表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/34

19話 橋姫ガールと書道部(後編)

「………………はい。橋立です。……撫子ちゃん?」


 机に置かれた撫子のスマホは、璃世の声によって振動している。

 スピーカーになっていて、璃世の声が狭い準備室全体を揺らす。



 なんともまあ、弱々しい声だ。

 こんな声、できるなら聞きたくなかった。

 撫子のいる手前、電話越しでも元気だということを示そうとしているみたいだが、ムリがあるのは明らかだ。

 璃世のこんな声を聞いたことがないのだろうか。撫子は一瞬顔を強張らせた。


「はい、撫子です。すみません、急に──」

「おいっ璃世、聞こえるか!オレだ、茂木颯だ!!」


 居ても立ってもいられなかった。

 あんな声を聞いてしまったら、余計に。


「えっ、は、颯君……?なん、で……」

「オレ、璃世が寺屋になじられたって聞いて、じっとしてられなくて……。学校も休んでるから、心配で心配で……」

「ごめんなさい、颯君。心配かけて。私、大丈夫だから……」

「本当、か?」

「ええ、本当。明日には学校に行くつもりだから……。今日はちょっとした体調不良。だから、私はだ……大丈夫」


 声が揺らいだ。

 沈黙もあった。

 ウソをついているのは明白だった。


「ウソ、だな」

「ウ、ウソじゃない……!」

「じゃあ、なんで涙声なんだよ」

「そ、それは……」


 言葉に詰まる璃世。


「──颯さん、ちょっと……」

「なんだ?」


 オレを押し退けるような形で、撫子が自身のスマホの正面に立つ。


「璃世先輩、聞こえてますか。颯さんは先輩のことをずっと考えています。先輩のためだったらムチャなことでも、賭けだってします。……それだけ、先輩のことに夢中なんですよ。こんなに璃世先輩のために行動できる人なんて、そういませんっ!」


 威勢のいい言葉を並べる撫子に、オレも続く。


「璃世、困ってるなら遠慮なく言ってくれよ。オレは力になりたいんだ。困ってる時に何もできないってのが一番辛いんだよ……。オレだけじゃない。誰だって辛いんだ」

「璃世先輩、本当に助けてほしいなら言ったほうがいいです。……先輩と連絡先を交換した私が言うんですよ?部活で先輩にベッタリの私が言うんですよっ?大丈夫、迷惑じゃありませんから」


 会話が途切れた。

 少しの沈黙の後に、再び室内を揺らしたのは璃世の声だ。


「2人とも本当にありがとう。私は大丈夫だ、か──」




 ……ああ、ダメか。

 結局、内に秘めた本心はひた隠しにしたまま……。











「──じゃない」

「えっ?」


 思わず声が漏れる。




「助けて。お願い……」




 聞こえた。

 確かな意思が、ハッキリと伝わった。


「言ってくれてありがとう、璃世。それが本当の気持ちだな?」

「……うん」

「……家に行っていいか?璃世と直接話したい」

「えっ?」

 

 ……普通に驚かれた。

 そりゃそうだ。

 撫子に一度は引かれたことが、璃世に引かれないわけがないのだ。


「電話越しだとできることも限られるだろ?だから、オレは璃世の家に行って話したいんだ」

「璃世先輩。言っていいと思います。颯さんなら、絶対ぜーっったいに悪いようにはしないですっ!」

「…………私の家、ちょっと遠いけどいいの?」

「璃世のためならどんなところも行く」


 撫子のスマホに対して正面に立って、堂々宣言する。


「──メゾン・デュノールっていうマンション。そこの715号室。道順は……ごめんなさい。自分で調べてくれると助かる」

「ありがとう、それで十分だ。すぐに行く」

「私、信じて待ってるから……」


 そう璃世が言い残して、電話が切れた。


 ──────────




「颯さん、行ってあげてください」

「……撫子さんは行かなくていいの?」

「私はこれから部活があります。さっきも言った通り、今日が活動日なんですよ。そして、サボることを璃世先輩は良しとしないです。……きっと私が行ったら苦言を呈されますよ」


 そこには、寂しそうに微笑む撫子の姿があった。

 俯きかけの横顔からは、憂いのある瞳を覗かせる。


「颯さん」

「……なんだ?」

「アナタに惹かれる人が多い理由が分かりました」


 寂しそうな雰囲気はそのままだ。

 それでも撫子はオレに言葉を紡ぐ。


「颯さんは人のために行動ができます。それが当人にとっての支えになって、どれだけうれしいか……。私には分かります。思えば、私が蓮太さんに惹かれたのもそんなところでした」


 撫子は、オレにとびっきりの笑顔を向ける。

 その姿はオレに対しても、撫子自身に対しても励ましているように見えた。

 

「ハッピーエンドを迎えたと喜ぶのはまだ先です。それは璃世先輩を助けてから。でも、アナタなら出来ます。……私が言うのだから、間違いありません。全てが解決したら……2人で書道部に顔を見せに来てくださいねっ!」



お手数でなければ、ブックマークや評価をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ