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29話 『元』橋姫ガールと公園へのお出かけ(序盤戦2)

 本当の衝撃を受けた時、人は動けなくなることを初めて知った。体が鉛のように硬直したみたいな、そんな質量のある重さを覚える。


 ──わ、わわわ、私もっ……!颯君のことが、だ、だだ……大好きですっ!


 この一言が持つ力というのは、強大なものだった。




 ああ、オレ抑えられなかったんだな。


 体が動かなくても、頭というのはよく働く。

 しかも、より冷静になって状況をジャッジすることができるというのは皮肉なハナシだ。

 体が動かなければ、意味はないのに。


 たぶん、璃世に対して『好きだ』ってことを口に出してしまったのだろう。だから、『私も』なんて言葉を使っている。

 一体どの場面で気持ちが溢れたのかは気になるところだけど、それは気にしてもムダだ。オレが言って、璃世が頭を下げている現状に変わりはない。


 

 今は、入園ゲートの手前にあるケヤキに縋りたい気持ちだ。もっとも、ここからケヤキまでの距離は25mくらいあるし、オレと璃世が揃っているところも見たことはないだろう。

 そもそも、木はただの植物だ。縋ろうにも、木に縋って一体どうするというのか。喋れる木なんて、そんなの聞いたことがない。もし喋ることができても、ケヤキだってこの状況に口をつぐむに違いない。


 頼れるのは、自分自身だけ。

 璃世に、このまま頭を下げさせるわけにもいかない。


 本当の覚悟を、この場で決めなければならない。


 ──────────




「璃世ッ!こ、こっち向いて」


 塊のようになった体に鞭を打って、精いっぱいの力を込めて発声する。想像よりも大きな声を出してしまって、辺りに声が響く。

 周囲からの生暖かい視線がオレと璃世を包み込む。あまり動かせない体でも、しっかりと敏感に感じ取れるのがむずがゆい。


 そして、ちょっとキョドってしまった。 

 『こっち向いて』と言っておきながら、自身が璃世と目を合わせられていない。

 しっかりしろ、オレ!

 


 上目遣いでオレのことを見始めた璃世は──とてつもなく魅力的に見えた。

 今この瞬間だけは、この『魅力的』と感じる気持ちと溢れた『好き』という気持ちだけで体を構成化していると思う。


「えっと……あの、璃世……。あの……」

「颯君、ゆっくりね」

「うん……」


 彼女の目は一点、オレのことを見つめてるだけ。

 オレも、彼女のことしか視野に入っていない。

 互いの息づかいが荒くなるのを感じた。

 『ゆっくり』という言葉に反して、璃世も動きが忙しなくなっていく。

 





 予定調和に見えても、その道のりを順調に辿るのは簡単じゃない。

 そんなこと、分かってた。

 もどかしいこの一瞬にすらも、きっと意味はある。 

 溢れんばかりの気持ちで、辿った道に大輪の花を咲かせよう。

 

「──璃世さん」

「はい」

「す、好きです。大好きです。も、もしよかったら……オ、オレと──付き合ってくださいっ!」






 凝り固まった手を、ぎこちない動きで璃世の両手がある方に持っていく。

 『ギュッ』っと握った彼女の両手から伝わる指の細さや繊細さ、籠もった熱──。

 告白の瞬間こそはちゃんと璃世の目を見たが、それ以降は目を見られずに手ばかり見ていた。


 ──ちゃんと、璃世の目を見ないと……!


 もう一度、吸い込まれるような璃世の瞳に釘付けになってみる。

 彼女の口から言葉が紡がれるのは、そこから遠くない未来の話だった。






「颯君。私は今までも、そしてこれからもあなたのことが大好きです。──私でよければ、お付き合いしてほしいです」


 止まっていた時間が、確かな質量を持って動き出したように感じた。

 時間は変わらず動いているはずなのに、不思議な感覚だ。


「璃世さん、本当にいいの?」


 恐る恐る尋ねてみる。

 そんなオレにも、璃世は優しく微笑みかけてくれた。


「いいに決まってる。てか、璃世さんってちょっと照れる。いつもは璃世だったから……」

「ご、ごめん」

「『ごめん』だなんて言わないで。ちょっと初々しく思っただけだから」

「初々しい……?」

「颯君は人気者だったから、今までたくさんの女の子たちに囲まれてたじゃない?その颯君が、私の隣を歩いて、そして告白して……。告白も決して慣れてる感じじゃなかったから、初々しくて、新鮮で」

「そりゃあ、初めてなんだから……」

「だから、純粋に気持ちが伝わってきた。颯君、本当に私のことが好きなんだね」

「ああ、好きだよ。大好きだ」


 握っている両手から心臓が跳ねるような、そんな感覚がした。


「何度だって言う。大好きだ、璃世」

「…………照れるなー、でもとってもうれしい。ねえ、颯君」

「……なんだ?」

「私も大好き。これからもよろしくねっ!」


 高らかに宣言する璃世の表情というのは、燦然と輝きを放つ太陽よりも眩しかった。

 ほかの人には見せない、オレだけに見せる表情。

 特別で大切な人の笑顔が、こんなにも胸を撃ち抜かれるような、そんなトキメキをもたらすとは思いもしなかった。


 


 まだ入園ゲートの前。見えるケヤキすらもまだ距離がある。

 お出かけ──いや、デートはまだまだ序盤なのだ。



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