25話 『元』橋姫ガールと回顧録(後編1)
後編は2つに分割してます。この25話はその前半部分です。
「颯君。……ほんッッッとうにごめんなさいっ!」
「別にそんな謝らなくても……。もう過ぎたことだし」
「颯君はそう言っても、やっぱり私は抱え込んじゃうよ!」
「うーん、どうしたもんかねえ……」
昼下がりの金曜日の学校──。
窓から差し込む日差しが痛く感じるようになった今日という日に、璃世は慌てふためいていた。
あと2つの授業を頑張れば念願の休みといったような頃に、彼女の渾身の謝罪が辺りに響く。
璃世が謝っていること──それは、『ハヤテガールズ』の解散についてだ。
オレには、『謝るのは辞めてくれっ!』と全力で言えるほどの体力は残っていない。早朝4時の杏樹の言うとおり、はしゃぎすぎたツケが回ってきているのだ。
なので、こうして璃世の謝罪をほとんど素直に受けるしかない状況だ。
──もともとハヤテガールズという、オレを取り囲む女の子集団があった。その数はざっと10人。だいたいクラスの女子の半分くらいだ。
クラス内だけでなく、クラス外にもオレのことを取り囲みたかった女子も多かったというハナシだが、まあ、そんなことを今になってウジウジ考えても仕方ない。
そのハヤテガールズが、昨日解散状態になった。
きっかけは、璃世がクラス女子リーダー格の寺屋茉里になじられたことが始まり。策謀なのかは知らないが、その後には『はやて君のところには行かないで私のとこ集団!』などと命令を出したらしい。
だから、ハヤテガールズは減った。
昼休みになっても集まることのないハヤテガールズに違和感を覚えた璃世が、『どうしたの?』と聞いてきたので昨日までの出来事を話したところ、璃世は顔色を変えて謝ってきたということだ。
「なんかみんな、颯君のこと好奇な目で見てるし……。本当になんとお詫びしたらいいか……」
……実は、璃世には伝えていないことがいくつかある。
1つ目は、オレが璃世になじられたことをメッセージを見せられて知ったことだ。
璃世には『クラスメイトの1人からそんなようなことを聞いた』という風に誤魔化している。女子グループに、そしてクラス全体に知れ渡っているのを知るのはあまり気分がよくないからな。
2つ目は、ハヤテガールズの減り方だ。璃世は、『一気に全滅した』と思っているが、そうじゃない。
全滅したのは確かだけど、一旦3人になってから誰もいなくなった。
3つ目は、オレにとっても重要なハナシだ。これは独りよがりで隠しているといっても過言じゃない。
それは、オレの覚悟表明だ。
璃世がなじられたことを知って、居ても立ってもいられなくなってやったものでその内容は永遠の秘密。
璃世の置かれてる状況をバラしてしまったし、その後の『好きと言っていいのかもしれない』発言。これだけは知られるわけにはいかない。
こんな形で璃世への気持ちがバレることだけは、何としても避けたいのだ。
「なんか颯君だけじゃなくて私も見られるような気がする……。隣の席だからかなぁ……」
うん。絶ッッ対に気のせいじゃない!?
そりゃあ、みんな見るよ気になるよ。
だって、自分で人気者っていうのもなんだけどさ。こんなモテモテの奴が一切彼女とか作らないで、みんなが悪戦苦闘してる状況。
そんな中、教壇に立って『好き』とみんなの前で宣言させるほどの、人気者をトリコにする本命ヒロイン。
みんな気にならないはずがない!オレだって気になっちゃうもん。
「〜〜〜っ!ごめん。ごめんなぁ、璃世」
「な、なんで颯君が謝るのっ!謝るべきは私のほうで──」
「おーい、なに2人とも謝り合いしてるのー?」
璃世との謝り合いに発展しそうなところに割って入ってきたのは、元ハヤテガールズの一員の立花陽菜。彼女の醸し出す陽気な雰囲気は太陽よりも眩しくて、それでいて穏やかなものにしてくれる……ハズだ。
「ねえ、これって『どっちも悪くてどっちも悪くない』ってことにはできないの?」
「『ごめん』の言い合いは見てる私たちにとってもキツイものがあります……」
あとは辻堂文と鳴門紬の2人。どちらも陽菜と同じく元ハヤテガールズだ。最後まで残ってくれた3人が、この場に一堂に会している。
「璃世ちゃんはそんな気に病むことないよねー!」
「まあ、なるべくしてこうなったと言った方が正しいかも。たぶん時間の問題」
「橋立さんはもちろん、モテギ君もそんなに気にしないほうがいいと私は思いますっ……!」
3人の励ましに、璃世は素直に『ペコリ』と頭を下げる。
「みんな、そう言ってくれてありがとうね」
心なしか、声色が明るいものになった。
オレができるだけ聞いていたい、そんな声の様子だった。
「てか、ハヤテェー?璃世ちゃんに伝えてないことあるよね?」
ドキッ。
心臓が飛び跳ねる感覚がした。
その擬音が頭を反芻するたびに、追い詰められたように感じてしまう。
「確かに……。ちょっと会話が聞こえてきたんだけど、別に言ってもよさそうなところも省いちゃってた気がする」
「私も、もうちょっと言ってたら橋立さんもこんなに謝らなくてもいいのかなって気がして……」
「あっ!もちろんこれはハヤテ自身が決めることだからさ、私たちがとやかく言うことじゃないんだけど……。なんかごめんねっ!」
至極当然、ごもっともな意見だ。
これに対して、真っ先に口を開いたのは璃世だ。オレじゃない。
「私も、なんとなく『隠されてるな』って感じるところはあった」
「璃世、ごめ──」
「でもね、こう思うの。『これでいいんじゃないか』って。颯君は私のために、私のことを第一に考えて行動してくれる人。今隠されているなら、きっとそれが正解なんだよ。ムリに聞き出さなくてもいい。私は……颯君のことを信じてるから」
お淑やかな顔で見つめてくる璃世に、オレはいつも通りときめくしかなかった。
しばしの静寂。その後に3人とも同じようなことを言ってくるとはオレも、きっと璃世だって予想してなかったと思う。
「愛だねー!」
「愛、ね」
「これが本当の、愛……」
3人とも、目を煌めかせて璃世に言う。
当の璃世は、堪らなく恥ずかしくなってきたのか顔を『パッ!』っと伏せてしまった。
きっと、全身が熱くなってる。
『プシューッ』と蒸発する音も頑張れば聞こえてきそうだ。
微かに覗かせる耳たぶは、どっちも赤に染まってる。
その隙に3人が詰めかけてきて、コソコソと話しかけてきた。
「昨日みたいな公開告白をやってのけて、璃世ちゃんを幸せにしなかったらハヤテでも許さないよっ!」
「ハヤテ君は愛されている。……橋立さんのこと、泣かせたらダメだよ?」
「ううぅ……。聞いてるこっちまで照れてきます……。お似合いの2人だと思いますっ!」
小さな声量だが、確かに託された。
相変わらず顔を伏せたままの璃世に向かって微笑み、改めて決意と覚悟を胸に抱くのだった。
璃世のことは、オレが幸せに──。絶対にだ。
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