27話 『元』橋姫ガールと公園へのお出かけ(前哨戦)
公園デート編の開幕──。
日曜日の昼下がり。現在の時刻は午後1時43分。快晴。
夏の暑さはさらなる盛りを見せ始めた。ガンガンと地上に降り注ぐ日差しも、まだ本気を見せていないようだ。
7月の上旬というのにも関わらずこの調子を見せつけられたら、これからの夏の台頭を予感しないほうが珍しい。
心なしか、家を出たときよりも暑くなっているような気がする。
お天気アプリを覗いてみると、ここら周辺の気温というのは正午から変わっていないことを示していたが、オレにはそれが本当だとは思えなかった。データに逆らおうとするなど、愚の骨頂なのは頭では分かってる。
きっと、これから起ころうとすることを体が感じて昂ぶっているんじゃないのか。
そうじゃないと、たぶんオレは病院行き。病気という爆弾を抱えてるなんて冗談じゃない。
どれもこれも、やたらめったら暑く感じるのは璃世とのお出かけが待っているからだ。
今日は待ちに待った璃世とのお出かけの日。
たぶん、デートではない。……だって付き合ってないんだし。
金曜日の夜に、『もしよかったら、今度お出かけしませんか?』という相変わらずの敬語でのメッセージを送ったところ、『いいよー。どこに行くか決めてるの?』との返信が。
そこからトントン拍子に詳細が決まっていった。
場所すら考えていない状況でメッセージを送ったため、まずはそこから。次に集合場所、集合時間……。
お互い、お昼ごはんを食べてから集合することも決定。だから、オレは家の最寄り駅で立ち食いそばを食べてきた。今日これからの、オレの血となり肉となるお昼ごはん。冷たいかき揚げそば、480円なり。
そんなこんなで、オレは集合場所の本町駅北口に。
いつも学校に向かう時には南口を使っているので、北口にいるのはなんか新鮮な気持ちだ。
不安と希望を抱いた、そんな新入生のような気分にもなりながら改札を抜けた。
公園前の広場には、バス停やら商業施設やらがチラホラと。今日が日曜日ということもあってか人もそれなりにいる。
辺りをを見渡してみると、見覚えのある女の子の姿。……いつぞやの、2日前金曜日の蓮太じゃないぞ。そもそも、蓮太は男だ。性転換したなんてハナシは聞かされてない。
その女の子は、璃世に間違いなかった。
すぐに駆け寄る。感情の赴くがままに、駆け出す。
「璃世ッ!お待たせー。……待った?」
「あっ、颯君。全然待ってないよ。今来たところ」
「そ、それならよかった……」
集合時間は午後2時ちょうど。……お互いに早め早めの行動を心がけているみたいだ。
璃世の顔をジッと覗いてみる。
この暑い中でも涼しい顔で、クールな雰囲気を醸し出している。金曜日までとは違う彼女の姿が、そこにあった。
この雰囲気というのは、本町橋での初対面の時や、『妬ましい……』連呼時の橋姫っぽさを感じさせる。もっとも、それは雰囲気だけで言動は柔らかいものになっている……はずだ。
「……緊張してる?」
「まあね。やっぱ男の子とお出かけは緊張する。颯君となら、尚更緊張……」
「実はオレも緊張してる。璃世となら尚更……」
……。
…………。
璃世と2人して黙りこくってしまう。
オレがリードしなくちゃいけないのに、緊張がどうしても先立って仕方がない。
気持ちを素直に伝えてみても、緊張するものは緊張するのだ。
女の子と出かける経験はそれなりにあった。
でも、こんなに緊張するのは初めてだ。
好きな人だからか、それとも──。
「お互い緊張してるってことが分かったし、気楽にいこう。璃世は服装もバッチリかわいいし、大丈夫だって」
「かわっ……!?」
緊張している中でも、そう無意識に思うだけに留まらず、口に出すほど璃世の私服はかわいい。
制服姿の璃世しか知らなかったので、尚のこと新鮮だ。
青空に似合う、淡いブルーのストライプ柄の半袖シャツワンピース。
腰のウエストリボンもシャツワンピースと同じ色で、一体感を生み出している。キツくならない程度に巻かれているようだが、それでもスタイルの良さが際立っていた。
美少女っぷりはいつも通り。見てるだけでドキドキしてしまう。意識しないと、ポロッと『気持ち』が溢れてきそうだ。
胸の辺りまであるダークグリーンの色をした髪は、今日はウェーブがかかっている。太陽の光に照らされて、明るいグリーンを全身に纏ってる璃世がそこにいた。
ブラウンのサンダルや、右肩にかけられたベージュの小ぶりのショルダーバックには汚れの一つもない。
純粋な黒の瞳は、真っすぐとオレのことを捉えて離そうとしない。
次第に、璃世の顔が赤くなってきた。……夏の暑さのせいじゃないのは明白か。まあ、なんでもかんでも太陽さんのせいにしちゃ悪いもんな。
ここまでの思考時間、3.7秒。
「颯君ッ!い、行くよ」
その1.2秒後に繰り出された璃世の言葉。
照れを隠そうとしているのか、強気な口調だった。
ところどころ赤に染まっているのは、まだ隠せていない。体は正直だ。
この4.8秒も、人体にとっては重要な一瞬だと思いしらされる。
そして、オレが璃世に連れられる格好になった。
繋いだ璃世の左手からは、脈打つ鼓動や体温がひしひしと伝わってくる。
──駅から目的地の公園までは15分。オレ、耐えられるかなあ。
悶々としながらも、お出かけは始まったばかりだ。
オレの、璃世に対する告白の旅は出発したばかりなのだ。
お手数でなければ、ブックマークや評価をしていただけるとうれしいです!!!




