ」
「おっしゃる通り、返す言葉もありません」
「私のカフェオレ、颯君にあげるからそのコーヒーちょうだい」
「えっ、さすがに悪いって」
「颯君のそんな顔を見続けるよりはずっとマシ」
「璃世、コーヒー飲めるの?しかもブラック……」
「……まあ、頑張ればっ!」
そう言って、オレと璃世は飲み物を交換した。
はじめこそは苦虫を噛み潰したような、そんな壮絶な顔をしていたが次第に慣れてきたのかなんてことない顔になっていった。
オレは本能的に『慣れる!』とは思わなかったから、素直にすごいと思った。
璃世は強い。
何度だってそう思った。
ちなみに、これが間接キスになると気づいたのはカフェを出た直後のことだ。
気づいた瞬間、頭のほうに血が急に上がっていく感覚が。たぶん、茹でダコのように顔が赤くなった。
璃世も食べてる途中に顔が『ポッ……』って赤く染まったから、なんだとは思ったけど……そうか、このことだったのね。
──────────
──オレ、こんなにも出来ないヤツだったのか……。
そして日本庭園へと続く道のり。
デートの最中だけど心の内では落ち込んでいる。快晴の空とは裏腹に、ザーザー土砂降りの心の模様。
「あっ、颯君。もうすぐ日本庭園だって!」
たくさんのヘマをしでかしたオレに対してこの明るさ。璃世は天使かなにかなのかもしれない。
この後も、まだまだデートは続く。
これから行く『日本庭園』や『花の丘』、『みんなの原っぱ』では、せめて予定通りに……!
俯きかけの心の内に、火が灯る。
今までのように美しいもんじゃない。
こっからでも必死になってがむしゃらになって、絶対に挽回してやるんだ。
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